あなたとよむ短歌 vol.63 テーマ詠「星」結果発表 ~短歌にフィクションを取り入れてもいい?~


テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「星」結果発表
~短歌にフィクションを取り入れてもいい?~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「星」の結果発表です。
花鳥風月のような美しいものは、人によってはかえって短歌にしづらいものです。その点、星は強く輝くものから地味に光るものまでさまざまですし、「勝ち星」や「星屑」「スター性」などの用法もあり、幅広い発想ができそうですね。応募作品も多様で読みごたえがありました。
最近では毎回900首前後の応募があるため、なかなか入選しないと思うかたもいるかもしれませんが、少なくとも私自身はすべて拝読しています。ぜひこれからも応募していただきたいです。
後半では投稿者の皆さんの質問に回答しています。作品と合わせて、ぜひ最後までお付きあいください。
それでは、最優秀賞の発表です!


火星で暮らす覚悟はあるよ
恋愛関連の短歌の応募は目立ちました(もちろん読解にもよります。強い親愛の情は恋愛に限らないかもしれません)。そのなかでも、中原さんの作品はインパクトがあります。
「君がもし火星人なら」という仮定も突飛ですが「火星で暮らす覚悟はあるよ」という下句も大胆です。しかし、そもそも恋愛というのは、勝手な仮定と勝手な覚悟をしがちなものかもしれません。冗談めいていてもちょっと本気な気がします。
特筆したいのは「覚悟はあるよ」の助詞「は」です。もし「覚悟【が】あるよ」だったらどうでしょうか? どのような違いを感じますか? 私は「が」より、中原さんの作品にあるとおり「は」のほうが断然良いと思います。もし歌会だったらそう考えた理由も述べるでしょう。ぜひ「は」と「が」の違いを考えてみてください。それが自分自身の作歌につながると思います。
※「が」の方がいいと思っても決して間違いではありません。
続いて、優秀賞2首です。


四畳半にも星が瞬く
「君からのLINE通知」がとってもうれしいんでしょうね。星が瞬くようにうれしい。ただ「うれしい」と書くよりも百倍うれしさが伝わってきます。
この短歌には「一人暮らし」とも「一人部屋」とも書かれていませんが、「四畳半」という具体的な部屋の狭さを入れることで、一人でスマホを見ている様子が想起されます。四畳半に星が瞬いたら、とても眩しくて明るそうです。
「君からのLINE通知は【まるで】星が瞬く【ようだ】」というふうに、比喩だと明示する表現を直喩といい、白鳥さんの作品のような比喩を暗喩と言います。音数の限られている短歌では暗喩も多く使われています。音数以外にも、直喩と暗喩はその効果の違いもありそうです。


重複表現だったとしても
「満天」には「天」の字が入っている通り「空のすべて、いっぱい」という意味です。そのため「満天の星空」というと「空」の意味が重複しています。「満天の星」の方がすっきりした表現です。
けれども誰かを、何かを強く好きになるときの感情は「好きだから好き」。それはまるで「満点の星空」のように、意味や気持ちを重ねに重ねても足りないほどの愛なのかもしれません。重複表現だったとしても、それしか表しようがない思いがあふれています。
途中の一字空きも、きっぱりと言いきってからの一呼吸、という印象を与えています。