プロ中のプロがあなたの才能を引き出す! 選考委員が教える小説講座④


※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。
3.朱川湊人先生インタビュー
ホラーの一つであるノスタルジックホラーというジャンルを確立した朱川湊人さん。アマチュア時代は主夫となり、育児をしながら投稿したという朱川さんに、作家修業をした10年と受賞する作品について取材した。
僕の人生は僕のだからと思っていても、早く結果を出そうと焦る。そうすると、お話がつまんなくなっちゃうんです。
――27歳のときに結婚し、主夫をしながら作家を目指したとか?
嫁さんに「稼ぐのは君に任せた」という感じで(笑)。作家になれるにしろなれないにしろ、3年間はやってみたいと。ところが、1年目に子どもができてしまった。
――子育てしながらの投稿は大変でしたでしょうね。
投稿数が激減しました。毎日3枚は書かないと寝ないというルールを作り、子どもが寝ついてから夜中に書いていましたが、気がついたらワープロの上に突っ伏していて、画面が「ししししし……」なんて。
――作家になると公言して10年、いよいよ成果が出てきます。
デビューする前年、初めて最終選考まで行きました。それが日本ホラー小説大賞に応募した「アイスマン」という作品です。この頃はやたら時間をかけて長いものを書いていて、途中で締切が来てしまったから今度はこっちの作品というように半年交替で書いていた作品があるのですが、その一つが、のちに日本ホラー小説大賞の受賞第一作として出版する『さよならの空』という作品。もう一つは、今はなきホラーサスペンス大賞で最終選考まで残った『スメラギの国』です。
――早くデビューしたいという焦りはありませんでしたか。
デビューする前、子育てしながらホームセンターでバイトしていたんですが、「大学出て、よくやるよねえ」って皮肉を言われたり。僕の人生は僕のだからと思っていても、早く結果を出そうと焦るんですよ。そうすると、お話がつまんなくなっちゃうんです。「アイスマン」が最終選考まで行ったのは、結果を出そうと思わず、面白がって書いたからだと思うんですね。
――そして「フクロウ男」でオール讀物推理小説新人賞を受賞します。
『オール讀物』は2作目のハードルが高いのですが、僕は2〜3ヶ月後には掲載されました。
――割と順調だった?
順調というか最速らしいです(笑)。
というのは、僕の場合はそれまでのストックがあったから、受賞して7〜8ヶ月後には単行本が出ています。
どこかで聞いたことがあるような話はやめたほうがいい。自分にしか書けないもので、買ってもらえるものならなおいい。
――『今日からは、愛のひと』は主要人物が6人。それぞれの人物にモデルはいますか。
ユキジにしろマロさんにしろ、僕のキャラクターの部分部分を持っていっているところはありますよね。
――人物の履歴(過去)は書き出したりしますか。
書き出すこともあるし、書かないこともある。キャラクターを決めるのは大事だと思います。でも、最初からがちがちにしないほうがいい。
6割から7割にして、変わっていく余裕が欲しい。一回書き上げて、そのあと文章を直したり、設定の変なところを正したりするうちに、キャラクターも変わってきますから。
――どういう文章が理想ですか。
古谷三敏の漫画『寄席芸人伝』に、ある落語家は新作落語ができたら隣のおばあちゃんに聞かせるという話があって、おばあちゃんがわからないと言った箇所は直すんだそうです。小説もそうでなくちゃいけない。
――構成について、こうするといいというのはありますか。
ストーリー作りでもっとも難しいのは、いかに承の部分を充実させ、上手に転に持っていくかということ。
僕は「真ん中でブン投げろっ!」と言っていますが、真ん中部分で何らかの事件を起こすと、全体のバランスがとりやすくなります。100枚の作品なら50枚目あたりに、物語の流れに大きな変化を与える事件を起こす。そういう作劇の方法も知っておくといいと思います。
――賞の傾向と対策についてはどう思われますか。
傾向は、あると言えばあるんですね。江戸川乱歩賞に『花まんま』を出しても仕方ないでしょ。そういうカテゴリーミスはしないほうがいい。
小説宝石新人賞で選考委員をやらせていただいた経験で言うと、なんで小説宝石新人賞に応募したのかなあというのもたまにあります。
――こういうのは受賞しないというのはありますか。
どこかで聞いたことがあるような話はやめたほうがいいです。『半沢直樹』が流行ったから銀行ものとか、そんなバカなことは絶対やめてください。それが通るなら、本家の先生に原稿を頼みます。自分にしか書けないもので、お客さんに買ってもらえるものならなおいいですね。
朱川湊人
1963年、大阪府生まれ。02年『フクロウ男』でオール讀物推理小説新人賞を受賞。03年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、05年『花まんま』で直木賞受賞。ほか、『都市伝説セピア』『かたみ歌』『いっぺんさん』『本日、サービスデー』『満月ケチャップライス』など著書多数。
※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。