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2020年5月号特集SPECIAL INTERVIEW 村田沙耶香さん

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公募ガイド5月号の特集「文芸編集者に教わる小説講座」では、芥川賞作家の村田沙耶香さんにご登場いただきました。
誌面に入りきらなかったインタビューをご紹介します。

村田先生インタビュー

――プロットはお作りになられますか。

村田先生:私はラストも途中も全く決めずに書きます。最初はノートを使って、主人公の似顔絵と設定を書いて、そこから自然に生まれるシーンを、後で捨てることになっても、書き留めていきます。ある程度、シーンを重ねるうちにだんだん小説が見えてくるので、そこからパソコンを使って書き始めます。

――今回の『丸の内魔法少女ミラクリーナ』も、また芥川賞を受賞した『コンビニ人間』も、“普通”とされていることとのズレを主題にしているように感じました。

村田先生:自分は“普通”の側に立っていることと、“変わっている”ほうに立たされること、両方の感覚を知っていて、両方の視点で違和感があります。“普通”の側に立っているときは、なんでだろうと、自分に問いかけることが多い気がします。違和感を覚えるときは何かセンサーが反応しているときだと思うので大事にしています。「死とはなんだろう」とか、「動物の革のバッグはあるのに、なんで人間の皮は使わないのだろう」とか、小学生が無邪気に考えるように思うことが多いですね。

――純文学とはどんなものだと思いますか。

村田先生:何もない小説でしょうか。どんな小説にも根底にあるものしかない小説だと思います。これは尊敬する方の受け売りですが、純文学には何か他と違うものがある、というのは勘違いで、全ての小説の根底に流れているものがあって、それにプラスアルファで、人を楽しませる要素が加えられることで、エンターテイメントになるのではないか、と仰っていて。それを鵜呑みにして、純文学とは、では本当はすごくシンプルなものなのかもしれないな、と勝手に思っています。

インタビューを終えて(編集後記)

普通の人に戦いを挑むのが小説!

外国に行くと、彼我の差を知ったりします。
田舎から都会に出てきたときも、習慣や文化の違いに驚いたりします。
身近なところでも、知人が当然のようにやったことが自分の常識と違うと、あれ、そういうものなのかなと思ったりします。

気づきがあるという意味では、他人と違った習慣、文化、感覚を持っていたほうがいいです。
特に創作をしたいという人は、独自の感性を持っていたほうが有利ですね。そのほうが常識をうがつことができます。
「うがつ」というのは表面に現れない事実や世態、人情の機微をとらえること。「なるほど、言われてみればそうだ」というところに気づきやすくなるのですね。

 

しかし、人と違うというのは、本人からするとつらいところもあります。
多数派の場合は気になりませんが、自分は少数派であり、しかも、そのことで下に見られていると思うと、ちょっと気になります。
「それが常識だ」と言わんばかりに責めるように言うけど、その常識って本当に正しいの?と思ってしまいますね。

 

村田沙耶香さんの芥川賞受賞作『コンビニ人間』ではないですが、30歳を過ぎてコンビニでアルバイトしていることをおかしいとか、普通になるための腰かけのように言われるのもなんだかなあですね。
こうした普通と思われている常識に戦いを挑んできたのが、実は純文学なんです。

小説は孤独な疑いから生まれる

村田沙耶香さんの新刊『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は少女向けのファンタジーとかではありません。「普通だと思われていることは本当にそうなのか」に気づかせてくれる、考えさせられる小説です。

たとえば、収録された短編「無性教室」では、性別が禁止されています。
相手が男か女かわからない状態で、恋愛が発生するかな、異性だと思って好きになったら同性だと知ったときはどうするかななど、考えてしまいますね。

別の短編「変容」はファミレスが舞台ですが、そこで働く若者は客に理不尽な苦情を言われても全く怒らない。それで主人公は聞きます。「むっとしないの?」と。
すると、若者は言います。「むっとするってなんですか」
若者に感覚的な違いを見ることは誰でもありますが、その原因が世代の差ではなく、人間自体が変容してしまった結果と考えると? 怖いですね。

 

小説は、一種の仮説だと思います。
「私はこう思う」「これが小説の面白さだ」「これこそが小説だ」「人間とはこういうものではないか」というような仮説です。
それに対して、「違うよ」と思う人が多ければ失敗、共感は得られず、「そうだ」と思う人が多ければ成功、賛同を得られたというわけです。

 

高橋源一郎さんは、『一億三千万人のための小説教室』(岩波新書)の中でこう書いています。

「すべての小説は(広く、「文学は」)、「笑っている」「皆んな」の方が違っているのではないか、という、孤独な疑いの中から生まれてくる」

 

皆さんの小説には、「孤独な疑い」はありますか。
村田沙耶香さんの小説にはそうした問いがあります。
興味がある方は、新刊『丸の内魔法少女ミラクリーナ』を読んでみてください。

また、公募ガイド5月号(4/9発売)の巻頭インタビューでは、芥川賞作家の村田沙耶香さんがどのようにして小説を書いているかについて聞いています。
小説を書こうと思っている方は、こちらもぜひご覧ください。

 

村田沙耶香(芥川賞作家)むらた・さやか

1979年生まれ。2003年群像新人文学賞優秀賞受賞。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。