第52回「小説でもどうぞ」落選供養作品


編集部選!
第52回落選供養作品
第52回落選供養作品
Koubo内SNS「つくログ」で募集した、第52回「小説でもどうぞ」に応募したけれど落選してしまった作品たち。そのなかから編集部が選んだ、埋もれさせるのは惜しい作品を大公開!
今回取り上げられなかった作品は「つくログ」で読めますので、ぜひ読みにきてくださいね。
【編集部より】
今回は三山敦さんの作品を選ばせていただきました!
主人公・三宅はゲーム制作会社でキャラクターデザインを担当中。
ボスキャラの設定がなかなか決めきれず、口の悪い同僚の寺田にせっつかれます。
どうにかデザインの方向性を決めた三宅は、実は寺田がキャラクター作りのヒントをくれていたことを知ります。しかし、これまでの寺田の心無い言動を思い出し、素直にお礼が言えません。
そしてデザインの締切の日、寺田からは想像もしていなかった言葉を聞かされて……。
「ゲーム」という課題にド直球で挑んだこちらの作品。ゲーム会社ってこういう雰囲気なのか、と空気感が伝わってきたのも印象的でした。
惜しくも入選には至りませんでしたが、ぜひ多くの人に読んでもらえたらと思います。また、つくログでは他の方の作品も読むことができますので、ぜひお越しくださいませ。
課 題
ゲーム
三山敦
ツノ生やす?モサモサにする?パソコンの描画エディターの画面にフリーハンドで線を描いては消すという作業を私は昨日から延々と繰り返している。
「三宅、ボスまだ?」
夕飯まだ?みたいなノリで椅子を寄せてくるのは同期の寺田。最近私の仕事の進捗が遅いのに苛立っているのか、別に理由があるのか、事あるごとにちくちく突いてくる。昔からよく分からないところがあったが、それが顕著になってきていた。
今回初めて一人で、自社開発しているゲームのクライマックスに登場するボスの設定と、グラフィックを担当することになった。最初は張り切っていたが、締め切りを間近にして、そう簡単ではないことに気づく。このゲームの話の展開だと、ボスは正義のアンチテーゼであることは間違いないのだが、平凡に生きてきた私にとって、主人公側の設定のような感じで、ボスについて自然に思い巡らすことがなかなかできないでいた。
「悪役作る時ってさ、「お前こんなこと考えてんの?」って自分の黒歴史晒すみたいで嫌だよなあ。俺、ボス課でなくて、ほんと良かったわ。」
寺田が、遠い国の天気予報くらいの無関心さでさらっと毒を吐いて、自分の席に戻っていった。こっちはアイデアが出なくて、締め切りも近いし胃が痛いんだ。私は使えそうなネタが無いか、片っ端から悪役を調べた。アニメ、時代劇、小説、ライバルのソシャゲ、現実世界での悪役・・・結局ボスって具体的にどういう背景持たせたらいいんだ?
逡巡している姿に見かねたのか、同期の近藤が声をかけてくれる。
「あんまり難しく考えないほうがいいんじゃない?」
「まあそうなんだけど、締め切り近いし・・・」
「自分だったら、アンチテーゼの三階建てかなあ。つまりさ、受け入れがたい外見、許しがたい悪事、そして良心に対する裏切りみたいな。」
私は寺田が頭に浮かんだ。いつ風呂に入っているのか分からない、髪や爪は伸び放題、上げたらきりがない。そもそもこいつを採用した人事は一体、何を見たんだっていうくらいひどい。外見は余裕でクリアだ。悪事、これは悪事ってほどじゃないけど、納期は守らない、会議資料はイマイチ、話のロジックを崩壊させる、うんなかなかボスのイメージに近い。
とりあえずこの段階でもかなり筆が進み、ラフ画はできつつあった。近藤が通りすがり私の背中越しに画面を見ていた。
「おー^まあまあいいんじゃない?モデルは敢えて聞かないけど、ぐっと邪悪さが増したね。」
でも、と続けた。もうひとひねり必要だけど、それが出せるかどうか・・だわ、と言ってその日、近藤は定時で上がった。私はデスクの前で熟考する。
「三宅、ボスまだかよ。こっちはシステムにのっけんだから、三倍前倒しって言っただろ。」
私は近くの国であったテロの犯人と寺田を重ねつつ、じっと見る。
「なんだ?やんのか?」
「んーちがうな。見れば見るほどいいところを探そうとしてしまう。」
「は?オマエ頭大丈夫か?」
寺田は寄せてきた椅子を手で押しながら遠くの机の島に戻った。あーボスまだだって、と同じ部署のメンバーに漏らしているのが聞こえた。七時のニュースが流れていたので、気晴らしに見る。
「寺の住職、保育園への寄付金三百万円横領。」
私にささやかながら一つのアイデアが浮かんだ。見た目が善人で、そこに潜む闇を描くのはどうだろう。受け入れがたい外見と許しがたい悪事を隠しながら善人面した悪人。これだ。
数日後、私のパソコンの画面には善良そうな獣の仮面を半分被った、長い爪の生えた、モサモサの醜い肉食獣が描かれていた。
「お、いいじゃん。」
いつからいたのか横に寺田が居た。あまりにも急だったので、思いっきりのけぞってしまったが、それ以上に寺田の短く刈った髪と清潔な爪に驚いた。
「え、寺田、親戚の結婚式にでも行くのか?」
「なんでだよ。とにかく、それ、はやくシステムに回せよ。おれがすぐに動作モーションつけてやるから。」 帰り際、近藤が教えてくれた。私がボスが描けなくて苦労しているのを見て、寺田が悪役のイメージづくりに一役買ってくれていたという。しかしすぐにはありがとうとは心の中でも言えなかった。これまでの心無い言動を考えると、これでトントンぐらいだ、と思っていた。
ボスのグラフィックの締め切りの日、寺田は私のパソコンを陣取り、私の描いたボスにカーソルを合わせてモーションの最終確認をしていた。そしてまた例のごとく、自分事ではないかのように、それに語り掛けるように言葉を発した。
「おれさあ家業次ぐために、田舎に戻るんだわ。」
「え?」
「田舎だと格好とかうるさいだろ?それでまあ、さっぱりしたっていうか。」
寺田が握るマウスが、少し震えていた。
「うちの田舎、熊が出るんだぜ。あんな理不尽なボス、そうそういねえわ。」
「寺田。」
「おれはさあ、お前みたいな才能無いやつの面倒を見れなくなるのが、一番残念だわ。」
「ありがとう。」
私は、寺田バージョンのボスのぬいぐるみを作ることを部署で提案し、寺田の最終日に手渡した。
「おまえの意にはそぐわないかもしれないど、みんなで考えたボスなんだ。」
「あーこれじゃあシステム載せられないから、俺が大事に取っておくわ。」
今でもボスが描けない時、ぬいぐるみの原画を見る。そして寺田を思い出す。
(了)