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文学賞解体新書『松本清張賞』

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

松本清張賞

今回は、十一月三十日締切(消印有効。四百字詰原稿用紙三百?六百枚。ワープロ原稿は40字30行で、A4用紙に縦書き印字して百?二百枚)の松本清張賞について論じることにする。

で、第二十回受賞作の山口恵以子『月下上海』を読むと、これは近年の新人賞受賞作では稀に見る傑作と言えるだろう。第十九回の受賞作、『烏に単は似合わない』(阿部智里)と比較すると力量に雲泥の開きがある。山口を横綱とすれば、阿部は、せいぜい十両か、平幕の下位。

山口の「新鷹会会員」という経歴を見て、頷けた。新鷹会は新人作家の発掘、創作の研究を目的として活動する財団法人で、現在の理事長は平岩弓枝。直木賞受賞者を輩出したが、特に歴史小説、時代小説の時代考証にうるさく、厳しいことで有名。

松本清張賞は、故人となった直木賞作家の山本兼一の受賞作『火天の城』に、とんでもない時代考証間違いがあった(望遠鏡が存在しない時代に、信長が宣教師から献上されたとされる望遠鏡で、建築途中の安土城を眺める)ことで分かるように、編集部が時代考証に疎い。選考委員が当時とは交代したが、その後も、時代考証に強くなったとは思えない。

しかし『月下上海』を読めば山口が途轍もなく時代考証に詳しいことは歴然と分かる。太平洋戦争の只中の上海がメインの舞台だが、多量の史料に当たったり、おそらくは往時の中国を体験した生存者に取材したのだろう、といった片鱗が、明確に読み取れる。

菊池寛とか、実在の人物との絡ませ方も巧みで、主人公の財閥令嬢で洋画家の矢島多江子までもが実在のドキュメンタリー・エンターテインメントなのではないか、という錯覚さえ感じさせる。


惜しむらくは物語が時系列順に並んでおらず、第二章でカットバックして、物語が主人公の少女時代に戻ること。

なぜカットバックの手法を採用したのかというと、おそらく少女時代を冒頭に持って行ったのでは読者を食いつかせるだけのインパクトが足りない、と考えたのだろうが、松本清張賞は上限が六百枚と余力があるのだから、二部構成にすべきだった。

少女時代から始まっても、不貞を働いた夫を罠に掛けるために、殺人事件を偽装した自殺未遂を起こすという強烈なインパクトのエピソードがあるのだから、ここは工夫次第。

上海時代のエピソードも、いささか主人公に都合良く展開しすぎる。

まあ、山口の早大文学部卒業後、松竹シナリオ研究所で学び、二時間ドラマのプロットを多数作成する、という経歴から見て「映像化された際に受けるストーリー展開」を念頭に置いたというか、そのように物語を構成する習性が身についていることが読み取れる。

登場人物全員のキャラが魅力的に立っているが、これもテレビドラマや映画で受けそうなステレオ・タイプの造型と言えなくもない。

この辺りは、キャラ設定に自信のない応募者には「なるほど、こういう登場人物を並べれば受けるのか」という参考にはなるだろうが、それもこれも緻密な時代考証の裏付けがあってのことである。


いくらテレビ受けしそうな登場人物を並べても、これが現代劇では、色褪せる。太平洋戦争直下の上海という背景があるからこそ説得力を持って読者を物語世界に引き込める。

これは第九回小説現代長編新人賞受賞作の小島環『三皇の琴 天地を鳴動さす』にも言える。

作風は一貫して、大人物として読むとライトノベルっぽいし、ライトノベルとして読むには、難しすぎる(作者が中国文学専攻だから致し方ないが)という中間路線だが、今は大人物とライトノベルの中間的な雰囲気の作品が売れている。

競合作に大人物の傑作が来た場合には不利だが、常にそんな競合作とかち合う、などという不運は、そうそう連続して起こるものではないので、いずれビッグ・タイトルのグランプリを射止めると予想していたが、今回そうなった。

選考委員は○、△、×で大雑把な前評価をして最終選考に臨むが、受賞作の○は一つで他は△。それでも総合点でトップに立っての受賞。

この受賞作も、古代中国の時代考証で選考委員の何人かを唸らせている。必ずしも時代考証に限らないが、何らかの専門的知識で選考委員を唸らせるというのは、大きな新人賞を射止めるには極めて重要なことである。選考委員が唸るほどの専門的な知識は「その分野は、なかなか他の作家には書けない」というオリジナリティになるからだ。

その辺りを着眼点に『月下上海』と『三皇の琴』を読んで見ると新人賞狙いの“傾向と対策”に役立つだろう(小島は西尾嘉泰の別筆名で青松書院から受賞前の作品が出ている)。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、松本清張賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 松本清張賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

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 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

松本清張賞(2014年11月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

松本清張賞

今回は、十一月三十日締切(消印有効。四百字詰原稿用紙三百?六百枚。ワープロ原稿は40字30行で、A4用紙に縦書き印字して百?二百枚)の松本清張賞について論じることにする。

で、第二十回受賞作の山口恵以子『月下上海』を読むと、これは近年の新人賞受賞作では稀に見る傑作と言えるだろう。第十九回の受賞作、『烏に単は似合わない』(阿部智里)と比較すると力量に雲泥の開きがある。山口を横綱とすれば、阿部は、せいぜい十両か、平幕の下位。

山口の「新鷹会会員」という経歴を見て、頷けた。新鷹会は新人作家の発掘、創作の研究を目的として活動する財団法人で、現在の理事長は平岩弓枝。直木賞受賞者を輩出したが、特に歴史小説、時代小説の時代考証にうるさく、厳しいことで有名。

松本清張賞は、故人となった直木賞作家の山本兼一の受賞作『火天の城』に、とんでもない時代考証間違いがあった(望遠鏡が存在しない時代に、信長が宣教師から献上されたとされる望遠鏡で、建築途中の安土城を眺める)ことで分かるように、編集部が時代考証に疎い。選考委員が当時とは交代したが、その後も、時代考証に強くなったとは思えない。

しかし『月下上海』を読めば山口が途轍もなく時代考証に詳しいことは歴然と分かる。太平洋戦争の只中の上海がメインの舞台だが、多量の史料に当たったり、おそらくは往時の中国を体験した生存者に取材したのだろう、といった片鱗が、明確に読み取れる。

菊池寛とか、実在の人物との絡ませ方も巧みで、主人公の財閥令嬢で洋画家の矢島多江子までもが実在のドキュメンタリー・エンターテインメントなのではないか、という錯覚さえ感じさせる。


惜しむらくは物語が時系列順に並んでおらず、第二章でカットバックして、物語が主人公の少女時代に戻ること。

なぜカットバックの手法を採用したのかというと、おそらく少女時代を冒頭に持って行ったのでは読者を食いつかせるだけのインパクトが足りない、と考えたのだろうが、松本清張賞は上限が六百枚と余力があるのだから、二部構成にすべきだった。

少女時代から始まっても、不貞を働いた夫を罠に掛けるために、殺人事件を偽装した自殺未遂を起こすという強烈なインパクトのエピソードがあるのだから、ここは工夫次第。

上海時代のエピソードも、いささか主人公に都合良く展開しすぎる。

まあ、山口の早大文学部卒業後、松竹シナリオ研究所で学び、二時間ドラマのプロットを多数作成する、という経歴から見て「映像化された際に受けるストーリー展開」を念頭に置いたというか、そのように物語を構成する習性が身についていることが読み取れる。

登場人物全員のキャラが魅力的に立っているが、これもテレビドラマや映画で受けそうなステレオ・タイプの造型と言えなくもない。

この辺りは、キャラ設定に自信のない応募者には「なるほど、こういう登場人物を並べれば受けるのか」という参考にはなるだろうが、それもこれも緻密な時代考証の裏付けがあってのことである。


いくらテレビ受けしそうな登場人物を並べても、これが現代劇では、色褪せる。太平洋戦争直下の上海という背景があるからこそ説得力を持って読者を物語世界に引き込める。

これは第九回小説現代長編新人賞受賞作の小島環『三皇の琴 天地を鳴動さす』にも言える。

作風は一貫して、大人物として読むとライトノベルっぽいし、ライトノベルとして読むには、難しすぎる(作者が中国文学専攻だから致し方ないが)という中間路線だが、今は大人物とライトノベルの中間的な雰囲気の作品が売れている。

競合作に大人物の傑作が来た場合には不利だが、常にそんな競合作とかち合う、などという不運は、そうそう連続して起こるものではないので、いずれビッグ・タイトルのグランプリを射止めると予想していたが、今回そうなった。

選考委員は○、△、×で大雑把な前評価をして最終選考に臨むが、受賞作の○は一つで他は△。それでも総合点でトップに立っての受賞。

この受賞作も、古代中国の時代考証で選考委員の何人かを唸らせている。必ずしも時代考証に限らないが、何らかの専門的知識で選考委員を唸らせるというのは、大きな新人賞を射止めるには極めて重要なことである。選考委員が唸るほどの専門的な知識は「その分野は、なかなか他の作家には書けない」というオリジナリティになるからだ。

その辺りを着眼点に『月下上海』と『三皇の琴』を読んで見ると新人賞狙いの“傾向と対策”に役立つだろう(小島は西尾嘉泰の別筆名で青松書院から受賞前の作品が出ている)。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、松本清張賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 松本清張賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。