ネット時代の作家 はあちゅうが語る
- タグ
- 作文・エッセイ
ネット時代の作家
はあちゅうが語る
「想定読者は、ちょっと前の
うじうじしていた自分」
はあちゅう
1986年、神奈川県生まれ。ブロガー・作家。慶應義塾大学法学部卒業。在学中にブログを立ち上げ実施したプロジェクトで話題となり、女子大生カリスマブロガーとして注目を集める。電通、トレンダーズを経て独立。『半径5メートルの野望』『真夜中にシュークリーム』など著書多数。4月に初の小説が刊行される。
――オンラインサロンやウェブマガジンの運営、雑誌の連載、SNS、イベント・商品プロデュースなど、様々な活動をしているブロガーで作家のはあちゅうさん。日々、どんなふうに執筆をこなしているのだろう。
文字数はわかりませんが……締め切りは必ず毎日あって、3つ運営しているオンラインサロンに週2つ以上ずつ原稿を書き、ウェブで連載している「月刊はあちゅう」と「はあちゅう日記」では、毎日各1記事を更新しています。そのほか、ブログや雑誌、フェイスブック、ツイッターなどを含めると、果てしなく書いていますね。
――どうしてそこまで書くようになったのでしょう。
単純に書くのが好きだからです。2歳のときからずっと作家を目指していて、今は本も出していますが、自分の中では作家になったと言い切れない部分がある。だから、「ネット時代の新しい作家の形を作りたい」と公言しながら、日々活動をしています。
――ふつうの作家さんとの違いは何だと思いますか?
私の場合、ウェブで日々出すものが作品となるので、より多くの人に、より多くの文章を見てもらえる。実際の作業としては、作家さんのほうがたくさん書かれているのかもしれませんが、公開のスピードが早く、リアクションを直に知れる。そういった特徴があると思います。
――それだけ毎日書いているとネタ探しが大変なのでは。
昔からネタを探すのは得意で、パソコンを開いたら書ける状態になっています。たとえば今、喫茶店にいますが、店の名前や場所で書くこともできるし、レモンティーで書くこともできる。一つの切り口から想像を膨らませ、そこにエピソードをつけてコラムを完成させていく。今まで生きてきた経験をネタとしてリサイクルできるんです。また、SNSに毎日投稿するには、心が動く瞬間を24時間探さなきゃいけない。身近なものへのアンテナを高める力が鍛えられるので、SNSを使わない手はないと思います。
――日記ではなくSNSだからこそ鍛えられるのでしょうか。
SNSは、ダイエットしたい、本を読みたいという、ふわふわとした頭の中を流れているだけの考えをただ書くのではなく、ちゃんとまとめて人に理解できる形にして提供しなきゃいけない。その作業があるということが、日記とSNSの一つの隔たりかなと思います。やはり一つ深く考えないと、人に見せるものにはならないんです。
――読み手に向けて、いつもどんな思いを込めて書いていますか。
ほっと息抜きになるような文章が書けたらいいなと思います。ただ、ひとつのテイストですべてを書いているわけではなく、学校のような感じのオンラインサロンでは、モチベーションを上げる文章が求められるし、サークルのような感じのサロンでは、みんなと同じ目線でいることが求められる、といったように媒体に合わせて文章を出しています。場所と読者層を意識した書き方を心掛けていますね。
――ファンの方たちは、はあちゅうさんのどんなところに惹かれているのだと思いますか?
メディアに出ているイメージから強い人と思われやすいのですが、ウェブ上のクローズドな空間の文章では、本当の自分の弱い部分をさらけ出しているので、そこに共感し、楽しみにしてくださっている方が多いのかもしれません。今でこそ、やりたいことがはっきりしていますが、会社員時代は時間がないとか文章で食べていけるわけがないとか、何かしら言い訳をしていました。だからこそ、今の生活や将来に悩んでいる人の気持ちがわかる。想定読者は、ちょっと前のうじうじしていた自分です。自身を励ますつもりで書いています。
――はあちゅうさんのように文章で稼ぐにはどうしたらいいでしょうか。
とにかく書くしかないですね。以前、大好きな林真理子先生が「作家というのはとにかく毎日一日も休まず書くことだ」とおっしゃっていて、私もそれを心掛けています。やっぱりプロは書いている量がすごく多い。そういう人たちだからこそ文章で食べていけるんですね。
――最近のブロガーを見て、感じることはありますか。
始めてもすぐにやめる人が多いです。今勝っている人は、みんながそのツールを知らないうちから始めて、書き続けた人なんです。そして今やっと芽が出ている。だから、表面だけ真似してなかなか儲からないからとやめるのはもったいない。何かこれと思うものを見つけたら、そこで書き続けてほしいです。
――書き続けるために気をつけることは何でしょう。
何かものになるまで続けられる体力が必要です。書いて儲けるというのはプロにとっても大変で一朝一夕でできるわけがない。無料でも続けられる、楽しいなと思えることをただやり続けて、それにおまけとしてお金がついてくるぐらいの感覚がいいと思います。
――これから生き残っていく書き手の資質とは何だと思いますか。
書き手のライター的能力に加えて、自身の編集能力を高めることが必要だと思います。ウェブ上でも、自分の文体に合った場所や読者を選んで、かつ見せ方の変化も考えられるといいですね。同じ文章でも、ブログに載るのと本になるのとでは全然見え方が違うので、自分はどこに出すべきかを考えられる人が、これからは生き残れるのかなと思います。
――最後に、公募ガイドの読者に向けてメッセージをお願いします。
文章を書くということは、自分を救済する行為でもあるし、考えを深める行為でもある。それは必ず、自分が生きていく力になると思います。稼ぐことを目的に書き始めてもいいのですが、書き続けていると、あるときそれを超える喜びを得られるときがくる。小手先で稼ごうとせず、まずは書き続けてほしいですね。