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W選考委員版「小説でもどうぞ」第2回「秘密」結果発表&選考会の裏側

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ

選考会では両先生が交互に感想を言い合い、採点しています。作品の内容にも触れていますので、ネタ割れを避けたい方は下記のリンクで事前に作品をお読みください。

小説家。すばる文学賞、日本ファンタジーノベル大賞、群像新人文学賞、文藝賞などの選考委員を歴任。

小説家。『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。ほか、「まんまこと」シリーズなど著書多数。

小説は作り物だが、
無理やり作っている感じは消すこと
どう読めばいいか、
わかるように書く
――「彼女のことが気になる」(村木志乃介)からいきましょう。

高橋遠くから彼女のことを見るのが生きがいという怪しい男の話です。ストーカーかと思わせて、4ページ目の最初に「あれ、どうしたの? お父さん」とあり、娘を見守る父親のいい話だとわかります。話としてよくできていて嫌いじゃないんだけど、秘密を明かすのが早いなあ。全体の6割のところで秘密が明かされてはバランスが悪い。バラすのなら最後のページにしてほしかった。評価は△プラス半分。△より上だけど、△プラスまではいかない。△と△プラスの中間、1・25点(笑)。

畠中ストーカーの話から始め、途中からいい話になりますが、前半をなんとかストーカーの話に見せようとして、無理をしている感じがしました。娘さんは駅で爪を切りますが、そんなことをするかなあと。爪まで収集するストーカーっぽく見せようとしたのだと思いますが、少し無理があった気がします。評価は△です。

――次は「秘密のない結婚生活」(ナラネコ)です。

畠中冴えない主人公が大金持ちの美女と同棲し、1年後に結婚しようと約束しますが、だんだん妙な方向へという作品でした。格差カップルはうまくいかないということが書きたかったのだと思いますが、神様をもってきたラストがね。これだと夢オチと同じです。神様をもってきたらなんでもできちゃうので、すごく引っかかります。それと相手の女性と付き合うことが無理になっていく過程で、1行でもいいから男の人の気持ちが出てきたほうがよかった。この作品も△です。

高橋この話、いろいろ無理があるかなと思いました。秘密はなしでということで結婚しますが、主人公(和樹)のその後の行動が軽すぎます。理想の女性と結婚できたのだから、もっと頑張るのが普通なのに、女性の提案にそのまま乗っている和樹がよくわからない。それと女神側にしても、なんでこの男を選んだのかがよくわからない。もう少しいい物件があるでしょ(笑)。神様なんだから少しは人間のことがわかっているはずだし、父親の大神とも話しているんだから、「この物件、どう?」って聞くよね。こういう男と一回結婚させておくと、二度と人間と結婚しようなどとは言い出さないだろうという大神の配慮なのだとしたら、それは書いておいてほしいよね。この結婚自体に無理があるということで、ぼくは△マイナスです。

――3作目は「忘れ物アンドロメダへ帰る」(穴木隆象)です。

高橋コンビニのコピー機に履歴書が残っていた。忘れていった人はアンドウロメダさん。退職して、俳優志望の履歴書をコピーしていたという変わった設定の話です。アンドウさんは宇宙人で、主人公は履歴書を届けてあげるけれど、無視され、アンドウさんは宇宙に去っていく。この話も無理やり作った感があって、たとえば、アンドウロメダさんはなんで俳優を志望したの?とか、宇宙人が履歴書を忘れるの?とか。最近だったらネットから応募するよね。それはいいとしても、話自体が変だなという感じがあって、ぼくは△です。

畠中この話、穴とか変なところとかいっぱいありますが、なんとなく好きですね。突然、宇宙に帰っちゃうというのも変なのですが、変という味ということで、私は○にしました。

高橋畠中さんもユーモアのある作風ですものね。畠中作品のお化け風味もある。僕も嫌いじゃないです。でも、やっぱり変かな。これは好みの問題ですね。

――4作目は「白い天使」(井関七十七)です。

畠中期せずして凛ちゃんと川沿いを歩くことになったとき、いつものようにトイレに駆け込みたくなる。我慢できずに川に飛び込んだとき、救いの主(白い猫)と会ったという話でした。これは困りました。読んでいる最中、臭いがして(笑)。妙な話ですね。

高橋うんちをもらし、最後に子猫が出てきて、対岸の親猫のもとに連れていくという話ですね。女の子といるとトイレに行きたくなるという葛藤があり、それでうんちをもらした。最後はそこから離脱したと。子猫を抱いて迷わず対岸に向かって堂々と歩き出すということは、女の子とか、悩みとか、うんちとか、そういうものから離れるという決意表明? どう受けっとっていいかわからない。これ、何が「秘密」なんですかね。

畠中下痢ぎみってことじゃないかと。

高橋そうか、それが秘密かあ。これ、どうしましょうか。事前の感想では「?」で、畠中さんの感想を聞いてから評価しようと思っていたのですが。

畠中私は△マイナスにしました。

高橋いいところですね。僕も△マイナスにします。

自分で思ったことを
みんなもそう思うと思わないこと
設定があるだけで、未完成の作品は
評価ができない
――5作目は「失った秘密の場所」(高橋大成)です。

高橋ケンちゃんという親友との間に秘密の場所があったが、みんなに言ってしまったので、二人の秘密の場所ではなくなったと。それでケンちゃんを傷つけてしまい、ケンちゃんは去っていった……で 終わりなんだよね(笑)。いやいや、このあと、何か欲しいというか、話が終わってないんじゃないか。これだとオチてないですよね。

畠中主人公は30歳ぐらいですよね。最初に読んだときに、友達のところに謝りに行って、自分の心情を言い、仲直りするなり破滅するなりさっさとするようにと感想をメモしていました。

高橋人生相談ならそう言いますね。秘密の場所でうっとりしている場合じゃないよと。この話はまだ完成していないんで、申しわけないが、×にします。

畠中私も評価が低く、△マイナスです。

―― 6作目は「奪われた眠り」(いしだみつや)です。

畠中異星探査の帰路に事故に遭い、コールドスリープで助かった女性が事情を話していくという話です。未知の病気があり、主人公もエドもこのままでは死んでしまう。コールドスリープは一つしかない。そこでくじ引きをして、主人公だけがコールドスリープに入ります。50年後にコールドスリープが解けますが、50年間も解く方法がなかったのでしょうか。

高橋これ、50年前に何があったんですか。主人公はくじ引きで勝ってコールドスリープに入ったと嘘をついている。ということはくじ引きで勝ったのはエドです。しかし、エドはコールドスリープに入っていない。ということはエドは殺されたんだろうと思ったのですが、でも、主人公と話しているのはエドですよね。

畠中私は、主人公はくじ引きには負けたけど、さっさとコールドスリープに入り、エドは病気にはならず、奇跡的に助かったのだと思っていました。

高橋助かったのか。ということは、エドは病気にならなかったか、早めに救助が来たか。でも、救助が来たら主人公はコールドスリープから出られるわけだから、50年間発見されなかったんだ。

畠中50年間、解く方法がなかったのではなく、50年間、救助が来なかったわけですね。

高橋エドは主人公のコールドスリープをなぜ50年も解かなかったんだろう。

畠中エドは自分が入るはずだったコールドスリープに入れなかったので、いじわるしてわざと起こさなかったんじゃないかなと。

高橋なるほど。いろいろ解釈できるけど、わかるように書いてもらわないと困るよね。自分でそう思ったのをみんなもそう思ってくれると思っているんじゃないかな。作者自身には答えがあると思うけど、普通に読んだらわからないよ。ということで、△マイナスです。

畠中私は△です。

読む人によっては設定に気づかない?
そこがわずかに傷
――7作目は「秘密基地に潜む」(ササキカズト)です。

高橋子どもの頃から秘密基地が好きだった老人が木の根元の穴に潜んで5日目、「戦争は終わったんですよ」と声がかかる。小野田寛郎さんのような話かと思ったら、妄想患者の叔父を探しにきた甥の話だったというオチです。この作品の秘密は秘密基地ということで、そんなに大した仕掛けもないんですが、こういう話は好きだなと思いながら読みました。自分の記憶が秘密基地だよね。そこに閉じこもるしかなくなった老人の悲哀が描かれていて、最後の甥っ子を見る視線もよかった。僕は○です。

畠中私もこの話、好きですね。最初に出てくる場所は戦場で、そこから敗戦となり、敗戦から甥のいる現在に移っていく。これを5枚の間でやっていて、うまいなと思いました。その中で気持ちもついていく。私は○プラスです。

―― 最後の作品は「押し入れ」(稲尾れい)です。

畠中嫌なことがあると押し入れにこもる息子の健。健と押し入れとの関係は年月とともに変わっていったというお話です。ストーリーはだんだん、息子さんの恋愛の相手は男の方なのかなという話になっていきます。お母さんとの関係はとてもいいんですが、一点だけ気になるのは、そのことに気づいたお母さんは、一瞬でも胸がチクッと痛んだりしなかったのかなと。子どもは息子さん一人のようなので、そうなるともう孫は抱けない。そのことはなんとも思わなかったのかなということが引っかかりました。先ほどの作品よりは少し落ちるので○です。

高橋健とシュンについてはっきり説明している文章は一つもないので、人によっては気づかないかもしれない。お母さんの葛藤などがもう少しあると、間違いなくこういう話だなとわかるので、もう2ミリぐらい欲しかったね。仲がよかったときにそれを思わせることがあるとか、お母さんのチクッとか、お父さんの溜め息とか。繊細な書き方をしている分、高度な読解力を要求される作品です。高級なことをやっているけど、普通の友達ではないと確信を持てる文章はない。あと一かけでもあったらよかった。○マイナスです。
 ということで、7番目、8番目の作品は二人とも○をつけましたが、僅差で「秘密基地に潜む」が最優秀賞と決まりました。