公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

第51回「小説でもどうぞ」落選供養作品

タグ
小説
小説でもどうぞ
投稿する
結果発表
編集部選!
第51回落選供養作品

Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第51回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!

今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。


【編集部より】

今回は増田肉うどんさんの作品を選ばせていただきました!

主人公の宇田川樹は32歳無職で実家住まい。医者の家系で自身も医学部に進学したが、医師の重圧に耐えきれず挫折してしまった。

家族が家にいない間に、淡々と家事をこなす日々。とある日、リビングで寝てしまい、帰宅した父と鉢合わせてしまうが……。

後半からの急展開は、ぜひ読んで確認してみてください。

惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。

 

課 題

寄生

ハッピーバースデイ 
増田肉うどん

 二人分の朝食の用意が終わったタイミングで物音が聞こえた。
(もうそんな時間か)
 俺は逃げるようにして階段を上がり、二階にある自室に戻った。食パンをかじりながらスマホで予定を確認する。今日は月曜日、一週間分の食料や切らしている日用品をネットスーパーで注文しておかないと。もちろん掃除と洗濯、晩御飯の準備も待っている。

 なんとなく点けたテレビから「子ども部屋おじさん」という言葉が聞こえた。家事をこなしていると言っても、32歳の無職が実家に寄生している時点で「子ども部屋おじさん」と言われても仕方ない。
「こんな生活を続けてどれくらいになるだろうか……」

 鍵付きの引き出しを開けると中には20年分の日記。表紙には几帳面な字で「宇田川樹」とある。この日記を読めば宇田川樹の半生、そしていつどこで道を過ったのかがわかると言っても過言ではないだろう。

 宇田川家は代々続く医者の家系。祖父から医院を引き継いだ父は、当然長男にも同じことを求めた。しかし医者の息子だからといって医者に向いているとは限らない。一浪してなんとか医学部に進学し臨床実習に進むも、そこで致命的な問題が見つかった。
 自分の判断1つで、人の命が左右されてしまう。その重圧に耐え切れなかったのだ。

 医者の道を挫折した長男に家族は何も言わなかった。ただそれは優しさではなく諦め。医学部を辞めた1年後に、6歳下の弟が極めて優秀な成績で医学部に合格していた。完璧な後継者が現れた以上、出来損ないの長男はもう不要だった。

 両親が仕事へ出かけた後はいつも皿洗いから始める。最初は手間取っていた家事も、今では何も考えなくても一通りこなせるようになっていた。
 家事をするようになったのは家族の中で役割がほしかったからか、それとも寄生している罪悪感から逃れたかったからか。いや、単に──

 ポケットの中のスマホが震えた。
『来週の土曜日までにスーツをクリーニングに出しておいてくれ』
 挨拶も前置きもないひどく事務的なメッセージ。アプリには「父」と登録してあるが、家族らしいやり取りはほとんどない。それは「母」も同様。きっと家族にとっては役に立つ寄生虫くらいの存在なのだろう。

「クリーニングって取りに来てもらえるのかな」
 調べると、配達員が自宅まで来てくれるサービスもあった。助かったと、息を吐く。直接、言われたわけではないが、家からは極力出ないようにしていた。できれば家族とだって顔を合わせたくはない。両親も寄生虫の存在なんて目に入れたくないだろう。
 カレンダーアプリで配達の日時を考えていると、ケーキのマークが目に入った。
「そうか、明日が誕生日か……」

 目を覚ました時、窓の外はもう暗かった。久しぶりにお酒を飲んだのがマズかったのかもしれない。いつの間にかリビングのソファで眠ってしまったようだ。
 夕食は温めれば食べられる状態にしてあるので問題はない。あるとすれば──

 カチャリと玄関の鍵が開く音がした。父が帰って来たのだ。俺は慌てて階段へ向かうが遅かった。廊下で鉢合わせしてしまう。写真で見るより大柄な男からは知らない匂いがした。
(俺は毎日、この人にご飯を作っていたんだな)
 なんて場違いな感想が頭をよぎる。

「……おかえり」
 と絞り出すも声になったかどうかはわからない。男は何も言わず、俺の脇を通り抜けていった。その目には何も映ってなかった。たとえ相手が虫でも、眉のひとつくらいはひそめるだろうに。

 部屋に戻り、後ろ手で鍵を締める。込み上げてくる笑いを手で抑えた。日記の一節を思い出す。
『母は親戚に樹は東京で医者とは別の仕事をしていると言っているらしい。ならここにいる僕は何だ? 透明人間か?』
「そうだよ。お前は透明人間だったんだ。だから入れ替わっても気付かれない」
 今度は声をあげて笑った。

 逃亡生活のすえ、金の尽きた俺はこの家に庭の窓から侵入した。誰もいないと思っていたので、二階から生気のない青年が現れた時は驚いた。それ以上に驚いたのが青年の背格好と顔つきが俺とそっくりだったこと。
 青年を黙らせ、床に転がした後、俺は家の物色を再開した。彼の部屋で見つけたのは例の日記帳。その日記から彼が置かれている状況を知った。

 宇田川樹になり替わり、この家で生活する。
 我ながら馬鹿な考えだったと思う。しかし当時の俺はそれほど気の休まることのない逃亡生活に疲れていたのだ。とにかく安心して眠れる場所がほしかった。

「だけど、まさかこんなに上手くいくなんてな」
 樹がアナログ派の人間だったのも助かった。ご丁寧にも生活に必要なパスワードの類はすべて一冊の手帳にまとめられていたのだ。おかげで快適な生活を送らせてもらっている。
 俺は窓の外、透明人間が眠っている山に向けて缶ビールを傾けた。
「ハッピーバースデイ、宇田川樹」
 もちろん俺に続く者は誰もいなかった。

(了)