第11回「小説でもどうぞ」選外佳作 山分け/田辺ふみ
第11回結果発表
課 題
別れ
※応募数260編
選外佳作
「山分け」
田辺ふみ
「山分け」
田辺ふみ
母の四十九日も過ぎて、今日は実家の片付けだ。
「もう、忙しいのに、一日じゃ、絶対、終わらない」
姉が押入れの物を取り出していく。
「だから、私が一人でもやっておくって言ったのに」
「何か、お宝があるかもしれないじゃない」
「私がネコババするって思ってるの?」
「一人だと見落とすかもしれないってこと」
「そんないい物あるわけないわ」
「まあ、見つかったら、山分けということで」
がめつい私たちに母もあの世で呆れているかもしれない。
「また、タオル」
姉は薄い白い箱を開けた。
「それ、私が母の日にプレゼントしたタオル」
ホテル仕様のタオル。
「古いタオルを使ってるから、いいのに替えて欲しかったのに」
「貧乏性だったからね。持って帰って使ったら」
姉の言葉に少し迷ったが、そばの段ボール箱に入れた。中はもう、タオルの箱で一杯になっている。
「こんなふうにならないように最近、断捨離してるの」
姉は片っ端から箱を開けてみる。
「もう? 早くない?」
「今から習慣にしたいと思って」
姉は言葉を切って、手にした箱を別の段ボール箱に放り込む。
「空箱なんて、とっておいても使わないのにね」
段ボール箱は紙袋と空箱で一杯だ。
「ガラクタばっかり。もっと、お金になるようなお宝ないのかな」
姉が次の押入れを開けた。
「もう。そんなものあるわけないでしょ」
「でも」
「翼くんや舞ちゃんの学費、出してもらってたんでしょ」
「それはそうだけど。きみちゃんだって、洋太郎くんの留学費用を出してもらったんでしょ」
あれは洋太郎が私の反対を見越して、先に母から費用をもらって、手続きを済ませていたのだ。
「なんだか、私たちって、もらうばっかりだったね」
「まあ、プレゼントが難しかったよね」
さっきのタオルのようにプレゼントした物はそのまま仕舞われて、、使われることがなかった。
食事に誘っても、気をつけないと、すぐに母に会計を済まされてしまった。
「私たちが選んだ物って、好みじゃなかったのかな?」
母の本当に好きな物が何かは結局、知らないままになってしまった。親不孝な娘だ。
「単にもったいないって、だけでしょ。口癖だったもんね」
確かに母が生きていたら、今、捨てようとしている物を見て、怒りそうだ。
押入れを探ると、煎餅が入っていた四角い缶が出てきた。
「また、空じゃないの?」
「ううん、何か音がしてる」
開けると、中は紙で一杯だった。
一番上のカードにはつたない字で、しかも、間違えて、こう書いてあった。
「メリー クリマリス!!!」
私の字。
そして、その字を囲むリボンのイラストは姉が描いたものだ。
「お姉ちゃん、これ」
差し出すと、姉の目からボワッと涙が溢れ出た。
「プレゼント、使わなかったくせに」
翼、舞、陽太郎の手形が押してある還暦祝いの色紙。誕生日のカード。喜寿。母の日。
ありきたりの言葉しか書いていないのに、こんなものをとって置いたなんて。
缶の一番底からは肩たたき券が出てきた。二人でプレゼントした肩たたき券。
「きみちゃんが使いやすいようにって、頑張って、切り取り線の穴を開けた分だ」
そう、コンパスの先で穴を開けていった。本物のチケットのようにしたくって。
一枚だけ使われている。
「ちょっと、叩いたら、しんどくなって、お姉ちゃんに代わってもらったね」
「後でご褒美って、二人ともアイスクリームをもらったね」
少し黄ばんでいるだけで、きれいに保存されていた。
「お姉ちゃん、断捨離しているなら、いらないでしょ。私、もらうね」
姉は首を振った。
「お宝だから山分けよ」
(了)
「もう、忙しいのに、一日じゃ、絶対、終わらない」
姉が押入れの物を取り出していく。
「だから、私が一人でもやっておくって言ったのに」
「何か、お宝があるかもしれないじゃない」
「私がネコババするって思ってるの?」
「一人だと見落とすかもしれないってこと」
「そんないい物あるわけないわ」
「まあ、見つかったら、山分けということで」
がめつい私たちに母もあの世で呆れているかもしれない。
「また、タオル」
姉は薄い白い箱を開けた。
「それ、私が母の日にプレゼントしたタオル」
ホテル仕様のタオル。
「古いタオルを使ってるから、いいのに替えて欲しかったのに」
「貧乏性だったからね。持って帰って使ったら」
姉の言葉に少し迷ったが、そばの段ボール箱に入れた。中はもう、タオルの箱で一杯になっている。
「こんなふうにならないように最近、断捨離してるの」
姉は片っ端から箱を開けてみる。
「もう? 早くない?」
「今から習慣にしたいと思って」
姉は言葉を切って、手にした箱を別の段ボール箱に放り込む。
「空箱なんて、とっておいても使わないのにね」
段ボール箱は紙袋と空箱で一杯だ。
「ガラクタばっかり。もっと、お金になるようなお宝ないのかな」
姉が次の押入れを開けた。
「もう。そんなものあるわけないでしょ」
「でも」
「翼くんや舞ちゃんの学費、出してもらってたんでしょ」
「それはそうだけど。きみちゃんだって、洋太郎くんの留学費用を出してもらったんでしょ」
あれは洋太郎が私の反対を見越して、先に母から費用をもらって、手続きを済ませていたのだ。
「なんだか、私たちって、もらうばっかりだったね」
「まあ、プレゼントが難しかったよね」
さっきのタオルのようにプレゼントした物はそのまま仕舞われて、、使われることがなかった。
食事に誘っても、気をつけないと、すぐに母に会計を済まされてしまった。
「私たちが選んだ物って、好みじゃなかったのかな?」
母の本当に好きな物が何かは結局、知らないままになってしまった。親不孝な娘だ。
「単にもったいないって、だけでしょ。口癖だったもんね」
確かに母が生きていたら、今、捨てようとしている物を見て、怒りそうだ。
押入れを探ると、煎餅が入っていた四角い缶が出てきた。
「また、空じゃないの?」
「ううん、何か音がしてる」
開けると、中は紙で一杯だった。
一番上のカードにはつたない字で、しかも、間違えて、こう書いてあった。
「メリー クリマリス!!!」
私の字。
そして、その字を囲むリボンのイラストは姉が描いたものだ。
「お姉ちゃん、これ」
差し出すと、姉の目からボワッと涙が溢れ出た。
「プレゼント、使わなかったくせに」
翼、舞、陽太郎の手形が押してある還暦祝いの色紙。誕生日のカード。喜寿。母の日。
ありきたりの言葉しか書いていないのに、こんなものをとって置いたなんて。
缶の一番底からは肩たたき券が出てきた。二人でプレゼントした肩たたき券。
「きみちゃんが使いやすいようにって、頑張って、切り取り線の穴を開けた分だ」
そう、コンパスの先で穴を開けていった。本物のチケットのようにしたくって。
一枚だけ使われている。
「ちょっと、叩いたら、しんどくなって、お姉ちゃんに代わってもらったね」
「後でご褒美って、二人ともアイスクリームをもらったね」
少し黄ばんでいるだけで、きれいに保存されていた。
「お姉ちゃん、断捨離しているなら、いらないでしょ。私、もらうね」
姉は首を振った。
「お宝だから山分けよ」
(了)