読者が離脱しない小説の作り方|雨穴作品に学ぶWEB時代の文章術


『変な家』(2021年)、『変な絵』(2022年)、『変な家2 〜11の間取り図〜』、そして最新作『変な地図』を出版し、毎回大ヒットを博しているホラー作家・雨穴氏。
筆者はすべて読破した雨穴ファンです。その特長のひとつは何といっても「読みやすさ」にあると感じます。
今回はホラー作家・雨穴氏のヒット作を例に「なぜ読みやすいのか」「読みやすさとは何か」について考えていきたいと思います。
ジャンル問わず、文芸作品に「読みやすさ」は欠かせません。ホラーやミステリだけでなく、小説やエッセイなど文章系の公募に応募する人はぜひ参考にしてみてください。一緒に「読みやすさ」について考えていきましょう。
なお、本記事には一部引用は含まれますが、ネタバレを避けていますのでご安心ください。
みなさまのお墨付き
どれくらい「読みやすい」のか?
筆者は子供のころからいわゆる「本の虫」でした。社会人になってからは多忙になり、まとまった読書の時間は取りづらくなったものの、とにかく常に活字を横に置いておきたいタイプです。調味料の成分表すら読むタイプですね。
しかし産後、いわゆる「産後うつ」のような状態になり、活字を見るのが苦痛になりました。その後、しばらくはブレインフォグの状態に。文章を読もうとしても、とにかく目が滑ります。頭に全然入ってきませんでした。
もしかしたらコロナやインフルエンザの罹患後や、体調を大きく崩した後に同じような感覚になっている方もいるかもしれません。誰でも、病気やストレスで同じような状態になる可能性があります。
そんな私でも、負荷なくすらすらと読めて、読書への自信を取り戻せたのが『変な家』でした。1冊、苦なく読めたときのよろこびを今でも覚えています。シリーズを全て読みましたが、仕事や家事をやりながら、隙間時間だけでもあっという間に面白く読めました。読書することに再び自信を回復し、今では他の書籍も読めるようになりました。
実際、雨穴作品について「読みやすさ」を挙げている口コミはとても多いようです。
「読みやすさも好評です。サクサク読めたという声が多くあります」(『変な家』AmazonカスタマーレビューAI要約より)
「短編一つ一つのクオリティも高く、最後まで引き込まれるストーリーで、ページをめくる手が止まらないという声があります。 文章についても、軽妙な文章で読みやすく、2時間程度で読めるとの声が多くあります」(『変な絵』AmazonカスタマーレビューAI要約より)
なぜこのように、多くの人が「読みやすさ」を感じているのでしょうか?
雨穴氏に迫る
WEBライター由来の「可読性」
雨穴氏は「江戸川乱歩や横溝正史といった古いミステリーやホラー小説が好き」だそうです。かなり正統派な作家が好きなようですね。
一方で、WEBメディア「オモコロ」の編集部に所属し、WEBライターの肩書もある雨穴氏。そもそも書籍『変な家』も最初はWEB上で公開された読み物のひとつでした。
2020年に公開されたこの読み物が大変な話題を呼び、YouTube版は2026年3月時点で2558万回再生されています。
雨穴氏は、自身の作品についてこう語っています。
YouTubeもWEBライティングも、ユーザーが少しでも話がわからなくなったり、途中で退屈だと思われたりしたら、すぐに離脱されます。(略)従来の本の作り方では文化を維持するのが難しくなっているなか、僕がこれまで戦ってきたネット文化のスキルや知見は、文学という土俵で闘うための数少ない武器だと思っています。
(『変な地図』が70万部超え!作家《雨穴》にインタビュー…その「意外な素顔」とは。"次作の構想"や"処世術"を聞いた 東洋経済オンラインインタビュー)
小説第一作の『変な家』冒頭はこのように始まります。
これは、ある家の間取りである。
(次ページに二階建ての家の間取り図)
あなたは、この家の異常さがわかるだろうか。
おそらく、一見しただけでは、ごくありふれた民家に見えるだろう。しかし、注意深くすみずみまで見ると、家中そこかしこに、奇妙な違和感が存在することに気づく。その違和感が重なり、やがて一つの「事実」に結びつく。
それは、あまりにも恐ろしく、決して信じたくない事実である。
(雨穴『変な家』2021年)
これを読んだら、ほどんどの人が間取り図を見直すでしょう。仮に立ち読みであっても、多くの人はしばらく本を手に取って間取り図を眺めるはずです。そして、眺めれば眺めるほど、その答えが気になってきます。
単に面白い挿絵(間取り図)があるだけではこうなりません。読者に「あなた」と呼びかけ、この間取り図の「異常さ」を知らせます。
異常だと言われたら、それが何なのか知りたくなるのは人間の、生物の性とも言えそうです。そして、この本を読めば違和感の正体がわかり、一つの事実が見えますよ、という明確な「報酬」まで一気に提示しています。
この端的に読者の思考を狙い撃ちしてくる、言葉のチョイスも見事ではないでしょうか。
これからの小説はWEBコンテンツと読者を競っていく時代。より早い段階で読者の心を獲得する展開、飽きさせないこと、間口の広さが大切なのかもしれません。