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あなたとよむ短歌 vol.60 テーマ詠「化粧品」結果発表 ~音数への挑戦~

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短歌
あなたとよむ短歌
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結果発表

テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
■作品
プリキュアになるならわたしはキュアおでん 熱いハートのキュアおでんだよ
(『母の愛、僕のラブ』より)
vol.60
テーマ詠「化粧品」結果発表
~音数への挑戦~

短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「化粧品」の結果発表です。

化粧品というと、女性のアイテムというイメージが今はまだ強いかもしれません。そのため、女性らしさや恋愛についての作品が多く寄せられました。それ自体は決して悪いことではないのですが、そのテーマの第一印象よりも一歩二歩踏み込むか、ずらしたところに焦点を当てるとより自分らしい短歌が出てきそうです。
たとえば「赤い口紅」を詠んだ作品が大変多かったのですが、口紅=赤ではなく、ブラウン、ワイン、ネオンピンクなど変わったカラーに注目したり、折れた口紅、溶けた口紅などの状態に注目するのもおすすめです。

後半では投稿者の皆さんの質問に回答しています。作品と合わせて、ぜひ最後までお付きあいください。

それでは、最優秀賞の発表です!


コンパクト会社のトイレでひらく昼
私は今も何かになりたい
(江白愛さん)

会社の昼休みにトイレで化粧直しをするのは、この人にとって日常なのでしょう。コンパクトといえば「ひみつのアッコちゃん」から「プリキュア」まで、魔法少女の定番変身アイテムです。コンパクトを開けども開けども、映るのはいつも会社員である自分自身。特別な「何か」になりたいと思いながらも、自分は自分のまま、日常は日常のまま過ぎていく様子が描かれています。
「日常」と「特別」を繋ぐコンパクトという化粧品が、この歌の要になっている点もテーマ詠として秀逸です。



続いて、優秀賞2首です。

灰色の制服と黒いソックスの
下のペディキュアだけが夏色
(案山子さん)

「灰色」の制服、「黒」いソックスに隠された足先の爪が「夏色」。有無を言わせない雰囲気のモノトーンカラーから、夏色という読み手の想像にゆだねる色彩が現れる、その開放感、テンションの高さがすばらしいと思いました。夏色って何色でしょう。きっと一色ではないはずです。
また、この制服は学校のものとも仕事着とも捉えることができます。スカートや学ラン、セーラー服といった単語もないので、男女も特定されません。作業着でも灰色のものはありますね。作品中の人物は男性かもしれません。読むにあたって必要十分な情報をそろえつつ、読み手の想像力に任せる部分も大きい、可能性にあふれた一首です。


マッチングアプリの人に教わった
化粧下地になる日焼け止め
(奈々生んさん)

「マッチングアプリの人」という表現がなんとも絶妙ですよね。アプリでマッチして、少なくとも日焼け止めの話をするぐらいの親しいやりとりをしたのでしょう。会う機会もあったのかもしれません。けれども、結局は友達にも恋人にもならず「マッチングアプリの人」にしかならなかった、その過程がこの言葉だけで伝わってきます。
「化粧下地になる日焼け止め」はとても機能的ですね。一方で、この人が本来求めていた誰かとの出会いや新しい人間関係は、機能性や利便性とは別の軸にあるもののようです。



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