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日本ラブストーリー大賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本ラブストーリー大賞

今回は、日本ラブストーリー大賞を取り上げる。ところで、日本ラブストーリー大賞に限らないが、過去の受賞作を読んで“傾向と対策”を立てることをせずに、公募ガイドで応募要項だけを見て応募作を書くアマチュア作家が意外に多い。そのために日本ラブストーリー大賞には“典型的なラブストーリー”が殺到する。で、十把一絡げで束にして落とされる。

そもそも新人賞は「他の人とは傾向の異なる作品を書けるアマチュア」を発掘するのが第一の狙いである。そういう書き手でないと、将来的にベストセラーを書くような作家に育たないからだ。その結果「日本ラブストーリー大賞にラブストーリーを応募すると落とされる」という皮肉な結果になる。

で、今回、第七回の受賞作『最後の恋をあなたと』(沢木まひろ。応募時タイトル『ワリナキナカ』)を読んでみたのだが、端的に言って、ラブストーリーというよりは、エロ小説である。主人公は刹那的で、ほとんど行きずりに知り合った男と、そのままラブホテルなり男の部屋なりに直行して、直ちに性行為に及ぶ。


そこには恋愛の欠片もない。ただ、肉欲を満たして燃え上がって、終わりである。いわゆる“エロ・レーベル”のエロ小説とは違うので、エロい台詞とかエロい擬音、擬声語などの多用はないという“オブラート”にくるんでカムフラージュしてはいるものの、エロ小説である実態に変わりはない。「え? 何で、これがラブストーリーなの?」ということになるのだが、歴代の受賞作を見ても、そういう印象を与える受賞作が並ぶ。第三回受賞作の奈良美那『埋もれる』も『最後の恋をあなたと』と似たようなエロ小説だった。

第二回受賞作で、映画化された上村佑『守護天使』は中年男のストーカー小説だった。それでも最後まで読み通すと、恐妻家の主人公の奥さんが、実は主人公を愛していることが分かって、「こういうオチだったら、広義のラブストーリーといえなくもないか」と、半信半疑ながら、納得させられる。

第五回のエンタテインメント特別賞の矢城潤一『ふたたび swing me again』も、そうである。主人公の青年のストーカーから始まって、老いらくの純愛で終わり「ああ、なるほど、このエンディングならラブストーリーか」と『守護天使』よりは納得させられる。つまり、ここに日本ラブストーリー大賞を狙うに際してのキーポイントが存在する。前半は「これの、どこがラブストーリーなんだ!」という流れで物語を展開させ、ラストまで行ったら「やっぱりラブストーリーなんです」と選考委員を納得させられるような物語に構成する、ということである。

『ふたたび』は『守護天使』から三年後、『最後の恋』は『埋もれる』から四年後に受賞している。大学入試問題は何年かのサイクルで似た傾向の問題が出題されるので“傾向と対策”が有効になるわけだが、日本ラブストーリー大賞では三年ないし四年サイクルで、微妙に似たような傾向の作品が受賞作に選ばれる傾向が見受けられる。となると“傾向と対策”を立てるのならば、今回は宇木聡史『ルームシェア・ストーリー』、千梨らく『惚れ草』、咲乃月音『オカンの嫁入り』あたりに似た作品に授賞される確率が高い。


『最後の恋』を読んで「こういうエロ小説なら、私にも書ける!」と気負い込んで書くのは勧めない。刊行されてからの時間が短すぎて、同じような発想をするアマチュアが大勢いるだろうからだ。公募ガイドの応募要項だけを見て応募作を書くのはNGだが、至近の受賞作を読んで、似たような作品を書くのも、NGである。


あと、日本ラブストーリー大賞や『このミステリーがすごい!』大賞を主催している宝島社は、映画化を明確に意識している。しかも、映画化された受賞作が、どれも、そこそこヒットしているので、資金繰りも潤沢だから、大賞以外に、他の名目で授賞される確率が高いのも、宝島社主催の新人賞の“美味しいところ”である。

応募作を書くに際しては「この作品が映像化されるとしたら、誰に演じさせたいか」を考え、イメージ・キャストを脳裏に思い浮かべながら書くようにすると良い。それも、主要登場人物には個性派俳優を揃える。「普通・平凡」の二語の対極にあるような登場人物を考える。そうしたら、自ずと登場人物のキャラも立ってくる。くれぐれも「過去のヒット映画と似たような物語」は書かないこと。アイデアに著作権はないので盗作にはならないが、瞬時に選考委員に見抜かれて「この応募者は創造力・想像力に難がある」と断定されて予選落ちに直結する。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

日本ラブストーリー大賞(2013年8月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本ラブストーリー大賞

今回は、日本ラブストーリー大賞を取り上げる。ところで、日本ラブストーリー大賞に限らないが、過去の受賞作を読んで“傾向と対策”を立てることをせずに、公募ガイドで応募要項だけを見て応募作を書くアマチュア作家が意外に多い。そのために日本ラブストーリー大賞には“典型的なラブストーリー”が殺到する。で、十把一絡げで束にして落とされる。

そもそも新人賞は「他の人とは傾向の異なる作品を書けるアマチュア」を発掘するのが第一の狙いである。そういう書き手でないと、将来的にベストセラーを書くような作家に育たないからだ。その結果「日本ラブストーリー大賞にラブストーリーを応募すると落とされる」という皮肉な結果になる。

で、今回、第七回の受賞作『最後の恋をあなたと』(沢木まひろ。応募時タイトル『ワリナキナカ』)を読んでみたのだが、端的に言って、ラブストーリーというよりは、エロ小説である。主人公は刹那的で、ほとんど行きずりに知り合った男と、そのままラブホテルなり男の部屋なりに直行して、直ちに性行為に及ぶ。


そこには恋愛の欠片もない。ただ、肉欲を満たして燃え上がって、終わりである。いわゆる“エロ・レーベル”のエロ小説とは違うので、エロい台詞とかエロい擬音、擬声語などの多用はないという“オブラート”にくるんでカムフラージュしてはいるものの、エロ小説である実態に変わりはない。「え? 何で、これがラブストーリーなの?」ということになるのだが、歴代の受賞作を見ても、そういう印象を与える受賞作が並ぶ。第三回受賞作の奈良美那『埋もれる』も『最後の恋をあなたと』と似たようなエロ小説だった。

第二回受賞作で、映画化された上村佑『守護天使』は中年男のストーカー小説だった。それでも最後まで読み通すと、恐妻家の主人公の奥さんが、実は主人公を愛していることが分かって、「こういうオチだったら、広義のラブストーリーといえなくもないか」と、半信半疑ながら、納得させられる。

第五回のエンタテインメント特別賞の矢城潤一『ふたたび swing me again』も、そうである。主人公の青年のストーカーから始まって、老いらくの純愛で終わり「ああ、なるほど、このエンディングならラブストーリーか」と『守護天使』よりは納得させられる。つまり、ここに日本ラブストーリー大賞を狙うに際してのキーポイントが存在する。前半は「これの、どこがラブストーリーなんだ!」という流れで物語を展開させ、ラストまで行ったら「やっぱりラブストーリーなんです」と選考委員を納得させられるような物語に構成する、ということである。

『ふたたび』は『守護天使』から三年後、『最後の恋』は『埋もれる』から四年後に受賞している。大学入試問題は何年かのサイクルで似た傾向の問題が出題されるので“傾向と対策”が有効になるわけだが、日本ラブストーリー大賞では三年ないし四年サイクルで、微妙に似たような傾向の作品が受賞作に選ばれる傾向が見受けられる。となると“傾向と対策”を立てるのならば、今回は宇木聡史『ルームシェア・ストーリー』、千梨らく『惚れ草』、咲乃月音『オカンの嫁入り』あたりに似た作品に授賞される確率が高い。


『最後の恋』を読んで「こういうエロ小説なら、私にも書ける!」と気負い込んで書くのは勧めない。刊行されてからの時間が短すぎて、同じような発想をするアマチュアが大勢いるだろうからだ。公募ガイドの応募要項だけを見て応募作を書くのはNGだが、至近の受賞作を読んで、似たような作品を書くのも、NGである。


あと、日本ラブストーリー大賞や『このミステリーがすごい!』大賞を主催している宝島社は、映画化を明確に意識している。しかも、映画化された受賞作が、どれも、そこそこヒットしているので、資金繰りも潤沢だから、大賞以外に、他の名目で授賞される確率が高いのも、宝島社主催の新人賞の“美味しいところ”である。

応募作を書くに際しては「この作品が映像化されるとしたら、誰に演じさせたいか」を考え、イメージ・キャストを脳裏に思い浮かべながら書くようにすると良い。それも、主要登場人物には個性派俳優を揃える。「普通・平凡」の二語の対極にあるような登場人物を考える。そうしたら、自ずと登場人物のキャラも立ってくる。くれぐれも「過去のヒット映画と似たような物語」は書かないこと。アイデアに著作権はないので盗作にはならないが、瞬時に選考委員に見抜かれて「この応募者は創造力・想像力に難がある」と断定されて予選落ちに直結する。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。