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第11回「小説でもどうぞ」佳作 旧トンネル/箕田はる

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
第11回結果発表
課 題

別れ

※応募数260編
「旧トンネル」箕田はる
「よく、こんな場所にいられるよな」
 視界が閉ざされた闇の中で、俺はぼやいた。
 辺りがシーンと静まり返っているだけあって、普通の声であっても声が反響して聞こえてくる。ぴちゃんという水音が遠くから聞こえ、俺はビクッと肩を跳ね上げた。
 壁を伝う手に濡れた感触がして、俺は早くここから出たいとばかりに足を速める。
 暗い場所が苦手というよりも、この場所が有名な心霊トンネルであることが嫌なのだ。
 そのうえ、懐中電灯が切れてしまったせいで、視界は闇に閉ざされていた。それが霊障なのか、単なる電池切れなのか、確認するすべは向こう側につくまで謎のままだ。
「まぁ、慣れてるからな。お前だって、何度も来てるんだから、いい加減慣れればいいのに」
「……そんなこと言われてもな」
 そもそも、今時肝試しだなんて、そう流行っていないはずだ。なんせ自分たちが行かなくとも、動画サイトなどで調査に繰り出している人達が紹介してくれるからだ。それに最近では、立ち入り禁止のところも増えてきている。
 それでも俺がこの場所にいるのは、仲の良いメンツに無理やり連れて来られたからだ。しかもここは、高確率で霊障が起きるということで好評の場所でもある。
「俺は別に、来たくて来たわけじゃないんだ」
「分かってる。霊感があるからだろ?」
 後ろから苦笑が聞こえ、俺も思わず失笑を漏らす。確かに俺には霊感が多少はある。だからこそ、否が応でも心霊スポットに引っ張り出されるのだ。
「見たくて、見てるわけじゃない。分からない方が良いことだってあるんだ」
 見えることで得したことなんて、一度もない。それどころか、見えることで厄介ごとに巻き込まれる確率の方が高い。
「だったら、こんな場所にこなきゃ良いのに」
 もっともな言い分に、俺は「それが出来たら苦労しないよ」と溜息を吐く。
「友達は選んだ方が良い。後悔する前にね」
 説得力のあるセリフに、上手い返しが思いつかずに俺は口を閉ざす。
 遠くの方にやっと、淡い光が見え始める。トンネルの終わりが、近づいてきたようだ。
「お別れだな。ついてくるなよ」
 後ろにいる奴に向かって言うと、「分かってるよ」と笑いを含んだ声で返される。
「僕はここから出られないんだ。残念だけど」
 振り返らずとも、彼が首を竦めている様子が目に浮かぶ。
「成仏できないのか?」
「したいんだけどね……方法が分からないんだ」
 どうすることも出来ない状況に、俺はまたしても黙り込んだ。
「まぁー、いずれ出来るでしょ。また来てよ」
「もう来ねぇよ」
 俺はそう答える。
 後ろの気配が消えた途端、出口の向こう側で仲間たちが「おお、来た」と声を上げる。
「なんか起きたか? 相変わらず一人で行けるんだから、度胸ありすぎんだろ」
 感嘆の声を上げる仲間の一人に、俺は「別に何も」と返す。
 俺は振り返り、今通ってきたばかりのトンネルを見上げる。旧と頭に付くこのトンネルを通る車はいない。
 昔、ここで若者達が乗った車が事故に遭い、三人が重傷、一人が即死だったと噂がある。
 俺がさっきまで話していた人物はきっと、その時に亡くなった青年なのかもしれない。
 彼を解放してやれる力は俺にはない。これ以上深入りするのは、お互いに良くないはずだ。
 だからこそ、俺は二度とこの場所に来るつもりはなかった。
「もう、いい加減に飽きただろ。帰るぞ」
 俺の一言に、当然ながら批難の声が上がる。
 友達を選んだ方がいいという、彼の言葉を思い出し、俺は溜息を吐いた。
 この場所から帰ったら、彼らとの付き合いをやめた方が良いように思える。
 出会った青年に心の中で別れを告げて、俺はトンネルに背を向けた。
(了)