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BicCamera Photo World2025 スペシャルインタビュー

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報道発表

自分だけの
一瞬を切り取る

「東京の今を切り撮る」をテーマに長年作品を撮り続けてきた写真家の熊切大輔さん。大学での写真講義や若手カメラマンの育成など、幅広く精力的に活動されている。数多くの写真コンクールの審査員もされている熊切さんは、いつも応募作のどこを見ているのか? 写真を撮るコツや今回注目しているポイントについてもお聞きした。

■審査員長
熊切大輔/写真家

1969年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部を卒業後、夕刊紙日刊ゲンダイ写真部に入社。その後フリーランスの写真家として独立。雑誌や広告などでドキュメンタリー・ポートレート・食・舞台など「人」が生み出す瞬間・空間・物を対象に撮影する。 作品は様々なテーマ、アプローチをもってスナップ写真で「東京の今」を切り撮りつづけている。2023年5月に公益社団法人日本写真家協会第8代会長に就任。写真界の発展のため改革や新たな挑戦を始めている。写真コンテストの審査や様々な写真講師なども務めており、学生への写真指導など未来の写真家の育成にも力を入れている。
公益社団法人日本写真家協会 会長。

「光と影」「色」「構図」に
工夫を
―― 熊切さんが思う押さえるべき撮影ポイントを教えてください。
熊切さん:まずは光と影を生かしているかどうかですね。そもそも写真とは光があるから撮れるもの。そして、その光には形があり、その形には影があるから見えてくるものなのです。冬はとくに光にコントラストがあってきれいなので撮りたくなると思います。その際、光を撮るのですが反対の影を意識するといいです。たっぷりとシャドーの部分があるから、光がスポットライトのように当たっているという1つのストーリーになっていく。反対側にある物を意識するといいです。
―― そのためには、何を写したいかをしっかり意識しておくことが大事ですね。
熊切さん:そうですね。そしてこれは色にも言えます。たとえば美しい色の花を見て、それを撮りたいと思う。その時、周りを取り囲む枯れた草も一緒に撮ることで、命のいきいきとした力強さと命の終わりを対比できる。メインとなる花がより際立のです。
 他にも、信号の赤が気になって写すなら、背景に広がる青い空も意識して入れてみる。補色を考えることも大事です。一つの素材や現象だけを捉えず、もう一つ何かを入れたり対比させたりすることで重層的な絵になります。
―― モノクロで撮る場合の注意はありますか?
熊切さん:モノクロは、なんとなく恰好良さそうだからと使っても効果的にはなりません。モノクロにあった被写体がある。横断歩道の白い線を写すならモノクロにすることで白が際立つかもしれないけれど、赤いものをモノクロにしたら魅力がなくなる場合がある。何を映すのか、どこを強調すれば効果的かを意識して使うといいですね。
―― 他にも技術的なアドバイスはありますか?
熊切さん:あとは構図のデザイン性ですね。これはたくさんの作品を見て力を養うしかない。写真集を見たり写真展に行ったりして蓄積する。また、ただきれいだなで終わらず、なぜこの写真は素敵なのか、どういう構図を意図して撮ったのか考えてみる。じっくり見ていると、対角線の構図がいいなとか場所やスペースを上手く使っているなとか、自分の好みがわかってきます。「光と影を生かす」「色を意識する」「構図のデザイン性」のこの3つは大事なので意識するといいですよ。
他の作品と差をつけるには……
―― 今はカメラの性能が高く、作品全体のレベルが上がっています。そんな中で埋没せず、選ばれる作品にするにはどうしたらいいでしょうか?
熊切さん:ストーリーやドラマ性がある方が、面白く魅力的で印象に残ります。ドラマ性とは、その写真を見た時に、写っている人物は何を考えているのかな、この後何かが起こるのかなと想像が広がる作品のことです。動画と違い写真はその一瞬を切り取ります。ホームでぽつんと立っている女性が写っていたら、旅に来たのかこれから東京に行くのか? 今どんな気持ちなのか? そして、作者はなぜここを切り取ったのか? と、1枚の写真を通して見る側の頭の中が膨らんでいくような作品がいいですね。
―― 今回、部門がたくさんあります。カテゴリーで気を付ける点はありますか?
熊切さん:自由部門とネイチャー部門をどちらに出すかで迷われるかもしれませんね。そういう場合は、自分はこの作品で何を写したかったのか、何を訴えたかったかを考えてカテゴリーを決めるといいです。自然の風景を写しているけど、これは自由部門の方がウケそうだとか、目立つのではないかという思惑で応募するのは逆効果です。テーマにぴったりな部門に応募した方がいいです。
―― ネイチャー部門の応募で気を付けることはありますか?
熊切さん:自然の景色の場合、絶景ポイントがあるのでついそこで撮ってしまいます。例えば富士山なら、富士五湖と富士山とか、河口湖と富士山という組み合わせを思いつきやすい。でも、そうすると既視感のある作品になる。それよりは自分ならではの視点が欲しい。
 我々ならまずこういう景色をイメージするけど地元の人はどうだろう。毎日見ている住民の富士山は、キッチンの小さな窓から見えるかもしれないし、通学路の角を曲がったら見えるのかもしれない。ちょっとユニークな独自の目線で撮れると、目に留まる可能性は高くなると思います。
―― スマートフォン部門やアンダー18部門に期待するものはありますか?
熊切さん:スマホは気になって撮りたいと思った瞬間にパッと撮れるのが特徴。日常を撮ることで、それが特別な瞬間に変わることを実感できると思います。撮られる方も慣れているから自然な表情が写る。だからつねに肌身離さず、日常で起きたことを瞬時にたくさん切り取ってほしい。その中から、自分らしい視点があるもの、作者の今が反映されているものを選ぶといいですね。アンダー18部門も基本は同じで、18歳だから見て、感じて、経験できたことが知りたいし、大人にはない若さや発想やパッションを感じたいと思います。
―― 熊切さんも「東京の今」というテーマで写真撮り続けていらっしゃいますね。
熊切さん:僕は街のスナップをずっと撮っていますが、例えば新宿、渋谷の街を撮ると、建設中のビルがひしめいているけど、その合間に広い空が見えたりする。あ、新宿の空ってこんな広かったんだと発見がある。でもこれは今だから見える景色で、少ししたら建設が進み見えなくなるかもしれないし、また違うものが見える可能性もある。こういうところに「今しかない景色」がある。その時代性を意識しながら撮るのが大事で、カメラの持つ記録性の原点はそこにあると思います。シャッターを押すというのは今が写るということ。そこを意識するだけで構図も変わると思います。
―― 作者の視点やその人だけのテーマを見つけるにはどうしたら?
熊切さん:たくさん撮って、そのサムネイルや履歴を見ると、やたら空に反応してるなとか、丸い物ばかり撮ってるなとか、共通点が見えて自分が何に興味があるのかがわかる。テーマがおのずと見えてきます。自分なりのテーマがわかったら、同じ被写体でも見え方も変わってくるし、今度はこう撮ろうとか、構図を工夫してみようとかアイデアが広がりやすいです。
―― 応募者にメッセージをお願いします!
熊切さん:単にその素材をきれいに撮った作品だとちょっと寂しい。感動したその瞬間にカメラがあったから思わずシャッターを押した! そういう1枚のシャッターに対する想いが欲しいなと思います。審査員に合わせて、傾向と対策を考えなくていいので、自分がいい写真だと思ったら、ぜひ応募していただきたいです。
(取材/岡田千重)
 
基礎技術を
押さえる

カメラの基礎技術はしっかり押さえたい。露出やピントが合っているか、適切なアングルか、被写体に合ったレンズか。表現に狙いがあり、わざとピントをずらしたりハイキーにしたりするのはいいけれど、まずは基礎を押さえ自分のテーマが伝わる作品にしよう。

 
渾身の1枚を選ぶ

同じ被写体を様々なアングルで撮り複数応募するより、そのテーマに対して渾身の1作を選んで応募しよう。よく似た作品が続くと、作者がテーマを絞り切れていない印象を与える。自分で選べない作品は力が弱くなる。自分で吟味することで見る目も養われる。

 
最後まで手を抜かない

プリントで応募する場合は、プリントの仕上げまでも表現の1つだと意識しよう。いい絵が写っているだけでなく、発色がいいか、作品に合った紙かなどもしっかり吟味。プリントもデジタルも隅々までチェックして、最後まで手を抜かず応募しよう。