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W選考委員版「小説でもどうぞ」第2回 佳作 奪われた眠り/いしだみつや

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小説でもどうぞ
「奪われた眠り」いしだみつや
 ――み、水を……。
 ――っく。ごく。あ、ありがとう。生き返ったわ。ここは何処?病室みたいだけれど。
 私? 私の名前はケイト。U国の宇宙調査団所属。そ、そうよ! 私は任務の途中で……、どうしたんだっけ?上手く頭が働かない。
 眠っていた? コールドスリープ? 言われてみれば、装置に入った記憶があるわ。でも、どうして?  駄目だわ。思考がこんがらがっている。
 ええ、そうね。話せば糸口が見つかるかも。でも、少し休みたいのだけど……。
 は、はは。傑作ね。長い間、睡眠していたのは事実。でも、ひどい言いぐさじゃない? そういえば、私はどれくらい眠っていたのかしら?
 教えられない? 混乱するといけないから?
 と言うことは、本当に長い間眠っていたのね。
 ひょっとすると、私はあなたが生まれる前の時代の人間なのかもしれないわね。あなたみたいな、おじいさん、失礼、ご年配の方より、年上だなんて、可笑しいわね。
 なぜコールドスリープしていたか? それを私も思い出そうとしていたの。そうだ! 私たち調査団は、異星探査の帰路で事故に遭ったのよ。小惑星群に運悪く衝突してしまった。エンジンや通信手段、重要な装置の多くが破損したの。それに船員のうち、大半が命を落としたわ。でも実は、事故で亡くなっていた方がマシだったかもしれない。
 最初、生き残った十名は、お互い「幸運だね」って励まし合ったわ。「この悲劇を乗り越えよう」って。移動手段もない、事故の影響で計画航路を外れていたので救助が来るかも分からない。それでも、水や酸素、食料を自給するための装置は残存していたから、最低限の生活をすることだけはできた。それに双方向通信は無理だったけど、近距離用の救難信号だけは打てたの。天文学的な確率かもしれないけれど、寿命が尽きる前に、偶々近くを通りかかった船に救助されて、地球に帰ることができるかもしれない……というのが私たちに残された唯一の希望だった。
 じゃあ、なぜ私一人だけがコールドスリープ装置に入っていたのか? そうよ、確かに私は一人だけでいつ来るか分からない救助を待つことになった……。でも、それはなぜ?
 ちょっと待って。気分が悪いの……。頭が重くなってきて……。う、うん。もう大丈夫みたい。
 ……思い出したわ。理由は二つ。コールドスリープ装置が一つしかなかったこと。それと、どちらにせよ生存者は私一人しかいなかったこと。結果的にはだけどね。
 コールドスリープ装置は、最初の事故で全部壊滅したの。乗組員が往路で使った全てがね。でも、私が皆には秘密で修理をした。いくつもの壊れた装置から機能する部品だけをつなぎ合わせることで一台だけ復元できたの。
 独り占めするつもりだった? 違うわ。皆が知ってしまうと、諍いの種になると思ったのよ。一人だけでも、眠ったまま救助を待ちたいってね。それに修理が完了する前に、別の問題が起きたの。致死性の病気よ。
 おそらく、調査地で採集したサンプルが発生源ね。研究室も全損していたから詳しくは検査できなかったけど。船員がばたばたと倒れていったわ。皮膚にどす黒い斑点が浮かんでね、数日間、高熱でうなされたた後に死ぬの。船医はエドって男が生き残っていたけど、彼の知識はこれっぽちも役に立たなかった。まあ、未知の病気だから仕方がないのかもね。船員間で感染するタイプなのか、あるいは船内に見えないダニみたいな媒介者が潜んでいるのか、何も分からないまま、時間だけが過ぎて行った。気付けば、生き残っているのはエドと私の二人だけになっていたわ。それも二人ともその病に侵されていた状態でね。
 うん。間違いない。記憶が蘇ってきたわ。それで私はエドに装置のことを打ち明けたの。このままだと二人とも病気で死んでしまう。だから、一人だけでもコールドスリープをして、救助を待とうって。きちんとした研究設備さえあれば、治療法を見つけられるはずだから。そして、私たちはどちらがコールドスリープするかをくじ引きで決めたの。
 分かった? 私は恐い病気に罹っているの。だから治療法をすぐに見つけ出して!
 ――え、もう必要ない? 既に治療薬は発明されている? そ、そうか、もう時代が変わっているのよね。私、助かるんだわ。
 ――嘘なんて吐いてないわ。くじで勝ったのは私よ。エドは私が眠りに入るのを見届けてから亡くなったのだと思う……。それに本当は装置を修理したのはエドの方だったなんて、何を根拠に言っているの?
 ――治療薬は、元患者の血中抗体から作った? 私がコールドスリープしていたのは五十年? それが何の関係があるの? え、あなた、ひょっとして……?
(了)