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純文学からエンタメへの足掛かりに『江戸川乱歩賞』

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作文・エッセイ
作家デビュー

 【特別企画】

 下村敦史×若桜木虔 WEB対談 開催中!(2016/12/12~)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

江戸川乱歩賞

純文からエンタメへの転向

今回は江戸川乱歩賞(一月三十一日締切。三十文字×四十行フォーマットで百十五枚以上百八十五枚以内)について述べる。

応募要項では手書き原稿でもOKのはずだが、授賞パーティの会場で「手書き原稿は読まない」旨の発言が有力作家の口から出た。確認のしようがないが、手書き原稿不可と明確に謳った新人賞も増えているので、やはり印字原稿で応募すべきである。

第六十二回の受賞作『QJKJQ』(佐藤究)について述べると、これは相当に変わった作風の作品である(Qはトランプの、クイーン、Jはジャック、Kはキングを意味する)。

佐藤は二〇〇四年に『サージウスの死神」が群像新人文学賞の優秀作に選ばれた、つまり本来は純文学畑の作家で、それを念頭に置いて読むと『QJKJQ』の中身の不思議さ(主として後半の四分の一)が理解できる。

ずっと純文学畑で新人賞に応募してきて、思い切ってエンターテインメント系に転向しようと考えているアマチュアには、ある程度の指針になるだろう。

江戸川乱歩賞は受賞作の刊行から次回の締切までに約半年の間があるので、受賞作のレベルに隔年現象が現れる。つまり、傑作が受賞した翌年は「これは難しい」と敬遠されて駄作が受賞し、その翌年は「この程度なら自分にも書ける」と応募者が殺到してハイレベルの戦いになりがちである。

第六十回の受賞作『闇に香る嘘』(下村敦史)の作品は近年では傑作の部類に属し、第六十一回の『道徳の時間』(呉勝浩)は歴代の受賞作の中では最低の駄作だった。かつて最終候補止まりで受賞を逸した作品群よりも低レベル。その反動もあって『QJKJQ』は傑作になるはずだったが、これが傑作か否かは評価が割れるだろう。

これを読んだ某ビッグ・タイトルの新人賞受賞作家から「私は、こういうタイプの作品は、大嫌いです。なのに、なぜか、すんなり最後まで読めました。なぜなんでしょう?」と質問された。だが、理由は明白だった。

『QJKJQ』の文章は、短文が主体である。文章は、句点で区切るまでの一文中の動詞数が四個以上あると、一挙に読解が困難になるのだが、この作品の文章は動詞数が三個までで、それも、極めて少ない。たいてい一個か二個で、動詞がゼロの文章も珍しくない。

こういう作品は、書かれている中身が、すっと頭に入ってくる。これと正反対の、やたら長文が目立つ受賞作は第十回日本ミステリー文学大賞新人賞の『水上のパッサカリア』(海野碧)である。

二作品を読み比べてみてほしい。『水上の』は「こういう文章を書いたらダメ」の悪見本である。たとえ新人賞を受賞できても「この作家の作品は読みにくい」と読者に見放されて、文壇から消える確率が極めて高い。

『QJKJQ』の内容に触れると、主人公は女子高生で、両親と兄の四人家族。その全員がサイコ・キラーで、自宅には連れ込んだ被害者を殺して処理する専用の部屋まで存在する、という途方もない設定。今までにサイコ・キラーもののミステリーは何作もあったが、これほど途轍もない設定の作品はなかった。

新人賞受賞のキーポイントが「これまでに例のない作品を書ける新人の発掘」にある以上は、こういう変な設定を考えられただけで高評価。

通常はメフィスト賞受賞作の『ハサミ男』(殊能将之)のようにサイコ・キラーvs警察の知恵比べに向かうのだが、そうならない。

主人公の女子高生が、虐めの音頭をとっている同級生を逆に痛めつけて脅すあたりまでは、いかにもサイコ・キラー物らしいのだが、大逆転のドンデン返しが来る。

実はサイコ・キラー一家は主人公の妄想で、母親と兄が突然、家の中から消えたのだが、母も兄も最初から実在しておらず、父子家庭だった。

その父親にしても、真実の父親なのかが分からず……と、どんどん物語が摩訶不思議な方向に展開して、というか、脱線していく。これは実は、かつてSFで一世を風靡した手法である。選考委員の一人の辻村深月は「少しも新しくない」と看破しているのだが、SFに耽溺した過去を持つ読者でなければ気づかない。つまり「新しい作風」ということになる。SFの売れ行きが極めて悪く、ライトノベル以外ではSFで新人賞を射止められる可能性は皆無に近いが、どうしてもSFを書きたい人には「ミステリーと思っていたら実はSFだった」という手法は参考になるし、後半の四分の一を過ぎると文章内容も難解になって純文学の世界に入っていく。

この辺りは、純文学を足懸かりに、エンターテインメントに進みたいアマチュアの格好な指針になりそうに思われる。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、江戸川乱歩賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 江戸川乱歩賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

江戸川乱歩賞(2016年12月号)

 【特別企画】

 下村敦史×若桜木虔 WEB対談 開催中!(2016/12/12~)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

江戸川乱歩賞

純文からエンタメへの転向

今回は江戸川乱歩賞(一月三十一日締切。三十文字×四十行フォーマットで百十五枚以上百八十五枚以内)について述べる。

応募要項では手書き原稿でもOKのはずだが、授賞パーティの会場で「手書き原稿は読まない」旨の発言が有力作家の口から出た。確認のしようがないが、手書き原稿不可と明確に謳った新人賞も増えているので、やはり印字原稿で応募すべきである。

第六十二回の受賞作『QJKJQ』(佐藤究)について述べると、これは相当に変わった作風の作品である(Qはトランプの、クイーン、Jはジャック、Kはキングを意味する)。

佐藤は二〇〇四年に『サージウスの死神」が群像新人文学賞の優秀作に選ばれた、つまり本来は純文学畑の作家で、それを念頭に置いて読むと『QJKJQ』の中身の不思議さ(主として後半の四分の一)が理解できる。

ずっと純文学畑で新人賞に応募してきて、思い切ってエンターテインメント系に転向しようと考えているアマチュアには、ある程度の指針になるだろう。

江戸川乱歩賞は受賞作の刊行から次回の締切までに約半年の間があるので、受賞作のレベルに隔年現象が現れる。つまり、傑作が受賞した翌年は「これは難しい」と敬遠されて駄作が受賞し、その翌年は「この程度なら自分にも書ける」と応募者が殺到してハイレベルの戦いになりがちである。

第六十回の受賞作『闇に香る嘘』(下村敦史)の作品は近年では傑作の部類に属し、第六十一回の『道徳の時間』(呉勝浩)は歴代の受賞作の中では最低の駄作だった。かつて最終候補止まりで受賞を逸した作品群よりも低レベル。その反動もあって『QJKJQ』は傑作になるはずだったが、これが傑作か否かは評価が割れるだろう。

これを読んだ某ビッグ・タイトルの新人賞受賞作家から「私は、こういうタイプの作品は、大嫌いです。なのに、なぜか、すんなり最後まで読めました。なぜなんでしょう?」と質問された。だが、理由は明白だった。

『QJKJQ』の文章は、短文が主体である。文章は、句点で区切るまでの一文中の動詞数が四個以上あると、一挙に読解が困難になるのだが、この作品の文章は動詞数が三個までで、それも、極めて少ない。たいてい一個か二個で、動詞がゼロの文章も珍しくない。

こういう作品は、書かれている中身が、すっと頭に入ってくる。これと正反対の、やたら長文が目立つ受賞作は第十回日本ミステリー文学大賞新人賞の『水上のパッサカリア』(海野碧)である。

二作品を読み比べてみてほしい。『水上の』は「こういう文章を書いたらダメ」の悪見本である。たとえ新人賞を受賞できても「この作家の作品は読みにくい」と読者に見放されて、文壇から消える確率が極めて高い。

『QJKJQ』の内容に触れると、主人公は女子高生で、両親と兄の四人家族。その全員がサイコ・キラーで、自宅には連れ込んだ被害者を殺して処理する専用の部屋まで存在する、という途方もない設定。今までにサイコ・キラーもののミステリーは何作もあったが、これほど途轍もない設定の作品はなかった。

新人賞受賞のキーポイントが「これまでに例のない作品を書ける新人の発掘」にある以上は、こういう変な設定を考えられただけで高評価。

通常はメフィスト賞受賞作の『ハサミ男』(殊能将之)のようにサイコ・キラーvs警察の知恵比べに向かうのだが、そうならない。

主人公の女子高生が、虐めの音頭をとっている同級生を逆に痛めつけて脅すあたりまでは、いかにもサイコ・キラー物らしいのだが、大逆転のドンデン返しが来る。

実はサイコ・キラー一家は主人公の妄想で、母親と兄が突然、家の中から消えたのだが、母も兄も最初から実在しておらず、父子家庭だった。

その父親にしても、真実の父親なのかが分からず……と、どんどん物語が摩訶不思議な方向に展開して、というか、脱線していく。これは実は、かつてSFで一世を風靡した手法である。選考委員の一人の辻村深月は「少しも新しくない」と看破しているのだが、SFに耽溺した過去を持つ読者でなければ気づかない。つまり「新しい作風」ということになる。SFの売れ行きが極めて悪く、ライトノベル以外ではSFで新人賞を射止められる可能性は皆無に近いが、どうしてもSFを書きたい人には「ミステリーと思っていたら実はSFだった」という手法は参考になるし、後半の四分の一を過ぎると文章内容も難解になって純文学の世界に入っていく。

この辺りは、純文学を足懸かりに、エンターテインメントに進みたいアマチュアの格好な指針になりそうに思われる。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、江戸川乱歩賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 江戸川乱歩賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。