ヤマモトショウ、実はミセスと同時期デビュー!ふぇのたす「スピーカーボーイ」で感じた作曲の「プロの仕事」のありかた 【第7回 創作はいつまで続くのか】


ラストチャンスの覚悟が生んだ「スピーカーボーイ」
彼女の歌声も自分が今まで接したことのないタイプだった。おそらく世の中の方が「ヤマモトショウの音楽」として一番にイメージするのは、このみこの声を生かすために生まれた「かわいい音楽」であろうから、今となっては意外に思われるかもしれない。
当時言語化できていたのは「アニメソングを歌っていそう」というような印象くらいだったかもしれない。それにしたって、具体的にどんなアニメとかそういったことをイメージできていたわけではない。ただ、自分がバンドをやってきて出会うタイプには明らかに該当しなかったので、なぜ我々が引き合わされたのかもその時点ではよくわからないかった。この声を生かして、「かわいい」を軸にした音楽にできる、と宣言することになるのはもっと先のことだ。
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ただその「出会ったことのなさ」に自分自身は可能性を感じていた。「この可能性をなんとかするのが、自分にとって音楽でプロになることのラストチャンスである」と考えることにした。この声を活かすことできなければ、自分には音楽でやっていく力はなかったと考える、と言い換えてもいいかもしれない。
そんな決意をそのときにして、本格的に楽曲作りをはじめた本当に最初期にできた曲が「スピーカーボーイ」である。
上記のような覚悟をして曲を作り始めたのだが、その覚悟とは裏腹にこの「スピーカーボーイ」という曲は本当にするっと一筆書きのようにかけたことをおぼえている。そして、できた瞬間に「これはいい曲だし、みこの声に絶対に合う」という確信があった。
実際に、仮歌をみこに歌ってもらったもを聞いてさらにその確信は自分の中で深まったのだが、さらに関係者の反応もこれまでとはまったく違った。
楽曲を聴いたレコード会社のスタッフからも、これまでとはまったく違う熱量でのレスポンスがあった。会社にいったときにすれ違った社員の一人から、デモ音源の感想を熱く語られたのをよく覚えている。
その時の様子を思い出してみると、そもそもまず音楽のリスナーとして「いいと思っている」という顔をしていたのと同時に、これを「商品として売っていく」イメージの話を具体的にし出したという感じだ。
実際に、この楽曲のデモをつくってからほどなくして、メジャーデビューを前提とした育成契約をレコード会社と行い、そこから2年後にふぇのたすはユニバーサルミュージックからメジャーデビューをすることになる。ちなみにこのときちょうど同じ会社で育成契約をして、ほぼ同じタイミングでデビューしたのがMrs.GREEN APPLEだった。同じところにいたので、彼らのその頃のデモ音源も聴かせてもらう機会があったのだが、(もちろんこれほどまでの大スターになることは予想できないにしても)これは人気が出るだろうな、と感じるものだった。
いずれにしても「これだ」という曲ができれば、本当にその一曲で状況が変わってしまうということを、リアルに実感することになった。
偶然的な要素は多くあれど、この時に感じた「プロとして通用する音楽」を作る基準というのは今にも生きているものだ。
作詞作曲の「プロ」の仕事は自己主張ではない
少なくとも自分は今、自分の音楽を発信するミュージシャンである前に、シンガーやアイドルなどのために楽曲をつくることが仕事となっている。仕事になっているかどうか、というのはつまり求められるものに応えられているということだろう。私が自分の好きな、自分がただ作りたい曲を作っているだけでは、それは必ずしも実現しない(たまたま噛み合う運の良いパターンもあるが)。
非常にドライにいえば、世に出ている私の曲は「頼まれて」そうつくったものであって、私の自己主張などでは決してない。もちろん、まったく思ってもいない、考えてもいないようなことは歌詞や曲にもできないし、何か嘘を言っているというようなことは決してない。そういったものの中で、歌う人、表現する人がこれから背負うべき楽曲をつくるのが「プロ」の仕事であって、その最初の感覚を掴めたのが「スピーカーボーイ」だったというわけである。
さらにもう一つ重要な出来事がこのとき起こっていた。前述したとおり、ボーカルのみこはまだその時点ではこのグループへのモチベーションがそれほどあったわけではなかった。しかしこの一曲が生まれたことによって、「このバンドでやってみよう」と彼女が決意することになった、というのはのちに本人からも聞くことになる。つまりスピーカーボーイが生まれなければそもそも我々のふぇのたすでの活動もありえなかったというわけだ。
しかし、ここから長い時間私はあるひとつの悩みを抱えることになる。今わたしがつくっているものは、私の自己主張ではないが、ふぇのたすの頃はそれでも自己主張だったようにも思う。つまり自己主張がないように思われる「プロとしての楽曲作り」は果たして「創作」なのか、ということを次は考えてみたい。
(次回に続く)
| 次回の更新は4月4日(水)を予定。お楽しみに! |
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