第10回「小説でもどうぞ」佳作 おかしくない/山内みえ
第10回結果発表
課 題
夢
※応募数291編
「おかしくない」山内みえ
おかしくない?ねえ、なんか変じゃない?私ちょっと眠っていたみたいだけど、ここどこ?白い壁に白い天井、白いカーテンがある。ここどこ?……もしかしたら病院? だっていっぱい私の身体になにかが刺さっているよ、苦しいよ、鼻と口が覆われて。胸をぎゅうぎゅうに押されて、誰かが大声で話しかけてくれているけど答えられない。誰だろう、白衣だし看護師さんなのかな。でもさ私なにしてるの? わかんないけど今日は貴大の家に行って一緒に映画を見るんだよ?なんで私は寝てるの? ていうか目も開けてないのに、どうして私はまわりの様子がわかるの?おかしいよ、絶対に変だよ。私もう貴大の家に行かなきゃ。あいつマジで約束を破るとうるさいんだよ、ほんと真面目でイヤになる。でもね優しいから一緒にいるんだよ、あいつには絶対にそんなこと言ってやんないけど。
あっ。看護師さんの声が止まった。あれ、もういいの?ていうかどういう状況なのか説明してほしいんだけど。なんか偉そうな人が来たけど顔を勝手に触んなよ、マジでムカつく。でも触られた感触がないな、やっぱおかしくない?
ああ、もしかしたらこれ夢?だって現実じゃないっぽいもんね。そっか、夢ならいいんだ。今日は貴大と映画を観て、それからゼミのレジュメまとめなきゃ。あれ?めちゃくちゃすごい顔して貴大が来た。あんた家で待ってたんじゃないの?あっ夢だからなんでもありなのかな。てかさ、なんで泣いてんの? なんかあったの?うっわ、すんごい顔して私を見てんじゃん、なによ私なんかした?ん?どうしてこんなことにって言った?いや夢だからさ、ああでも声が出ないな、夢だよ貴大。あれ私マジで声が出ない。夢って苦しいな、言いたいことも言えないよね。
ねえ貴大さ、そんなとこに突っ立ってたら邪魔だよ、看護師さんが働いてるのに邪魔じゃん? ああ、この偉そうな人が邪魔だよね?だから近づいてこないんだよね?え、お父さんとお母さんが来るの?貴大、その偉い人は誰なの?私の聞こえないところで話さないで、間違いありません本人です、って一体どういう会話してるの? 偉い人が頭を下げて私から離れていった、看護師さんが点滴と酸素マスクを外したけど、夢にしてはリアルすぎるな。やだなあ夢だよ、だから私の手を握って泣かないでよ貴大。あんためちゃくちゃ泣いてんじゃん、なんなのそんなに泣く貴大は初めて見るよ私。すげえ泣き虫じゃん。なに?まあたしかに自転車であんたの家には行ってたと思うんだけど、なんか私ここで寝てるんだよね。痛くなかったか痛かったよなってなにも感じてないけど……おまえなんで死んだんだって……。死んだ?私が?
いや夢だよね?まさか私、死んだの?
ねえ貴大、これ夢だから。私ぜんぜん死んでないから。だってあんたの声も聞こえるし、死ぬってさ、もっとこうバーンと死んだなってわかるもんじゃないの?ねえ泣かないでよ貴大、あんたが泣いたら本当に死んだのかなって思っちゃうじゃん。夢から覚めたら絶対に怒ってやる。そしておいしいもの食べに連れて行ってよね。
ああでも貴大の顔を見てると安心するな。やっぱ私、貴大のこと好きなんだ。夢の中でも安心するってよっぽど好きなんだ。自覚なかったな。なんかこうしているとさ、いろんなことを思い出すよね。ちっちゃいころから楽しかったな、友達もたくさんできたし、お父さんもお母さんも優しくて、いろんな話をしたんだよ。大学に入ってあんたに会って、すぐ付き合い始めたよね。勉強も楽しかったよ、イヤになることはいっぱいあったけど、でも将来ちゃんと働いて好きなことして生きたかったから。もっと真面目にやってりゃよかったなって思うけどさ。
あれ、なんで過去形なの?現在進行形じゃないの? 私いま過去形で考えてた?もう私の時間は進まないの?もしかしたらまわりの風景ぜんぶが白黒なのは、夢だからってわけじゃないの?
……本当に私は死んだの?
いやだいやだいやだ死んだんじゃない、これは夢なんだ。ねえ貴大、私を起こしてよ。静かに泣きながら私のほっぺたを触ってるんじゃなくてさ、今日だけは殴っていいから私を起こして?そしたら夢から覚めるんじゃない?ねえお願いだから夢から覚まして?ああ、だめだよなんか眠くなってきた。花の匂いがして、頭の上の方から色が見える。もしかしたらこれ夢じゃなくて、私は本当に死んだのかな。
どっちが夢なのかわからないよ。いっぱい遊んだのも、勉強したのも、貴大に会ったのも、私の人生は夢だったのかな。それともこれが夢なのかな。どっちが長い夢なのかな。
ねえ、どっちでもいいから、私の目を覚まさせて――――――。
(了)
あっ。看護師さんの声が止まった。あれ、もういいの?ていうかどういう状況なのか説明してほしいんだけど。なんか偉そうな人が来たけど顔を勝手に触んなよ、マジでムカつく。でも触られた感触がないな、やっぱおかしくない?
ああ、もしかしたらこれ夢?だって現実じゃないっぽいもんね。そっか、夢ならいいんだ。今日は貴大と映画を観て、それからゼミのレジュメまとめなきゃ。あれ?めちゃくちゃすごい顔して貴大が来た。あんた家で待ってたんじゃないの?あっ夢だからなんでもありなのかな。てかさ、なんで泣いてんの? なんかあったの?うっわ、すんごい顔して私を見てんじゃん、なによ私なんかした?ん?どうしてこんなことにって言った?いや夢だからさ、ああでも声が出ないな、夢だよ貴大。あれ私マジで声が出ない。夢って苦しいな、言いたいことも言えないよね。
ねえ貴大さ、そんなとこに突っ立ってたら邪魔だよ、看護師さんが働いてるのに邪魔じゃん? ああ、この偉そうな人が邪魔だよね?だから近づいてこないんだよね?え、お父さんとお母さんが来るの?貴大、その偉い人は誰なの?私の聞こえないところで話さないで、間違いありません本人です、って一体どういう会話してるの? 偉い人が頭を下げて私から離れていった、看護師さんが点滴と酸素マスクを外したけど、夢にしてはリアルすぎるな。やだなあ夢だよ、だから私の手を握って泣かないでよ貴大。あんためちゃくちゃ泣いてんじゃん、なんなのそんなに泣く貴大は初めて見るよ私。すげえ泣き虫じゃん。なに?まあたしかに自転車であんたの家には行ってたと思うんだけど、なんか私ここで寝てるんだよね。痛くなかったか痛かったよなってなにも感じてないけど……おまえなんで死んだんだって……。死んだ?私が?
いや夢だよね?まさか私、死んだの?
ねえ貴大、これ夢だから。私ぜんぜん死んでないから。だってあんたの声も聞こえるし、死ぬってさ、もっとこうバーンと死んだなってわかるもんじゃないの?ねえ泣かないでよ貴大、あんたが泣いたら本当に死んだのかなって思っちゃうじゃん。夢から覚めたら絶対に怒ってやる。そしておいしいもの食べに連れて行ってよね。
ああでも貴大の顔を見てると安心するな。やっぱ私、貴大のこと好きなんだ。夢の中でも安心するってよっぽど好きなんだ。自覚なかったな。なんかこうしているとさ、いろんなことを思い出すよね。ちっちゃいころから楽しかったな、友達もたくさんできたし、お父さんもお母さんも優しくて、いろんな話をしたんだよ。大学に入ってあんたに会って、すぐ付き合い始めたよね。勉強も楽しかったよ、イヤになることはいっぱいあったけど、でも将来ちゃんと働いて好きなことして生きたかったから。もっと真面目にやってりゃよかったなって思うけどさ。
あれ、なんで過去形なの?現在進行形じゃないの? 私いま過去形で考えてた?もう私の時間は進まないの?もしかしたらまわりの風景ぜんぶが白黒なのは、夢だからってわけじゃないの?
……本当に私は死んだの?
いやだいやだいやだ死んだんじゃない、これは夢なんだ。ねえ貴大、私を起こしてよ。静かに泣きながら私のほっぺたを触ってるんじゃなくてさ、今日だけは殴っていいから私を起こして?そしたら夢から覚めるんじゃない?ねえお願いだから夢から覚まして?ああ、だめだよなんか眠くなってきた。花の匂いがして、頭の上の方から色が見える。もしかしたらこれ夢じゃなくて、私は本当に死んだのかな。
どっちが夢なのかわからないよ。いっぱい遊んだのも、勉強したのも、貴大に会ったのも、私の人生は夢だったのかな。それともこれが夢なのかな。どっちが長い夢なのかな。
ねえ、どっちでもいいから、私の目を覚まさせて――――――。
(了)