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第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」最優秀賞 復活祭 樺島ざくろ

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結果発表
第7回結果発表
課 題

神さま

※応募数293編
 復活祭 
樺島ざくろ

 駅前の団地が取り壊されたのは、三年前のことだ。大きな道路が通る予定だというけれど、なかなか工事は始まらなかった。三棟あった団地の跡地はけっこうな広さで、その周りをぐるりと取り囲む金属製の工事囲いが、俺の通勤路を殺風景なものにしていた。
 囲いは背が高く、中の様子はわからない。けれどある場所に、ほんのわずかなすき間があるのを、俺は偶然発見した。ためしに覗くと、狭い範囲だがよく見える。
 三年放っておかれた囲いの中は、雑草の無法地帯になっていた。どこからか種が飛んできたのか、実をつけた木々まで生い茂り、ところどころに咲く花には蝶が飛び交う。
 町なかに出現した、場違いな野生の小国。しかもそれを知っているのは俺ひとりだ。退屈でどうでもいい毎日の中で、この穴を覗くことが、俺のひそかな楽しみになった。
 ある晩。飲み過ぎた帰り道、俺はいつものようにすき間から囲いの中をひょいっと覗いた。月の明るい晩だった。風にゆれる雑草群から虫の声が響く。ふとその声が止んだかと思うと、俺は信じられないものを目にした。
 首だった。長い首が地面からにゅうっと現れると、スッと高い位置で止まったのだ。月に青く照らされたそれは、子どものころ恐竜図鑑で見た首長竜によく似ていた。そいつは地面であるはずの場所をスイスイ泳ぎ、ときおり首を地中に差し入れたりしている。
 ハハハ。飲みすぎたかな。
 頭をふって立ち去ろうとした俺は、視線を感じ顔を上げた。輝く一対の瞳が、囲いの上から興味深そうに俺を眺めている。
「うわあ!」
 声に驚いたのか、首長竜はあわてて地中にもぐり、それきり出てこなかった。
 なんだったんだ、あれは。
 一夜明けても疑問がぬぐえない俺は、もういちど団地跡地を確かめることにした。
 早朝、覗き穴をこっそり覗く。いつも通りの荒れ放題の空き地。首長竜の姿はない。
 そうだよな、昨日はどうかしてたんだ。
 帰りかけたとき、妙な地鳴りを感じた。
 やっぱりいるんだ、首長竜が!
 急いで穴を覗く。しかしそこにいたのは首長竜ではなかった。長い鼻と二本の牙を持つ、毛の長いゾウ。いや、マンモスだった。
「やっべえ、みつかっちゃった? 音声オフにしといたのになぁ」
 うしろから声がした。だぼだぼのパーカーを着てコンビニ袋をぶらさげた、若い男だ。
「ここじゃなんだから、まあ中にどうぞ」
 囲いの金属板がひとりでに開く。俺はこわごわ中へ足を踏み入れた。広い空き地には、マンモスのほかにも見慣れぬ生物が動き回っていた。横に広がった立派な角のある、あれはヘラジカってやつか? それにあの鳥、ドードーに似ている。っていうかあそこにいるのは、まさかトリケラトプスじゃねえよな。
「ここはいったい……」
 俺の問いに男が答える。
「動作確認の実験場だよ」
「へ?」
「過去に不具合があって退場させたキャラを修正して、ここで最終確認をしてんの」
「はあ」
「自分、けっこう仕事が雑でさ。修正のたんびにUMAとかオーパーツとか、やらかしバグが多いのよ。今回は慎重にやってるんだ」
 なに言ってんだ、こいつは。
「かわいいだろ? 素晴らしいだろ? どれも気に入りのキャラなんだ。ストーリーはだいぶ進んじゃったけど、ワンチャンどっかにねじこんで、現世の皆にも見せてやりたいと思ってた。マンネリ防止にもなるしね。ただ、この章の世界観をぶっ壊さないか心配で、なかなか実装に踏み切れなかったんだよね」
「ちょっと待てよ。さっきからあんたいったいなんなの? ゲームの開発者かなんか?」
「あはは。まあ、当たってないこともないか」
 そのとき、目の前を巨大トンボが横切った。透明な羽が、朝日をのせてきらきらと光る。
「綺麗、だな」
 思わずため息をもらした俺を見て、男は満足そうにうなずいた。
「だろ? よし決まり。復活祭をはじめよう」
 気がつくと俺は布団の中にいた。なんだ夢オチかよと思ったとき、テレビにはとんでもない光景が映し出されていた。
「ご覧ください、リョコウバトの群れで空一面が覆われています! 絶滅したはずのこの鳥が、なぜ今になって復活したのでしょうか。しかも不思議なことに、鳴き声も羽ばたきも、一切音が聞こえないのです!」
 レポーターの興奮した声が画面から響く。
 おいおい、早速やらかしてるぞ! 消音設定のままになってるじゃねえか。
 声をあげて笑ったのは久しぶりだ。腹の底から、わくわくした気持ちがわき上がる。
 俺はこの世の続きが楽しみになった。
(了)