公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

パロディ その3

タグ
作文・エッセイ
作家デビュー

『平家物語』と『源平盛衰記』

オマージュ作品は絵画、彫刻などに限らない。文字作品でもオマージュ作品は存在する。

例えば『平家物語』と『源平盛衰記』は明らかに違うタイトルなので、全く別の作品と誤解している人は多い。

だが、その冒頭を読み比べてみると、次のようである。

『平家物語』

 祇薗精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理りを顕す。驕れる人も久しからず、春の夜の夢尚長し。猛き者も終に滅びぬ、偏へに風の前の塵と留らず。遠く異朝を訪へば、秦の趙高、漢の王莽、梁の周異、唐の禄山、是等は皆、旧主先皇の務にも従はず、民間の愁ひ、世の乱れを知らざりしかば、久しからずして滅びにき。近く我が朝を尋ぬれば、承平の将門、天慶に純友、康和の義親、平治に信頼、驕れる心も猛き事も取々にこそ有りけれども、遂に滅びにき。縦ひ人事は詐ると云ふとも、天道詐りがたき者哉。王麗なる猶此くの如し、況や人臣位者、争か慎まざるべき。間近く、太政大臣平清盛入道、法名浄海と申しける人の有様、伝へ承るこそ心も詞も及ばれね。

『源平盛衰記』

 祇園精舎の鐘声、諸行無常の響あり、沙羅双樹の花色、盛者必衰の理を顕す。奢れる者も久からず、春の夜の夢の如し。猛心も終には亡ぬ、風前の塵に同じ。遠く訪異朝夏寒秦趙高、漢王莽、梁周伊、唐禄山、皆これ旧主先皇の政にも不随、民間の愁、世の乱をも不知しかば、久からずして滅にき。近尋我朝、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、侈れる心も武き事も、とりどりに有けれ共、まぢかく入道太政大臣平清盛と申ける人の有様、伝聞こそ心も詞も及ばれね。

『平家物語』の成立が先で、いや、『源平盛衰記』の成立が先だと、諸説あって、決着を見ていない。

いずれにしろ後発が先行作品のオマージュ作品ということになる。

文字作品でパロディ作品となると、最古は紀貫之『土左日記』だろう。

冒頭で「男のすなる日記というものを、女もしてみんとて」と、堂々とパロディであることを宣言している。

大きな影響を与えたとされる『紫式部日記』とか、『更級日記』とか、特定の名前を挙げているわけではないので、女性たちが書いた日記全般を指していることが分かる。

また、女性たちが書いた日記を、男たちも好んで求めて読んでいた社会的風潮までも『土左日記』からは読み取ることができる。

ヨーロッパにおけるパロディ、オマージュ

パロディ、オマージュという点ではヨーロッパのほうが歴史が古い。

『怪盗紳士ルパン』の作者モーリス・ルブランが『ルパン対シャーロック・ホームズ』という、オマージュ? パロディ? 作品を書いている。

 

シャーロックの頭文字のSを外して、ホームズの頭に移動させて『ルパン対エルロック・ショルメ」として、フランス語読みに変えたもので、あまりにも露骨すぎて、誰にでも分かる。

この作品は大評判となり、直ちにタイトル、及び作中人物の名前の変更が行われて『ルパン対シャーロック・ホームズ』となって現在に至っている。

作者のモーリス・ルブランは、大きな話題となってこういう展開になることを見越して、敢えて露骨な作品名にしたのかも知れない。

シャーロック・ホームズとルパンの人気はヨーロッパでは不滅のものらしく、ネット検索を懸けると両作品のパロディ作品、オマージュ作品が呆れるほど大量に引っ掛かる。

関心のある人は「こういう作品を書いて応募しても、新人賞は絶対に射止められないぞ」と肝に銘じた上で、片端から読んでみても、良いだろう。

『怪盗紳士ルパン対金田一耕助』などは面白くなるだろうが、いくら本人が「これは、オマージュ作品です」と主張したところで、一次選考も通るわけがない。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

 

若桜木先生の講座