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高橋源一郎の小説指南「小説でもどうぞ」選外佳作 はよ歌え/キユサマワカルフ

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ

第1回 高橋源一郎の小説指南「小説でもどうぞ」 佳作

はよ歌え
キユサマワカルフ

 その古ぼけた薄暗いライブハウスは、地下二階にある。錆びた手摺り。貼り紙の上から貼り紙の上から貼り紙。ドアを開けるとカビの匂いがカビ臭い。まばらな客がまばらに距離を取り、全員がマスクをしている。そのステージ上ではボーカルの男、金髪の長髪の薄毛で痩せてる…40ぐらいか…がスタンドマイクを手にしている。

 キーーーーン、とハウリング。が終わらないうちに男は喋り出す。声は思ったより高い。

「どうもー、えー、はじめましての方も多いのかな? アナーキーパンクロック…イーズ…『ブッコロシーズ!』 ということでね、記念すべき初パンキッシュ! きたねー。いやー、びっくりしたよねー。びっくりしたってかこんなのはじめてでさ、いやもちろんみんなもはじめてなんだろうけど、想像を絶するというかね、コロナ野郎のせいでもうさ、二回? 二回かな、二回だな、キャンセルになりかけたこのライブ、正直チャンスもうないかーと思ってたわけでね。ラーメン屋のバイトもシフトギャン減らしされるしさ、来なくても別にいいよってなんだよって話。オレより若い店長。あ、いまこれ関係ないか、ハハ。でもオレはこんなカタチで終わるわけにはいかないって思ってて、いやブッコロシーズ終わらないって決めてたから今日という日が迎えられたわけで。ま、つべこべ言わずにとっとと歌いたいと思う。

(謎に長い間)

 オレたち『ブッコロシーズ』は……………アナーキーパンクロックなんで、歌うことしか、できないから。

 また、キーーーーーーンと、かなり長いハウリング。

「オレたちイライラしてるね。毎日イライラしてる。国は一体何をしてるんですかって。体制に抗うのが我がパンク魂なわけで、戦争差別貧困搾取、バナナはおやつに入りません、

 じゃあチョコバナナはどーですかって申し訳ないけどオレは生まれ持っての反逆者なわけで。弱きには愛を、でもお上がいい加減なことしてると、この指立てるよ平気でね。そういう日々の悶々沸々とした思いを音楽のチカラで全世界に発信したい。魂を揺さぶりたいわけで。ワールドワイドでおかしいよ世の中。全人類的に狂ってるぜ。道端で四00円でお弁当売ってるおばさんがいる。みんな汗して働いてんの。ね。オレはおばさんから唐揚げ弁当を買ったね。お茶までついてた。で、四00円。そして割り箸袋に入ってた爪楊枝で指を刺しました。理不尽じゃね? オレに一体なんの罰? ちょっと血が出たし。誰も悪くないのに傷つく人がいる。そんな内なる言葉にならないこととか、ニュースとか実家の新聞とか読んで、いやいやいやこれおかしいんちゃうかーって親が言うこととか、誰かが言わないといけないこと、誰も言えないならオレが言うって感じで、そんな思いを母親にいろいろ言ってたら、詩にしてくれました。サンキュービッグマザー!

 まぁそんなこんなで、ちょっと長い話聞かせちゃったけど、はじめてのステージなんで許せみんな傷ついてるオレも傷ついてるその傷ついた世界をオレらパンク魂みたいなもので吹っ飛ばすぞって想い、この曲に込めました。オレ、パンクロッカーだからね、シノゴの言わず結局歌うしかないわけで。不器用です。そこはごめんね、ほんとごめん、言葉足らずはサウンドで繋ぐぜ。歌います。

 あ、でもこれ、実はせつないバラードなんだよね。母親がアナーキーとかパンクあんまり分かってないっつーか好きじゃないっつーか、なんかしっとりしたのがええわぁ、まーくんのキレイな声で歌って欲しいなー思て書いた詩なんよーゆうようなことで。作詞者を立ててってことでもないんだけど、それ、逆に、パンクかもねって話。逆にね。予定調和をブッコロシーズってことで。オレたち記念すべきはじめてのステージ。今年サイコーのパンクロックバラードです。

 聞いてくれ。

『まーくんはわるくないよ』」

 キーーーーーーーン。

(了)