第51回「小説でもどうぞ」選外佳作 愛は宇宙よりも トラキャット


第51回結果発表
課 題
寄生
※応募数339編
選外佳作
愛は宇宙よりも トラキャット
愛は宇宙よりも トラキャット
時は、宇宙時代。今から五十年ほど前に、地球は他の星々との交流を開始した。初めこそ異星人とよくトラブルになったらしいけれど、今は平和になり、地球に移り住んで働く異星人も大勢いる。
私がお付き合いしているアメルネ星人のミベラも、その中の一人だった。
「君は、どうして僕を好きになってくれたの?」
デート中、カフェでお茶をしていると、ミベラは意を決したような表情で私に尋ねてきた。
「え? なんで?」
「地球には、他にも男はたくさんいるだろう? なのに、どうして僕だったの? 僕みたいなアメルネ星人は、地球人の女子からは全然モテないのに」
「かっこいいと思ったからよ」
私は、はっきりとそう答えた。
ミベラとの出会いは、バスで隣の席に座った彼に私が一目惚れして声をかけたのがきっかけだった。アメルネ星人特有の白くて大きな丸みのある体、鱗で覆われた肌、二つの小さな目、四つの触手を持つ姿に、私は昔から弱いのだ。友達からは「変わった趣味してる」と笑われるけれど、かっこいいものはかっこいい。
「君は、変わってるね」
私の自信満々の返答に、ミベラは少しうれしそうに微笑んだ。その優しい笑顔も好きなんだよなぁ。
実は以前、別のアメルネ星人と付き合ったことがあった。でも、そいつは自分勝手で暴言も出るような男だったから、すぐに別れた。ルックスがよくても、性格が終わってたら話にならない。
その点、ミベラは優しくて素敵な男性だ。自分に自信がなさそうなところが少し気になるけど、横暴な奴より断然いい。
その後、私たちの仲は順調に進み、出会って一年後に籍を入れた。ミベラとの結婚生活は幸せそのものだった。相変わらず優しいし、共働きだから家事も率先してやってくれる。
しかし、結婚して半年ほど経ったある日、ミベラの様子がおかしくなった。その日、仕事から帰ったミベラは真っ青な顔をして、うつむいていた。何度声をかけても、「いや、別に……」とはぐらかされてしまう。
その日から、彼は私を避けるようになった。家事はしてくれるのに、私とは目も合わそうとしない。何を聞いても、梨のつぶてだ。
仕方なく、私は実力行使に出た。まずはミベラが寝ているときに、こっそりと彼の携帯デバイスの中身を探る。浮気でもしてるんじゃないかと疑ったが、特にそれらしい証拠は見つからなかった。
次に探ったのは、彼の部屋だ。彼が仕事で家にいないときを見計らって、机にある書類や引き出しなどを探る。すると、一枚の紙を見つけた。会社で行われる健康診断の結果表だ。それを広げて見てみると、結果はおおむね健康だったが、一点だけ注意事項があった。
『便検査にて寄生虫アリ。要精密検査』
その文字を読んだとき、物音がした。顔を上げると、部屋のドアを開けたミベラが顔面蒼白になって私を見つめていた。そして観念したかのように、うつむいた。
「そこに書いてある通り、この前の健康診断で、寄生虫が見つかったんだ」
ミベラは罪を告白するような声音で話し始めた。
「病院で詳しく検査してみたら、その寄生虫っていうのは元々アメルネ星に生息する寄生虫で、アメルネ星人の腸内を好んで寄生するらしいんだ。でも僕はここ数年、母星には帰っていない。最近はアメルネ星人を通して地球の川にもその寄生虫が生息するようになったらしいんだけど、川にも行ってない。そうしたら医者が『奥さんを通して移ったんじゃないか』って言うんだ」
医者が言うには、その寄生虫はアメルネ星人に寄生する目的で別の生物を媒介にすることがあるらしい。寄生虫はその生物の脳に寄生し、寄生虫の宿主がアメルネ星人に接触すると、寄生虫がドーパミンを出させ、恋をしたと宿主に錯覚させるそうだ。何も知らない宿主はアメルネ星人と仲を深め、皮膚接触や粘膜接触によって寄生虫はアメルネ星人の体に移動する、らしい。
「君が僕を好きになったのは、寄生虫のせいなんだ」
その声は今にも泣きそうだった。
「結婚式のとき、君の友達が話してるのを偶然聞いたんだ。君が昔からアメルネ星人が好きだってことを。きっと、その寄生虫の影響だよ」
その話を聞いて、驚きと共に少し納得する部分があった。最近、ミベラに対して以前ほどのときめきを感じられなくなっていたのだ。マンネリしてきたのかと思ったが、寄生虫による影響だったのか。
「これを話したら、君が離れていくと思って何も話せなかった。……これからどうするのかは君が決めてくれ」
「どうもこうも、これからも変わらないわよ」
「どうして?」
「そりゃ、好きになったきっかけは寄生虫かもしれないけどさ。ミベラの誠実で優しいところが好きなのは、今も変わらないよ」
お弁当を作ったら、感謝を伝えてくれるところ。洗剤がなくなったら、すぐに補充してくれるところ。笑顔が優しいところ。ときめきがなくなっても、そういうところが好きなのは変わらない。
「……君は、やっぱり変わってるね」
ミベラは優しく、四つの触手で私を抱きしめた。その顔はさっきとは別の意味で泣きそうになっていて、私は笑ってしまった。
(了)