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アガサ・クリスティー賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

 【特別企画】

 下村敦史×若桜木虔 WEB対談 開催中!(2016/12/12~)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

アガサ・クリスティー賞

今回は、アガサ・クリスティー賞(一月三十一日締切。消印有効。三十×四十フォーマットで印字。四百字詰め換算で四百枚以上八百枚以内)について述べる。

第六回は該当作なしなので、第五回受賞作の『うそつき、うそつき』(清水杜氏彦)を取り上げる。

なお、清水は同じ年に『電話で、その日の服装等を言い当てる女について』で第三十七回の小説推理新人賞(これは短編賞なので、未刊)をW受賞している達者な書き手である。

さて、『うそつき』について述べると、典型的なSFである。

SFが壊滅的に売れていない現在では、東京創元社と並んで「SFの老舗」を自負する早川書房でなければ大賞に選ばれることはなかっただろう、と思われる作品である。

ライトノベル以外で、何としてもSFを書いて世に出たい、と切望しているアマチュアにとっては「希望の光」となりそうな作品。

これが本格ミステリーや新本格ミステリー(不可解な密室殺人事件が起こる等)であれば、密室殺人事件マニアの読者が飛びつくので一定以上の販売部数が見込めるから、横溝正史ミステリ大賞、鮎川哲也賞、福山ミステリー文学賞などでの受賞の可能性があるから、狙える。しかし『うそつき』は本格でも、新本格でもない。そもそもトリックが存在しない。強いて言うならば、「青春冒険SFミステリー」である。

『うそつき』を読んで真っ先に思ったのは一九九二年制作の米豪合作のSFアクション映画『フォートレス/未来要塞からの脱出』との類似性だった。『フォートレス』は二〇一七年が舞台の近未来SFで、あたかも「一人っ子政策の」中国のように、政府は人口増加を抑制するため産児制限法を制定、女性は子供を一人しか、産めなくなった。主人公夫婦は最初の子供を亡くしたため、違法を承知の上で二人目の子供を宿し、国外脱出を計画するが失敗、逮捕されて刑務所へ送られる。囚人の体には体内爆破装置が埋められ、どんな動きもモニターされて、脱出を試みるや、容赦なく爆殺される。

『うそつき』に話を戻すと、物語の舞台の未来世界では、簡易嘘発見器が開発されて首輪として全国民が装着することを義務づけられた。嘘をついたり激しく動揺すると首輪の表示ランプが赤く光るので誰も嘘をつくことができない。

何かと不都合なので、これを密かに外そうとする「首輪除去者」が出る。『うそつき』の主人公のフラノは、十六歳から首輪外しを業として始めた首輪除去者で、十六歳から十八歳までの二年間の人生が描かれる。首輪の除去に失敗すると、首輪は急速に絞まり始め、装着者を瞬時に絞殺してしまう仕掛けとなっている。

これが『フォートレス』と酷似していると感じられる点である。

さて、『うそつき』は主人公フラノの十六歳と十八歳の時が交互に出てくる形で物語が進行する。

要するに敢えて時系列を崩しているわけだが、エンターテインメントでは回想を可能な限り避け、エピソードを出来事の順番通りに並べるのが鉄則。この鉄則を外すと選考時の減点対象にする選考委員が多いので要注意。『うそつき』には回想シーンも多く出てくる。

『うそつき』は「果たして、こういうエピソードの構成順序がベストなのか? これ以外の構成方法は有り得なかったのか?」を検討しながら読む必要がある。

アガサ・クリスティー賞の選考委員には作家が一人しかおらず、他は文芸評論家、翻訳家、ミステリー雑誌の編集長である。プロ作家が選考委員の大半を占める他のミステリー系新人賞とは自ずと選び方の主眼が変わってくる。

他のミステリー系新人賞の受賞作と読み比べれば、アガサ・クリスティー賞で評価されるポイントがどの辺りにあるのかが朧げながらに見えてくるだろう。かなり違う、とだけは明言しておく。他のミステリー系新人賞では禁忌の物語構成が大きな評価を受ける可能性は、充分にある

『うそつき』は、交互に出てくる十六歳時代と十八歳時代で、それぞれフラノが依頼者の首輪を外そうとするエピソードが描かれる。

つまり、短編連作の趣である。

で、全体を通して大きな謎「誰が何のために首輪を開発したのか」と、首輪には四つのメーカーがあって、それぞれ外すには難易度が異なり、一つだけレンゾレンゾ社という「絶対に外せない首輪メーカー」があるのだが、それは何故なのか、という二つの謎をフラノが追う物語構成で、そこが、ミステリーらしいと言えばミステリーらしい要素。

主人公の死によって二つの謎は解けるのだが、ここは、よくよく深読みしないと、謎が解けたのか否かがピンと来ないだろう。

こういうエンディングが他の新人賞でも許されるのかは疑問――と考えながら読めば『うそつき』は今後の指針になる作品だろう。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

アガサ・クリスティー賞

今回は、アガサ・クリスティー賞(一月三十一日締切。消印有効。三十×四十フォーマットで印字。四百字詰め換算で四百枚以上八百枚以内)について述べる。

第六回は該当作なしなので、第五回受賞作の『うそつき、うそつき』(清水杜氏彦)を取り上げる。

なお、清水は同じ年に『電話で、その日の服装等を言い当てる女について』で第三十七回の小説推理新人賞(これは短編賞なので、未刊)をW受賞している達者な書き手である。

さて、『うそつき』について述べると、典型的なSFである。

SFが壊滅的に売れていない現在では、東京創元社と並んで「SFの老舗」を自負する早川書房でなければ大賞に選ばれることはなかっただろう、と思われる作品である。

ライトノベル以外で、何としてもSFを書いて世に出たい、と切望しているアマチュアにとっては「希望の光」となりそうな作品。

これが本格ミステリーや新本格ミステリー(不可解な密室殺人事件が起こる等)であれば、密室殺人事件マニアの読者が飛びつくので一定以上の販売部数が見込めるから、横溝正史ミステリ大賞、鮎川哲也賞、福山ミステリー文学賞などでの受賞の可能性があるから、狙える。しかし『うそつき』は本格でも、新本格でもない。そもそもトリックが存在しない。強いて言うならば、「青春冒険SFミステリー」である。

『うそつき』を読んで真っ先に思ったのは一九九二年制作の米豪合作のSFアクション映画『フォートレス/未来要塞からの脱出』との類似性だった。『フォートレス』は二〇一七年が舞台の近未来SFで、あたかも「一人っ子政策の」中国のように、政府は人口増加を抑制するため産児制限法を制定、女性は子供を一人しか、産めなくなった。主人公夫婦は最初の子供を亡くしたため、違法を承知の上で二人目の子供を宿し、国外脱出を計画するが失敗、逮捕されて刑務所へ送られる。囚人の体には体内爆破装置が埋められ、どんな動きもモニターされて、脱出を試みるや、容赦なく爆殺される。

『うそつき』に話を戻すと、物語の舞台の未来世界では、簡易嘘発見器が開発されて首輪として全国民が装着することを義務づけられた。嘘をついたり激しく動揺すると首輪の表示ランプが赤く光るので誰も嘘をつくことができない。

何かと不都合なので、これを密かに外そうとする「首輪除去者」が出る。『うそつき』の主人公のフラノは、十六歳から首輪外しを業として始めた首輪除去者で、十六歳から十八歳までの二年間の人生が描かれる。首輪の除去に失敗すると、首輪は急速に絞まり始め、装着者を瞬時に絞殺してしまう仕掛けとなっている。

これが『フォートレス』と酷似していると感じられる点である。

さて、『うそつき』は主人公フラノの十六歳と十八歳の時が交互に出てくる形で物語が進行する。

要するに敢えて時系列を崩しているわけだが、エンターテインメントでは回想を可能な限り避け、エピソードを出来事の順番通りに並べるのが鉄則。この鉄則を外すと選考時の減点対象にする選考委員が多いので要注意。『うそつき』には回想シーンも多く出てくる。

『うそつき』は「果たして、こういうエピソードの構成順序がベストなのか? これ以外の構成方法は有り得なかったのか?」を検討しながら読む必要がある。

アガサ・クリスティー賞の選考委員には作家が一人しかおらず、他は文芸評論家、翻訳家、ミステリー雑誌の編集長である。プロ作家が選考委員の大半を占める他のミステリー系新人賞とは自ずと選び方の主眼が変わってくる。

他のミステリー系新人賞の受賞作と読み比べれば、アガサ・クリスティー賞で評価されるポイントがどの辺りにあるのかが朧げながらに見えてくるだろう。かなり違う、とだけは明言しておく。他のミステリー系新人賞では禁忌の物語構成が大きな評価を受ける可能性は、充分にある

『うそつき』は、交互に出てくる十六歳時代と十八歳時代で、それぞれフラノが依頼者の首輪を外そうとするエピソードが描かれる。

つまり、短編連作の趣である。

で、全体を通して大きな謎「誰が何のために首輪を開発したのか」と、首輪には四つのメーカーがあって、それぞれ外すには難易度が異なり、一つだけレンゾレンゾ社という「絶対に外せない首輪メーカー」があるのだが、それは何故なのか、という二つの謎をフラノが追う物語構成で、そこが、ミステリーらしいと言えばミステリーらしい要素。

主人公の死によって二つの謎は解けるのだが、ここは、よくよく深読みしないと、謎が解けたのか否かがピンと来ないだろう。

こういうエンディングが他の新人賞でも許されるのかは疑問――と考えながら読めば『うそつき』は今後の指針になる作品だろう。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞 木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞 山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞 近藤五郎(第1回優秀賞)
電撃小説大賞 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)
『幽』怪談文学賞長編賞 風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。