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小説すばる新人賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

小説すばる新人賞

今回は、三月三十一日締切(当日消印有効)の小説すばる新人賞(四十字×三十行で印字。四百字詰め換算で、二百枚~五百枚。ジャンル問わず)を取り上げることにする。


この賞の受賞作は最近、ライトノベルっぽくなりつつある。完全なライトノベルではないのだが、随所にライトノベル的な雰囲気のある受賞作が多く、第二十五回受賞作の櫛木理宇『赤と白』と行成薫『名も無き世界のエンドロール』について、その点を見ていく。


まず『赤と白』だが、当講座で何度も指摘している「こういうタイプの作品で応募してはいけない」物語である。十七歳の高校生の伊奈小柚子と、その親友の青木弥子のW主人公で、小柚子のほうにウェートが置かれているのだが、二人とも優柔不断な性格である。


まず、これがNG。主人公を優柔不断な性格に設定すると、どうしてもストーリー展開が遅滞し、選考委員の気持ちを引き付けるような作品になりにくい。執筆歴の浅いアマチュアでは、この困難を克服するのは極めて難しい。だから、やめたほうが良い。


主人公二人は、優柔不断であるが故にイジメ、DV、セクハラなどに遭って、なかなか克服することができず、最後の最後でブチ切れて、衝動的な殺人に手を出すことになる。


これも、NGなテーマ。学校でのイジメ、家庭でのDV、セクハラなどは新人賞応募作にやたら多くて、よほど斬新な切り口を思いつかない限りは「また、似たようなのが来たぞ」と、一次選考の下読み選者をウンザリさせることになる。そういう印象を早々に与えたら、後半で挽回して予選突破にまで持っていくのは、ほぼ不可能である。第十九回の日本ホラー小説大賞読者賞も受賞した櫛木にして初めて可能だった力業だ、と言っても良いだろう。


ホラー小説大賞の受賞者だけに日常のよくある生活の中に徐々にさりげなく恐怖を盛り込んでいく手法は巧みではあるが、冒頭に新聞記事が引用されており、この記事が実は、この物語で最後の最後に起きる事件を報道していると分かる。しかし、おそらくそうだろうと最初の段階で見当がつくので、意外性はない。それどころか、時系列を崩してネタバラシをすることで意外性を減じる分、選考時の減点対象とする選考委員もいるだろう。


冒頭のインパクトを重視しても、時系列を敢えて崩すと『赤と白』のように意外性を失うことが往々にして起きるので、これもアマチュアは、やらないほうが良い手法である。


また、ずっと抑圧されてきた主人公が最後の最後でブチ切れて殺人を、という流れなので、どうしても読後感が良くない。新人賞受賞作なので読んだが、「もう櫛木作品は読まない」と思う読者も相当数いるような気がする。読者にこういうネガティブな印象を与えるのは、プロ作家が文壇から転落して消える道への一里塚と言えるので、私は勧めない。


それに対して『名も無き世界』のほうは雰囲気が明るい。主要登場人物のキャラ設定と台詞が巧い。これは見習ってほしいところだが、真似してはNGなところも、二つある。


その第一は時系列の狂いが大きいことである。主人公の城田は三十歳だが、高校時代や大学時代、大学卒業直後に頻繁にカットバックする。カットバックしても、つるむ仲間は悪友の小野瀬マコトに変な女性のヨッチと、変わらない。心理描写や台詞回しも高校時代からほとんど変化していないので、雰囲気はライトノベルだし、時系列的に行ったり来たりしている状況が、いちいち読み返さないと正確に把握できない。おそらく高校時代から物語をスタートさせて、そのまま時系列順に三十歳まで書いたほうが分かりやすい。


うっかり「ああ、こういう手法のほうが選考委員に受けるのか」と勘違いする応募者が大勢いそうな気がするので、敢えて注意しておく。


真似するとNGな第二は、台詞にやたら鸚鵡返しが多いことである。映像脚本の場合は重要な情報に関する台詞は鸚鵡返しが基本(台詞は片端から消えていくため)だが、小説では反対に「芸がない」として選考時の減点対象となる。新人賞応募落選作を読むと、意味もなく鸚鵡返しにしている台詞の事例が多々見受けられる。『名も無き世界』の場合は、登場人物が全て素っ頓狂な変人なため、鸚鵡返しが一種のリフレイン効果を引き出している。だから、鸚鵡返しが多くても「芸がない」という違和感を覚える箇所は少ないのだが、これは執筆歴の浅いアマチュアには、まず、無理なテクニック。要注意である。


また『名も無き世界』は『赤と白』と違って、主要登場人物に優柔不断型がいない。それどころか正反対に、根拠のない自信に駆り立てられて暴走するタイプが多数派なので、物語がどんどんスムーズに転がって読みやすい。『名も無き世界』と『赤と白』を読み比べると、「ライトノベル的な物語」という共通点を持ちながら、どういう物語構成にすれば選考委員にも一般読者にも受けるかが、自ずと浮き上がって見えてくるはずである。

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 若桜木先生が、小説すばる新人賞を受賞するためのテクニックを教えます!

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 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

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 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

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祝迫力(第20回佳作)

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近藤五郎(第9回佳作)

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日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

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ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

小説すばる新人賞(2014年4月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

小説すばる新人賞

今回は、三月三十一日締切(当日消印有効)の小説すばる新人賞(四十字×三十行で印字。四百字詰め換算で、二百枚~五百枚。ジャンル問わず)を取り上げることにする。


この賞の受賞作は最近、ライトノベルっぽくなりつつある。完全なライトノベルではないのだが、随所にライトノベル的な雰囲気のある受賞作が多く、第二十五回受賞作の櫛木理宇『赤と白』と行成薫『名も無き世界のエンドロール』について、その点を見ていく。


まず『赤と白』だが、当講座で何度も指摘している「こういうタイプの作品で応募してはいけない」物語である。十七歳の高校生の伊奈小柚子と、その親友の青木弥子のW主人公で、小柚子のほうにウェートが置かれているのだが、二人とも優柔不断な性格である。


まず、これがNG。主人公を優柔不断な性格に設定すると、どうしてもストーリー展開が遅滞し、選考委員の気持ちを引き付けるような作品になりにくい。執筆歴の浅いアマチュアでは、この困難を克服するのは極めて難しい。だから、やめたほうが良い。


主人公二人は、優柔不断であるが故にイジメ、DV、セクハラなどに遭って、なかなか克服することができず、最後の最後でブチ切れて、衝動的な殺人に手を出すことになる。


これも、NGなテーマ。学校でのイジメ、家庭でのDV、セクハラなどは新人賞応募作にやたら多くて、よほど斬新な切り口を思いつかない限りは「また、似たようなのが来たぞ」と、一次選考の下読み選者をウンザリさせることになる。そういう印象を早々に与えたら、後半で挽回して予選突破にまで持っていくのは、ほぼ不可能である。第十九回の日本ホラー小説大賞読者賞も受賞した櫛木にして初めて可能だった力業だ、と言っても良いだろう。


ホラー小説大賞の受賞者だけに日常のよくある生活の中に徐々にさりげなく恐怖を盛り込んでいく手法は巧みではあるが、冒頭に新聞記事が引用されており、この記事が実は、この物語で最後の最後に起きる事件を報道していると分かる。しかし、おそらくそうだろうと最初の段階で見当がつくので、意外性はない。それどころか、時系列を崩してネタバラシをすることで意外性を減じる分、選考時の減点対象とする選考委員もいるだろう。


冒頭のインパクトを重視しても、時系列を敢えて崩すと『赤と白』のように意外性を失うことが往々にして起きるので、これもアマチュアは、やらないほうが良い手法である。


また、ずっと抑圧されてきた主人公が最後の最後でブチ切れて殺人を、という流れなので、どうしても読後感が良くない。新人賞受賞作なので読んだが、「もう櫛木作品は読まない」と思う読者も相当数いるような気がする。読者にこういうネガティブな印象を与えるのは、プロ作家が文壇から転落して消える道への一里塚と言えるので、私は勧めない。


それに対して『名も無き世界』のほうは雰囲気が明るい。主要登場人物のキャラ設定と台詞が巧い。これは見習ってほしいところだが、真似してはNGなところも、二つある。


その第一は時系列の狂いが大きいことである。主人公の城田は三十歳だが、高校時代や大学時代、大学卒業直後に頻繁にカットバックする。カットバックしても、つるむ仲間は悪友の小野瀬マコトに変な女性のヨッチと、変わらない。心理描写や台詞回しも高校時代からほとんど変化していないので、雰囲気はライトノベルだし、時系列的に行ったり来たりしている状況が、いちいち読み返さないと正確に把握できない。おそらく高校時代から物語をスタートさせて、そのまま時系列順に三十歳まで書いたほうが分かりやすい。


うっかり「ああ、こういう手法のほうが選考委員に受けるのか」と勘違いする応募者が大勢いそうな気がするので、敢えて注意しておく。


真似するとNGな第二は、台詞にやたら鸚鵡返しが多いことである。映像脚本の場合は重要な情報に関する台詞は鸚鵡返しが基本(台詞は片端から消えていくため)だが、小説では反対に「芸がない」として選考時の減点対象となる。新人賞応募落選作を読むと、意味もなく鸚鵡返しにしている台詞の事例が多々見受けられる。『名も無き世界』の場合は、登場人物が全て素っ頓狂な変人なため、鸚鵡返しが一種のリフレイン効果を引き出している。だから、鸚鵡返しが多くても「芸がない」という違和感を覚える箇所は少ないのだが、これは執筆歴の浅いアマチュアには、まず、無理なテクニック。要注意である。


また『名も無き世界』は『赤と白』と違って、主要登場人物に優柔不断型がいない。それどころか正反対に、根拠のない自信に駆り立てられて暴走するタイプが多数派なので、物語がどんどんスムーズに転がって読みやすい。『名も無き世界』と『赤と白』を読み比べると、「ライトノベル的な物語」という共通点を持ちながら、どういう物語構成にすれば選考委員にも一般読者にも受けるかが、自ずと浮き上がって見えてくるはずである。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、小説すばる新人賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 小説すばる新人賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。