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島田荘司推理小説賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

島田荘司推理小説賞

今回はちょっと変わった新人賞を紹介する。二〇〇八年に台湾で募集が開始された、本格推理小説を対象とする島田荘司推理小説賞である。

台湾の皇冠文化出版が主催、文藝春秋、中国の当代世界出版社・青馬文化有限公司、タイの南美出版社の協賛で、開始された。第四回まで受賞作が発表されて、第五回の募集は二〇一七年が締切とのこと。応募作は八万字?十五万字の範囲で中国語での応募が条件。詳しくはhttp://ssk-ws.cside3.com/new/award/http://www.crown.com.tw/no22/SHIMADA/S1.htmlを参照。

日本には中国人の方が大勢いる。

身近にいなくてもツイッターなどで呼び掛ければ知り合う機会はいくらでも得られるから、チームを組んでの応募を勧める。中国語圏は本格ミステリーに関しては後進国で作品数が少ないから、巧く時流に乗れば爆発的なベストセラーが期待できる

英語圏、スペイン語圏に次いで中国語圏は活字文化圏としての期待度は非常に高い。ジリ貧状態の日本語活字圏よりも、遙かに期待できる。本格ミステリー作品に対して飢餓状態にあるから、仮に募集が打ち切られていても、出来の良い作品を送れば、採用になる可能性は高い。

さて、第一回の受賞作の寵物先生『?擬街頭漂流記』を読んでの感想は、翻訳が下手の上に、誤字が多くて情けなかったが、トリックには新奇性が感じられた。

ただ、登場人物のキャラの描き分け、台詞回し、読者を物語世界に引きずり込むテンポの良さ等々に関しては、まだまだの印象を持った。

これらの点に関して達者な日本のアマチュアが挑戦すれば、かなり容易に射止められそうに思う。

で、話を転じて、又吉直樹の芥川受賞作『火花』について述べる。

『火花』はジャンル的には純文学とエンターテインメント(以下「エンタメ」と略す)の中間に属する作品で、「こういう作品なら!」と意気込むアマチュアも大勢いると思われるので、相違点に触れていく。

まず、小説すばる新人賞受賞作の山本幸久『笑う招き猫』と新潮エンタメ大賞受賞作の神田茜『女子芸人』を読み比べてみることを勧める。同一系統に属する作品だからである。

端的に純文学とエンタメの最大の違いはどこかと言うと「純文学は読者に読解の努力を強いても良いが、エンタメではNG」である。

『火花』に手を出したは良いものの、随所で読解の必要な箇所にぶつかり、「難しすぎる」と挫折した読者も多かったのではないかと推察する。

以下、『火花』で、エンタメではNGのものを列挙する。

一.行替えが少なすぎる。
『火花』は例えば四ページから八ページまでの五ページで、行替えは、八箇所しかない。エンタメでは上限四行、童話やライトノベルは上限三行を目処に行替えする。

行替えが少ないと読みにくく、読解に神経を使うので、そういう文章を書く作家は大半が文壇から消える。

二.会話が長すぎる。
『火花』は一人が延々と十行以上に亘って喋り続ける箇所が珍しくない。

エンタメでは、これは不可。四行を上限に、随所に合いの手を挟む。そうすると、容易に内容が汲み取れ、語り合っている同士の情景が脳裏に浮かんでくる。

ただ『火花』の会話は巧い。乱歩賞受賞作の『道徳の時間』よりも格段に巧い。『道徳』はご都合主義のオンパレードだったが『火花』には、そういう減点要因は一切ない。模倣する価値は充分にある。

三.長文が多すぎる。
エンタメでは基本的に一文中の動詞数は三個までに留める。四個以上になると文意が伝わりにくくなり、読解力に劣る人は理解に苦しむ。長文を書く作家はエンタメ業界では大多数が文壇から消え失せる。例えば『火花』には、こんな文章がある。

「祭りのお囃子が常軌を逸するほど激しくて、僕達の声を正確に聞き取れるのは、おそらくマイクを中心に半径一メートルくらいだろうから、僕達は最低でも三秒に一度の間隔で面白いことを言い続けなければ、ただ何かを話しているだけの二人になってしまうのだけど、三秒に一度の間隔で無理に面白いことを言おうとすると、面白くない人と思われる危険が高すぎるので、敢えて無謀な勝負はせず、あからさまに不本意であるという表情を浮かべながら与えられた持ち時間をやり過ごそうとしていた」

で、エンタメ的には、完全にアウトの文章。これはエンタメでは

「祭りのお囃子が常軌を逸するほど激しい。僕達の声を正確に聞き取れるのは、おそらくマイクを中心に半径一メートルくらいだろう。だから、僕達は最低でも三秒に一度の間隔で面白いことを言い続けなければ、ただ何かを話しているだけの二人になってしまう。だけど、三秒に一度の間隔で無理に面白いことを言おうとすると、面白くない人と思われる危険が高すぎる。そこで、敢えて無謀な勝負はせず、あからさまに不本意であるという表情を浮かべながら与えられた持ち時間をやり過ごそうとしていた」

としなければならない。

こういう視点で読めば『火花』はエンターテインメントの新人賞を狙うアマチュアにとっても大いに参考になる傑作と言えよう。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

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若桜木先生が送り出した作家たち

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日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

島田荘司推理小説賞(2015年12月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

島田荘司推理小説賞

今回はちょっと変わった新人賞を紹介する。二〇〇八年に台湾で募集が開始された、本格推理小説を対象とする島田荘司推理小説賞である。

台湾の皇冠文化出版が主催、文藝春秋、中国の当代世界出版社・青馬文化有限公司、タイの南美出版社の協賛で、開始された。第四回まで受賞作が発表されて、第五回の募集は二〇一七年が締切とのこと。応募作は八万字?十五万字の範囲で中国語での応募が条件。詳しくはhttp://ssk-ws.cside3.com/new/award/http://www.crown.com.tw/no22/SHIMADA/S1.htmlを参照。

日本には中国人の方が大勢いる。

身近にいなくてもツイッターなどで呼び掛ければ知り合う機会はいくらでも得られるから、チームを組んでの応募を勧める。中国語圏は本格ミステリーに関しては後進国で作品数が少ないから、巧く時流に乗れば爆発的なベストセラーが期待できる

英語圏、スペイン語圏に次いで中国語圏は活字文化圏としての期待度は非常に高い。ジリ貧状態の日本語活字圏よりも、遙かに期待できる。本格ミステリー作品に対して飢餓状態にあるから、仮に募集が打ち切られていても、出来の良い作品を送れば、採用になる可能性は高い。

さて、第一回の受賞作の寵物先生『?擬街頭漂流記』を読んでの感想は、翻訳が下手の上に、誤字が多くて情けなかったが、トリックには新奇性が感じられた。

ただ、登場人物のキャラの描き分け、台詞回し、読者を物語世界に引きずり込むテンポの良さ等々に関しては、まだまだの印象を持った。

これらの点に関して達者な日本のアマチュアが挑戦すれば、かなり容易に射止められそうに思う。

で、話を転じて、又吉直樹の芥川受賞作『火花』について述べる。

『火花』はジャンル的には純文学とエンターテインメント(以下「エンタメ」と略す)の中間に属する作品で、「こういう作品なら!」と意気込むアマチュアも大勢いると思われるので、相違点に触れていく。

まず、小説すばる新人賞受賞作の山本幸久『笑う招き猫』と新潮エンタメ大賞受賞作の神田茜『女子芸人』を読み比べてみることを勧める。同一系統に属する作品だからである。

端的に純文学とエンタメの最大の違いはどこかと言うと「純文学は読者に読解の努力を強いても良いが、エンタメではNG」である。

『火花』に手を出したは良いものの、随所で読解の必要な箇所にぶつかり、「難しすぎる」と挫折した読者も多かったのではないかと推察する。

以下、『火花』で、エンタメではNGのものを列挙する。

一.行替えが少なすぎる。
『火花』は例えば四ページから八ページまでの五ページで、行替えは、八箇所しかない。エンタメでは上限四行、童話やライトノベルは上限三行を目処に行替えする。

行替えが少ないと読みにくく、読解に神経を使うので、そういう文章を書く作家は大半が文壇から消える。

二.会話が長すぎる。
『火花』は一人が延々と十行以上に亘って喋り続ける箇所が珍しくない。

エンタメでは、これは不可。四行を上限に、随所に合いの手を挟む。そうすると、容易に内容が汲み取れ、語り合っている同士の情景が脳裏に浮かんでくる。

ただ『火花』の会話は巧い。乱歩賞受賞作の『道徳の時間』よりも格段に巧い。『道徳』はご都合主義のオンパレードだったが『火花』には、そういう減点要因は一切ない。模倣する価値は充分にある。

三.長文が多すぎる。
エンタメでは基本的に一文中の動詞数は三個までに留める。四個以上になると文意が伝わりにくくなり、読解力に劣る人は理解に苦しむ。長文を書く作家はエンタメ業界では大多数が文壇から消え失せる。例えば『火花』には、こんな文章がある。

「祭りのお囃子が常軌を逸するほど激しくて、僕達の声を正確に聞き取れるのは、おそらくマイクを中心に半径一メートルくらいだろうから、僕達は最低でも三秒に一度の間隔で面白いことを言い続けなければ、ただ何かを話しているだけの二人になってしまうのだけど、三秒に一度の間隔で無理に面白いことを言おうとすると、面白くない人と思われる危険が高すぎるので、敢えて無謀な勝負はせず、あからさまに不本意であるという表情を浮かべながら与えられた持ち時間をやり過ごそうとしていた」

で、エンタメ的には、完全にアウトの文章。これはエンタメでは

「祭りのお囃子が常軌を逸するほど激しい。僕達の声を正確に聞き取れるのは、おそらくマイクを中心に半径一メートルくらいだろう。だから、僕達は最低でも三秒に一度の間隔で面白いことを言い続けなければ、ただ何かを話しているだけの二人になってしまう。だけど、三秒に一度の間隔で無理に面白いことを言おうとすると、面白くない人と思われる危険が高すぎる。そこで、敢えて無謀な勝負はせず、あからさまに不本意であるという表情を浮かべながら与えられた持ち時間をやり過ごそうとしていた」

としなければならない。

こういう視点で読めば『火花』はエンターテインメントの新人賞を狙うアマチュアにとっても大いに参考になる傑作と言えよう。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。