【読んでいるのに書けない人へ】文章力を高めるなら「読む量」より「読み方」を変えよう! 書く力を伸ばすスローリーディング入門


その読み方では、文章力はつかない!
どう書くかは、どう読むかにかかっているということを知っているだろうか。いくら多読を心がけても、読み方が悪いと、うまくアウトプットできないのだ。そこで今回は、書くための読み方、スローリーディングについて解説する。
これからはスローリーディングだ!
内容がわかればいいというのなら、あらすじを読めばいい。書くためには、言葉を知り、文章のあり方をつかみ、自分のものにしていかないといけない。それができる読み方を知っておこう!
文芸の文章は、ゆっくり読もう
実用書の場合は速読でもいい。もっと言えば、必要な箇所だけ読むのでもいい。
しかし、文芸書の場合は、ゆっくりじっくり、1行1行、文意をくみとり、言葉の意味も厳密に区別できるようにしよう。
〝よく知らないけど、きっとこんな意味だよね〞とか、〝そういう固有名詞があるらしいね〞と飛ばし読みをしても大まかなところはわかるが、そこで急がず、意味が通じにくい箇所は同じところを何度も読んだり、知らない言葉があれば辞書で調べたりすると、それが書くときに大きな力になる!
急がば回れ!スローリーディング
小説は、読まなければ書けないと言う。あたりまえの話で、なんらかの情報をインプットしなければアウトプットもできない。入れなければ出せないのだ。
ダンスをするのでも、まず目から視覚として入れ、それがどんな動きをするものなのか感覚で覚え、それを表現として外に出す。ダンスを見たことがないのに踊れと言われても踊れない。
ところが、年間100冊もの小説を読み続けているのに、書こうとすると、全く小説にならない人もいる。
なぜだろう。一言で言えば、読み方が悪い。ささっと流して読んで筋を読みとるだけで、書き方について自覚的に読んでいない。
文章力を養いたければ、一文ずつじっくり丁寧に読み、時には立ち止まり、語句の意味を確かめ、文意をつかみ、表現に感じ入り、文章を味わうスローリーディングがいい。そのほうが近道だ。
灘高国語教師・橋本武の法則
スローリーディングを始めた国語教師がいる。それも今から70年も前の昭和25年に。
教師の名は橋本武。灘高校で遠藤周作らを教えた国語教師だ。
橋本先生は言っている。
〈すぐ役立つことは、すぐに役立たなくなります。そういうことを私は教えようとは思っていません。なんでもいい、少しでも興味をもったことから気持ちを起こしていって、どんどん自分で掘り下げてほしい。(中略)そうやって自分で見つけたことは、君たちの一生の財産になります。〉
(伊藤氏貴『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』)
5年後、灘高は進学校になる。
疑似体験を実体験に変える
橋本先生の授業では教科書は使わず、中勘助の『銀の匙』を読む。『銀の匙』は、明治期に書かれた
中勘助の自伝的散文で、これを3年かけて一言一句、丁寧に読む。
橋本先生の授業の特徴は、脱線につぐ脱線をすること。
〈急いで読み進めていったとして、君たちに何か残ると思いますか?(中略)関心を持ったところから自分で横道にそれていってほしいと思っています。どんどん調べて行って自分の世界を深めてほしい。〉
だから、2週間で1ページしか進まないこともあったという。
横道とは、たとえば「丑紅」という言葉が出てくれば、調べてみて〈寒の丑の日に売る紅で、口中のあれを防ぐという。〉と知り、「丑」から横道にそれ、十干十二支を全員で音読したりする。
また、魚偏の言葉が出てくると、「魚偏の漢字は全部で678あります。集めてみましょう」と課題を与える。「飴」が出てくれば、実際に飴をなめてみたりする。
そうして、読書という体験を忘れられない実体験に変えてしまう。これがスローリーディングだ。
読むときにくみとっていること
単語の意味
読むときは、どんな意味の語句か考え、わからなければ文脈から推測している。
文節の係り受け
〈彼は〉とあれば〈友人だ〉に係るなど、何を修飾するか係り受けを確認している。
文の表の意味
一文を読んだら、それがどんな意味かくみとっている。これは字義どおりの表の意味。
文の裏の意味
表の意味と同時に、反語や皮肉、逆説、ブラックユーモアなどをくみとっている。
ニュアンス
裏の意味まではいかないが、字義どおりとは微妙に違うニュアンスを読みとっている。
文と文の関係
先行文と後続文がどんな関係か、順接か逆接か、並列か敷衍かなどを読みとっている。
趣旨・テーマ
文章全体を通じて言いたいこと、文章の趣旨やテーマなどを的確につかみとっている。
多読と寡読のメリット・デメリット
多読
たくさん読むことで〈小説とはどういうものか〉を知ることができる。帰納的な方法。いろんなタイプの小説を読めるので、いろんなアウトプットが可能。デメリットは読みが粗くなりがちなこと。
寡読
読む作品の数は少ないが、その分、1つの作品をじっくり読んでいくので、深く掘り下げることができる。場合によると、書いていないことまで読みとることもできる。演繹的な方法。読書の幅は狭くなる。
スローリーディングにしかできない3つのこと
書き方のコツがわかる
筋を理解するだけでなく、「なぜここにテンを打ったのだろう」「なぜここで改行したのだろう」「なぜこのセリフにはカギカッコをつけないのだろう」のように疑問を持ち、そこで自分なりに仮説を立てたり、理由を調べたりすると、自分で書くときにどう書くのかの指針となってくれる。
文章を味わうことができる
速読では文章を味わっている暇などないが、スローリーディングなら、「なんてうまい言い方をするんだ」「情景がありありとわかる」「この話の運びでなければ、この感動は得られなかった」のように味わうことができる。いわゆる“味読”をすれば、味わいのある文章を書くヒントが得られる。
誤読することができる
ここで言う誤読はいい意味の誤読だ。作者や主人公の心情に寄り添い、「きっと作者はこんなことを言いたかったんだ」「きっと主人公はこうしたかったんだ」のように考えを深めて深めて、書かれていないことまで読みとる。これができれば、そうした文章も書けるようになるかもしれない。
公募ガイド流! スローリーディングでやること
技巧・手法を盗む
過去に起きたことを最初に書いて、そのあと、時を戻したり、入り口として今現在のことから始め、そのあと、過去に行ったりなど、1つの小説の中にはたくさんの技巧がある。どう書いたかがわかれば盗める。
知らないことは調べる
古語、外来語、専門用語を含め、知らない言葉が出てきたら調べる。検索してみる。知っている言葉も、たとえば「襲来」と出てきたら、「『来襲』とはどう違うのか、どう使い分けるのか」と考え、調べてみる。
1文字ずつ読む
1文字ずつ、目で文字を刺しながら読んでいくように読むと、集中力が増す。一言一句をよく見ることで、「壁」と「完璧」の「璧」や、「崇拝」の「崇」と「祟たたり」は字が違うと気づいたりする。知っていれば間違わない。
段落ごとに要約する
段落(1つの意味のかたまり=意味段落)で止まり、その段落に見出しをつけ、前の段落とどんな関係にあるかを考える。そして最終的に作品自体を一言で言ってみる。これをやると作品を把握する力がつく。
情景は頭の中で絵にする
言葉の意味はわかっても、具体的にどんな状況なのかまではわかっていないことがある。とくに言語脳が発達している人ほどそうなる。イメージ脳を鍛えるためにも、情景を絵として頭に浮かべてみよう。
一文を2回ずつ読む
わかりやすい文でも、一文を2回ずつ読むと、意味が頭に入ってきやすくなる。一度読んだだけではピンと来ない場合は、2回でも3回でも読む。それでもわかりにくければ前の文までさかのぼって読む。
※本記事は2020年1月号に掲載した記事を再掲載したものです。