読者が離脱しない小説の作り方|雨穴作品に学ぶWEB時代の文章術


脳に負荷をかけすぎない構造
読者の「記憶」にどこまで頼るか?
雨穴作品は海外でも読まれています。その点について、雨穴氏はこうインタビューで話しています。
「日本の文化を知らないと分からない」「前提知識がないと楽しめない」ということは、極力避けたいんです。
(Billboard JAPAN <インタビュー>「日本から世界へ」、音楽と文学を通じて雨穴が語る活動のヒントとは)
これは、作品の海外展開だけに限らない話だと言えそうです。多くの家庭が新聞をとり、家族で同じテレビ番組を見ていた時代ならば、今よりかも「みんな」に共有する知識や流行が明確でした。しかし、多様性のこの令和時代、国内市場に目を向けても「全ての人が知っている前提知識」は減りつつあります。ミステリーやホラーに限らず、必要になる前提知識が多いほど、潜在的な読者が絞られるのが現状です。
また、雨穴氏の「変な」シリーズの特長は図解の多さも挙げられるでしょう。
『変な家』2作ではさまざまな間取りが登場し、それが物語の鍵になります。『変な絵』では登場人物たちが描いた複数の絵が登場します。『ダ・ヴィンチ・コード』のように有名な絵画ではありません。『変な地図』も同様です。
つまり、雨穴氏の作品では「前提知識」は不要でありつつも、ホラー・ミステリーの要となる「前提条件」がすべて作中に出てくる、ということになります。
そして、その「前提条件」は、作中で適切に振り返りがなされます。
たとえば教科書の文章を読んでいて、「この内容は図35を参照」と書いてあるのに、ページの中に図35がなく、戻らなきゃいけなくて読みづらいことがあると思うんです。教科書であればいいかもしれないですが、エンタメの場合、ちょっとでも読者に負担がかかってしまうと読まなくていい原因になるのかなと。記事と文章の間に図解を挟んでいく考え方は完全にウェブ記事の書き方と同じ
(anan 『変な絵』が33万部突破! ホラー作家・雨穴が明かす“ぞっとするもの”の書き方)
登場人物が「あの絵」「あの間取り」と話すときには、その登場人物の頭の中にその絵があったり、手元にそのメモを持っていたりするはずです。
しかし、読者は作中で何ページも前に見た絵を思い出したり、ページを戻ったりする必要があります。
雨穴作品ではその都度、その挿絵を再登場させます。もちろん「話の流れをぶつ切りにしない程度に」です。読者は登場人物と同じように、詳細な情報を手元に置きながら物語を進めることができます。
これは挿絵に限りません。最終的に謎が解明されるシーンでは、伏線となっていセリフや行動が回想場面として再登場します。忙しい毎日、少しずつ読みすすめていたとしても「そんなことあったっけ?」と前に戻る必要がありません。
また特に『変な絵2』『変な地図』では、章ごとに判明したことのまとめがメモとして登場します。振り返りたい場合は、まずそこを見ればOKな構成です。
いくら読むのがカンタンであっても、歯応えがないホラーやミステリーは面白くありません。読者の負荷を減らしつつも、作品中でしっかりと情報を提示すること、読者が記憶したりページを戻ったりしなくても済む工夫をしていることが雨穴作品の強みです。決して、情報量が少ないわけではありません。
読まれないと入選しない!
文章系公募に挑戦する人は必読かも
もちろん「読みやすさ」だけが文芸の価値ではありません。大きな読書負荷を好む人だっているでしょう。
しかし、特に出版を目指すような文学賞の場合は、本が売れること、つまり多くの人に読まれることも重要視されます。また、文芸コンテストに応募するということは、必ず誰かがその作品を読んでくれるということです。読まれること、読みやすさをじゅうぶんに意識して作品をつくりたいものですね。
小説書きの人は読書家が多いはずです。もし雨穴作品が未読なら、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。売れている理由がきっとわかるはずです。
構成の工夫だけでなく、読みやすい文体も特長だと言えます。これはWEBライターとしての氏の経験が生きているのでしょう。勉強になることがたくさんありそうです。
雨穴氏と同じことをやっても道は開けません。一方で、時代の変化を汲みとり、いま求められるエンタメ小説とは何なのかを考えてみましょう。自分自身のこだわりや個性も大切に、最高の作品を書きたいですね!