第52回「小説でもどうぞ」選外佳作 五度目の成功 太野咲


第52回結果発表
課 題
ゲーム
※応募数361編
選外佳作
五度目の成功 太野咲
五度目の成功 太野咲
彼氏の部屋に初めて行ったときに、子供の頃に大好きだったテレビゲームのソフトがあるのを見つけた。
「わあ、これ好きなの!? 私も子供の頃、すごく好きだったー。うわ、DSもある!」
うっかり興奮して大声を出してしまった。でも今でもDSを持っている人なんてなかなかいない。私も、子供の頃は好きだったが、今は持っていないし。
「俺も好きなんだ。やってみる?」
「いいの? うれしーなつかしー」
促されてクッションに座り、ゲームを起動させる。ピコンピコンと電子音が鳴り、DSが動き出す。おどろおどろしいオープニングが始まる。
「このゲームさ、弟が友達から借りてきてて。それで私も借りてやったらすっごくおもしろくてさー。その年のクリスマスプレゼントにお願いして、手に入れたんだよね」
「ホラーゲームだから、好き嫌い分かれるけど、あきちゃんは好きなんだね。趣味が一緒でうれしい」
隣に座った彼もにこにこしながらDSの画面を覗き込む。確かに、ホラーゲーム好きって、なかなかいない。いないし、あんまり女の子は好きでも言わなかったりする、と思ってる。
「この前、一緒に見たホラー映画もよかったよね」
彼が言う。そう、彼とはホラー映画を一緒に見に行けるのだ。友達を誘ってもなかなか行きたいと言ってくれないし、かといってさすがに一人で映画館にホラーを見に行くのは怖い、というのもあって、彼と行けるのはすごくうれしい。これまでの彼氏も、ホラーよりもアニメとかアクションなら一緒に行ってくれたけど、ホラーを喜んでくれた人はいなかった。
「ね。今度うちでゾンビもののドラマ見よーよ。海外ドラマでおもしろそうなの見つけたんだ」
なつかしーと言いながらゲームを操作し、また別のホラー作品を見る約束を取り付ける。趣味が共有できる彼氏っていい。
「あきちゃんは、もともとホラー好きだったの?」
「うーん、そうだね。小学生の時にテレビでホラー映画をやってて、すっごくはまってさ。そしたら、弟がこのゲームを誰かに借りてきてくれて。それでホラーゲームにもはまってって感じかな。弟はゲームをすごくするけど、私はそこまででもないから、ホラーゲームがあるとか、当時は知らなくて」
うわ、こわ、あ、ここ出てくる! とか言いながらゲームを進める。なつかしくはあるが、忘れていることもたくさんある。
「そうなんだ。俺も、このゲーム、後輩に貸したことがあってさ」
「後輩?」
「うん。その後輩に俺の家でやらせたら、怖いからいいって言ったのに、帰るときに、やっぱり貸してほしいって言ってさ。あの頃ソフトの貸し借りってけっこうしてたから気にしないで貸したんだけど。そのあと、ねーちゃんがすげーはまってたって、後輩、言ってて」
「へえ?」
話が見えてこないが、別の女の話だ? とDS画面から視線を彼の顔に移す。彼もなぜかじっと私を見ている。続きを促すように首を傾げると、彼が口を開いた。
「初めて会ったときも、映画、後輩に誘われたんだよね」
「……あ、あのとき」
彼と付き合うきっかけとなったのは、あるホラー映画を見に行ったことだった。弟が珍しくホラー映画を観に行くと言っていたが、用事ができたとかで、すでに買ってあったチケットをもらって代わりに私が行ったのだ。そのとき、一緒に行く約束をしていたのが、彼だった。仕方なしに隣の席に座り、一緒に見た。それでホラー好きなんですかとなり、今度別の映画も一緒に、となり、そのうち付き合うことになったのだ。
「そういえば」
彼がまた何かを思い出した。
「なんか知らんけど、中学のとき、駅前のほら、個別指導の。あの塾も後輩に勧められたことがあったんだよね。なんで後輩が塾を勧めてくるんだよって不思議だったから、よく覚えてる」
「塾……あーあの駅前の……私、通ってたとこだ。個別のほうが自分のペースに合ってる気がしてさ。でもそういえば、弟に、駅裏の大手の塾がいいんじゃない、先輩がいいって言ってたよとか言われたな」
「習熟度別でクラスが分かれてるとこだろ? 俺が通ってた」
「………中学入るとき、弟に陸上部勧められた。意味わかんなくて入らなかったけど」
「俺、高校もなぜか北高勧められたんだけど、後輩に」
「私の第一志望北高だった。なぜか弟は西高勧めてきたわ」
「……」
「……」
じっと見つめ合う。お互い、何かに気付き、今にも笑いそうに顔をゆがめた。
「俺ら、健吾に踊らされてねえ?」
「えー……ゲーム借りたの、小学生だよ」
「今二十歳」
「えーっと……弟はうちらが付き合ってるの知ってるのかな」
「どうだろう。でも勘づかれてそう」
「はあ。今頃、ほくそ笑んでるってことかな」
「俺とそんなに兄弟になりたかったのかな」
「……はは、プロポーズだ」
デロン
放置していたDSから、ゲームオーバーの音が響いた。
(了)