あなたとよむ短歌 vol.63【お悩み回答】~短歌にフィクションを取り入れてもいい?~ (3/3)


今回はこちらの質問について考えていきたいと思います。
たとえば姉がいないのに姉の歌を詠むことなどはありでしょうか。
短歌の素材は実体験でなければだめでしょうか? たとえば、想像だけの恋の歌とか。短歌も文学なので、フィクションもありでしょうか?
2人から寄せられた、それぞれの質問です。
まず、作者の身に現実に起こったこと以外を短歌にすることの可否ですが、これは「可」としか言いようがありません。フィクションを含めたら短歌ではない、というルールはないからです。
有名な話ですが、俵万智さんのサラダ記念日の歌(「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日)の元になったエピソードは、サラダではなく唐揚げだったそうです。恋人に唐揚げの味を褒められたんですね。時期も7月6日ではなかったそうです。
けれども、若い恋のさわやかさなどを表現するために、サラダの方がいいだろう、織姫と彦星が出会う七夕前日の7月6日はどうだろう、と、歌の本質をよりあざやかに表現するために俵さん自身が生みだした表現です。なお、姉がいないのに姉の歌を詠んだ短歌は今すぐパッと思いつかないのですが、妹がいないのに妹を詠んだ名歌はあります。
自分が体験したこと、実際に見聞きした事柄だけを短歌にする、という主義の人や、そうあるべきだと考える人もいます。もちろんその背景には、歴史や理論があります。そういう歌人に師事すれば、そのような指導も受けるでしょう。また、短歌は和歌の流れをくんでいる以上、自らの思いや状況を歌にしていると読解されやすい側面が否めません。しかし、繰り返しになりますが「そうでなければ短歌ではない」というルールはありません。
私は背徳的な作品を書くのが好きなのですが、それによって周りとの関係がギクシャクしてしまうことがあり、かと言ってそういう作品を全く書かないとモヤモヤしてしまって苦しいです。解決方法はありますか。
似たような葛藤は多くの歌人も経験していることでしょう。背徳的な内容でなくても、たとえば職業詠。教師だったり、医者や介護士だったり、仕事をしながら短歌を詠む人は多くいます。その仕事のよろこびや苦しみをそのまま書いて発表すれば、実際に存在している生徒や患者のプライバシーにも関わることになります。
このような場合、「詠みたいことの本質的な部分は変えずに、よりその本質を伝えるようなフィクションを取り入れる」というのが、解決策の一つになりそうです。
短歌を発表したい欲で、誰かのプライバシーを損なうのは避けるべきことです。実際に生じた場所・相手との様子・内容などをそのまま表す【以上】に、本当に詠みたい芯の部分を短歌で表現する手法はあると私は考えています。前述のサラダ記念日の一首がそうであるように、です。
自分の作品で恐縮ですが、第1回笹井宏之賞を受賞した「母の愛、僕のラブ」(同名の歌集に収録、50首連作)は、上記の問題に自分なりに取り組んだ短歌連作でした。作中には自分のことを「僕」という女性が登場しますが、私自身が「ボクっ子」だった過去はありません。けれども、あの連作中の「母」も「僕」も「わたし」も、私自身の投影に他なりません。
「自分の書きたいことを表現し、かつ『これらの短歌はすべて作者に実際に起こったことだ』と決めつけられて私の周囲の人を傷つけないようにするために、どうしたらいいか?」を当時の自分なりに考え抜いてつくった連作でした。私はこれからも自分の大切な人たちを守りながら、攻めた作品をつくっていきたいと考えています。一緒にがんばりましょう。
今月は、テーマ詠「数字を含む短歌」を募集しています。
テーマ詠は、お題の単語を短歌のなかに入れても入れなくてもOKです。そのテーマにあった短歌をお待ちしています。
どこかに応募した作品も、未発表も作品もぜひご投稿ください。(著作権がご自身にある作品に限ります)
分かち書き、句ごとの改行はしなくてOKです。採用されている短歌の書式をご参考に!
応募規定 | 短歌(57577)を募集します。 テーマは「数字を含む短歌」。 応募点数制限なし。 応募フォームに柴田さんへの質問欄を設けています。短歌のことや、作品づくりについて選者:柴田葵さんに質問があればご自由にお書きください。匿名で質問内容とその回答を記事に掲載させていただく場合があります。必ずしも回答があるわけではございませんので、ご了承ください。 |
応募方法 | 応募フォームからご応募ください。 ※X(旧Twitter)での応募はなくなりました。 ※応募者には、弊社から公募やイベントに関する情報をお知らせする場合があります。 |
賞 | 最優秀賞1点=Amazonギフト券3000円分 優秀賞2点=Amazonギフト券1000円分 佳作数点=ウェブ掲載 ※該当作品なしの場合があります。 ※作品を記事内で推敲する場合があります。 ※発送は発表月末~翌月頭を予定しております。 |
締切 | 2025年6月30日 |
発表 | 2025年8月1日 |