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第12回「小説でもどうぞ」最優秀賞 覆面バイカーブラック/ヨシダケイ

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
第12回結果発表
課 題

休暇

※応募数242編
「覆面バイカーブラック」ヨシダケイ
 オレの名は木郷ハヤト。
 表向きは名も無い喫茶店のウェイターだが、俺には裏の顔がある。
 そう、オレは、世界征服を企む悪の秘密結社ジョッキーと戦う、正義のヒーロー「覆面バイカーブラック」でもあるのだ。ジョッキーが送り込んでくる恐ろしい改造怪人達。奴らから世界の平和を守るため、日夜戦い続ける。それが木郷ハヤトこと覆面バイカーブラックなのだ。
 だが、そんな俺にも悩みはある。それは毎日働き詰めで休暇が一切無いことだ。
 そりゃそうだろう。昼の喫茶店アルバイトは週7日。おまけに不規則で襲い掛かる怪人共と戦わなければならないのだ。まともに休めるわけがない。調べてみたら来月末で通算一年近くも休暇無く働いていることが分かった。これはマズイ。いくら俺が改造人間とはいえ身体が持たない。死んでしまう。
 オレは意を決し、喫茶店の雇い主であるオヤジさんに、
「世界平和を優先したい。せめて喫茶店のシフトを減らしてくれないか」と頼んでみた。
 ちなみにこのオヤジさんは、オレがジョッキーに身体を改造された時に、金銭面、精神面で大いに助けてもらった恩がある。そのせいか、オレはオヤジさんに反論されると何も言えなくなってしまう。そしてその嫌な予感は当たった。オヤジさんは厳しい顔で、
「喫茶店アルバイトも世界平和も両立してこそ真の正義のヒーローだ。甘えるな」と説教をしてきたのである。
 そうだった。オヤジさんは昭和人間だった。何事も精神論で解決する癖がある上、理想の正義のヒーロー像をオレに押し付けてくるのだ。その上、理想を語る割にひどくケチで、以前も賃金交渉は無駄に終わり、オレは未だに、最低賃金時給を下回る時給400円で働かされているのだった。他人に恩など施してもらうと後が厄介になると身をもって学んだよ。まぁ後の祭りだけど。
 そんなある日のこと。
 オレはいつものように深夜までの喫茶店アルバイトを終え、アパートに帰ったところ、ついに連続労働が体にきてしまったのか、泥のように眠ってしまった。
 オレは久々の快眠にスッキリした目覚めに喜んだものの、ハッと恐ろしいことに気づいた。何とケータイの着信が50件。相手はオヤジさんである。急ぎ掛けなおした。
「バカヤロー、何してやがるんだ!スパイダー怪人が五反田で大暴れしてんだよ。ヒーローの自覚あるのかこの野郎!」と怒号の嵐。
 時計を見ると夕方の4時。
 あまりの疲れからとんでもない寝坊をしてしまったのだ。オレは怪人を止められなかった後悔の念で一杯になった。
 そして急いで着いた五反田では、既にスパイダー怪人が暴れまわった後。多くの建物が怪人の蜘蛛の糸にグルグル巻きにされ朽ち果てていた。クソッ。もう少し早く着いていれば。
 オレは急ぎスパイダー怪人が潜んでいる廃工場へ向かうことにした。
 やって来た廃工場では糸をまき散らし暴れまわるスパイダー怪人の姿が見えた。
 オレは直ちに必殺技、「覆面キック」を喰らわせてやった。「どうだ。まいったか!」ドカッ。よし。手ごたえアリ。いや、この場合、足ごたえか。いやいやそんなことはどうでもいい。
 スパイダー怪人は吹き飛ばされた後、のっしりと立ち上がった。そう。この程度の攻撃でやられるような敵ではない。どんな恐ろしい反撃をしてくるか分からないからな。油断は禁物だ。
 だが予想に反してスパイダー怪人は立ち上がったかと思うとそのままクルクルと回転し倒れてしまった。あまりの拍子抜けにオレはあっけに取られてしまった。「これがあの恐ろしい怪人か?」だがスパイダー怪人は弱弱しい。そしてその口から発せられた言葉は意外なものだった。
「オレ。今日で300日連勤。ジョッキー、ブラック秘密結社。もう身体もたない」と。
 なんてこった。オレはあっけにとられてしまった。そう、スパイダー怪人も俺と同じくブラック労働に逆らえない哀れな一労働者だったのである。
 オレは閃いた。
 その数か月後。オレはブラック労働に苦しむ怪人達と同盟を締結。お互いの雇用主であるジョッキーとオヤジさんに週休2日を求めるストライキをはじめたのであった。
「ヒーローと怪人が手を組み待遇改善を求めるか。時代は変わったな」
 人々は、ヤレヤレといった顔をしてぼやいたようだが、果たして強欲な首領やオヤジさんがまともな休暇を考えてくれるかどうか。 
 雇い主はいつの時代も強欲だからな。
(了)