第10回「小説でもどうぞ」選外佳作 シェアード・ドリーム /酒井生
第10回結果発表
課 題
夢
※応募数291編
選外佳作
「シェアード・ドリーム」
酒井生
「シェアード・ドリーム」
酒井生
夢の話だ。夜、眠っているとき見る夢。
他人の夢の話ほど聞いててつまらんものはない、というが、真希は某SNSに、そんなアカウントだけをフォローするアカウントを一つ、作っているらしい。
「それだけのアカウントってあるじゃん。夢の報告しかしないやつ。使い分けてるんだろうけど」
「あるの?」そんなものは普通に暮らしていれば、視界に入ってこない。
「いっぱいあるのよ。夢について投稿した夢を見た、みたいな投稿までがざくざくと」
「ビョーキだな」
「そんなのだけがタイムラインに流れてくるようにしてあるわけ。寝る前にね、そのタイムラインを見るの。そしたらだんだん、できるようになった」
「なにが」
「他人の夢の続きを見るの」
俺は真希の顔を見た。
「……悪趣味だな」
真希は俺の顔の前で人差し指を振った。「あのねえ、SNS、なの。その人たちは自分の夢を、どこかの誰かと共有したくて発信してるの。それをあたしは、ちゃんと真正面から受け止めてるわけ」
「そんな受け止め方が本当に求められているのか」
「見て」真希はスマホを差し出した。SNSのアプリには、長い長いスレッドになった一連なりの投稿が表示されている。
「これ、この〈maki。。。ゆめうつつ。。。〉があたしね。こっち、〈スバル@昼寝(夜職)〉さん。見て」
俺は受け取ってスレッドを一番上まで辿った。「……これは」
「最近あたし、この人と夢のリレーをしてたの」
スレッドは〈スバル〉の、とある夕方の投稿から始まっている。翌朝、〈maki〉が返信している。〈初めまして! たった今、スバルさんのこちらの夢の続きを見たのでご報告します〉。
「怖ッ」
「なにがよ」真希は俺を睨んだ。
〈スバル〉は間をおかず、愛想の良い返信を返している。〈本当ですか、スゴイですね!〉……その夕方、〈更にこの続きを見ることができました。その部屋で僕は〉……以下略。既にひと月ほどに及ぶやり取りが続いている。最後の投稿は昨日の夕方。
「……からかわれてるんじゃないの」
「邦彦、やきもち?」
「はい?」
真希は俺に身をすり寄せた。
「ねえ、あたし、邦彦の夢が見たいの」
俺は身を引いた。「いやいやいやいや」
「なんで。なによ、あたしに見せられないような夢を見てるわけ?」
「そういうこともあるだろう。や、そうじゃなくて……〈スバル〉くんが待ってるのでは」
「やきもち焼いてくれないの?」
「悔しいよ」口が滑った。「……ほら俺、夢って、すぐ忘れちゃう方でさ」これは本当。
「あ、そういう体質なんだ」真希はあっさりと頷き、「じゃあ逆でもいいよ。あたしの夢を教えるから、あたしの夢に来て」
「いや……え、行く?」
続きを見る、って話じゃなかったか。
「〈スバル〉さんとは生活リズムが合わないからリレーになってたんだけど……」真希は口籠った。「実は昨夜は、〈スバル〉さんも眠ったらしくて。会ったの」
真希は悩ましげにゆっくりと瞬きをし、俺を上目遣いに見た。
「……ねえ、一緒に来て。真希は俺の女だって、〈スバル〉さんに言って」
「はあ?」
「こんなことになって、運命の相手だと思われちゃってるの。でもあたしには邦彦が……」
すり寄ってくる真希の肩を俺は両手で掴んで引き離した。
「気のせい気のせい、考えすぎだよ。からかわれてるだけだって」
「だって見てほら、〈スバル〉さん、昨日の夕方のあと、一日以上も投稿してない。こんなこと今までなかったのに」
「何かあったんじゃないの」
「昨夜の夢がその『何か』なんだって! どうしてわかってくれないの」
そう興奮していては今夜は眠れないんじゃなかろうかと思った真希は床に入るところりと眠りにつき、「これまでの展開」を寝際に叩き込まれて目が冴えきってしまったはずの俺も、いつしか寝入ってしまった。
翌朝の話によれば真希はどうやら無事にうまいこといった夢を見られたらしいが、そう熱っぽい瞳を向けられたところで俺はだな……俺のほうは例によって夢の内容は忘れてしまっていたもので、……はてさて。
(了)
他人の夢の話ほど聞いててつまらんものはない、というが、真希は某SNSに、そんなアカウントだけをフォローするアカウントを一つ、作っているらしい。
「それだけのアカウントってあるじゃん。夢の報告しかしないやつ。使い分けてるんだろうけど」
「あるの?」そんなものは普通に暮らしていれば、視界に入ってこない。
「いっぱいあるのよ。夢について投稿した夢を見た、みたいな投稿までがざくざくと」
「ビョーキだな」
「そんなのだけがタイムラインに流れてくるようにしてあるわけ。寝る前にね、そのタイムラインを見るの。そしたらだんだん、できるようになった」
「なにが」
「他人の夢の続きを見るの」
俺は真希の顔を見た。
「……悪趣味だな」
真希は俺の顔の前で人差し指を振った。「あのねえ、SNS、なの。その人たちは自分の夢を、どこかの誰かと共有したくて発信してるの。それをあたしは、ちゃんと真正面から受け止めてるわけ」
「そんな受け止め方が本当に求められているのか」
「見て」真希はスマホを差し出した。SNSのアプリには、長い長いスレッドになった一連なりの投稿が表示されている。
「これ、この〈maki。。。ゆめうつつ。。。〉があたしね。こっち、〈スバル@昼寝(夜職)〉さん。見て」
俺は受け取ってスレッドを一番上まで辿った。「……これは」
「最近あたし、この人と夢のリレーをしてたの」
スレッドは〈スバル〉の、とある夕方の投稿から始まっている。翌朝、〈maki〉が返信している。〈初めまして! たった今、スバルさんのこちらの夢の続きを見たのでご報告します〉。
「怖ッ」
「なにがよ」真希は俺を睨んだ。
〈スバル〉は間をおかず、愛想の良い返信を返している。〈本当ですか、スゴイですね!〉……その夕方、〈更にこの続きを見ることができました。その部屋で僕は〉……以下略。既にひと月ほどに及ぶやり取りが続いている。最後の投稿は昨日の夕方。
「……からかわれてるんじゃないの」
「邦彦、やきもち?」
「はい?」
真希は俺に身をすり寄せた。
「ねえ、あたし、邦彦の夢が見たいの」
俺は身を引いた。「いやいやいやいや」
「なんで。なによ、あたしに見せられないような夢を見てるわけ?」
「そういうこともあるだろう。や、そうじゃなくて……〈スバル〉くんが待ってるのでは」
「やきもち焼いてくれないの?」
「悔しいよ」口が滑った。「……ほら俺、夢って、すぐ忘れちゃう方でさ」これは本当。
「あ、そういう体質なんだ」真希はあっさりと頷き、「じゃあ逆でもいいよ。あたしの夢を教えるから、あたしの夢に来て」
「いや……え、行く?」
続きを見る、って話じゃなかったか。
「〈スバル〉さんとは生活リズムが合わないからリレーになってたんだけど……」真希は口籠った。「実は昨夜は、〈スバル〉さんも眠ったらしくて。会ったの」
真希は悩ましげにゆっくりと瞬きをし、俺を上目遣いに見た。
「……ねえ、一緒に来て。真希は俺の女だって、〈スバル〉さんに言って」
「はあ?」
「こんなことになって、運命の相手だと思われちゃってるの。でもあたしには邦彦が……」
すり寄ってくる真希の肩を俺は両手で掴んで引き離した。
「気のせい気のせい、考えすぎだよ。からかわれてるだけだって」
「だって見てほら、〈スバル〉さん、昨日の夕方のあと、一日以上も投稿してない。こんなこと今までなかったのに」
「何かあったんじゃないの」
「昨夜の夢がその『何か』なんだって! どうしてわかってくれないの」
そう興奮していては今夜は眠れないんじゃなかろうかと思った真希は床に入るところりと眠りにつき、「これまでの展開」を寝際に叩き込まれて目が冴えきってしまったはずの俺も、いつしか寝入ってしまった。
翌朝の話によれば真希はどうやら無事にうまいこといった夢を見られたらしいが、そう熱っぽい瞳を向けられたところで俺はだな……俺のほうは例によって夢の内容は忘れてしまっていたもので、……はてさて。
(了)