ここから短歌の旅が始まる。「現代短歌パスポート」創刊の秘密に迫る!
連続テレビ小説「舞いあがれ!」でも登場した短歌。俵万智さんや木下龍也さんなど、さまざまな歌人にフォーカスした番組も放送され、雑誌でも短歌特集が増えてきました。まさしく「短歌ブーム」が巻き起こっているなかで、短歌が気になってきた人も多いのではないでしょうか? 季刊公募ガイドやKouboでも、常にいくつもの短歌公募をご紹介しています。
短歌が収録されている本を「歌集」と言います。短歌を読むには歌集を手にするのが一番。けれども、歌人(作者)によって作品の雰囲気もずいぶんと違うものです。「どの歌集を買えばいいの?」「そもそもどんな歌人がいるの?」と迷ってしまいがち。そんな方に、朗報が飛び込んできました!
若手歌人の歌集を多数出版する書肆侃侃房では、注目の歌人10人の短歌が一度に読めるアンソロジーシリーズ「現代短歌パスポート」を刊行。第1号は5月15日に創刊です。短歌公募や創作を楽しむ人にも刺激的な本かもしれません。
本記事では、出版社のインタビューや収録歌人の紹介など、その秘密に迫ります!
「歌集を手に取る」前の一冊にも
アンソロジーとは複数の作家による作品集のこと。「現代短歌パスポート」では10人の歌人が新作短歌を寄せているそうです。
書肆侃侃房の編集者・藤枝さんに「現代短歌パスポート」創刊の経緯について伺ってみました。
「短歌ブーム」などとも言われる昨今ですが、短歌にまだ触れたことのない読者にとっては、歌集をいきなり手に取ることはハードルが高いかもしれません。アンソロジーで複数人の歌に触れることができれば、そこから短歌の世界に入っていけるかもしれない、そのような思いで企画し、「パスポート」(短歌の世界への入り口に)と名付けました。
今まで短歌に触れてこなかった人に最初の一冊として読まれることを想定しています。藤田裕美さんの手によって、ハンディでポップなデザインが実現しました。
一方で、すでに好きな歌人のかたがいる読者にとっても、150首が収録されたこのアンソロジーは、読み応えがしっかりあるに違いないと思います。
収録数150首というと、短歌初心者にとってはちょっとドキドキするボリュームですね。でも、作者1人につき作品は15首ずつ。どの人から読みすすめても大丈夫そうでホッとします。
収録歌人10人と代表作品を紹介
今後、シリーズ化して刊行予定とのことですが、第1号に収録される歌人はどんな方々なのでしょうか? 前述の藤枝さんによると「個人的にも、いまその歌を届けたい、と心から思える歌人の方作品をいただくことができました」とのこと。それでは、お一人ずつご紹介します!
榊原紘(さかきばらひろ)
書肆侃侃房が主催する第2回笹井宏之賞で大賞を受賞し、2020年に第一歌集『悪友』刊行。オンラインカルチャースクールの講師もされています。第31回歌壇賞では次席という、公募視点でも輝かしい実績の方です。「推し」をテーマにした短歌も圧巻!
榊原紘『悪友』
伊藤紺(いとうこん)
歌集『肌に流れる透明な気持ち』『満ちる腕』を刊行。文芸誌やファッション誌にも寄稿されており、今年2月〜3月にはNEWoMan新宿にて短歌の特別展示「気づく」も開催。書籍や文芸にとどまらない活躍をされています。
伊藤紺『肌に流れる透明な気持ち』
千種創一(ちぐさそういち)
2015年に歌集『砂丘律』を刊行し、日本歌人クラブ新人賞、日本一行詩大賞新人賞を受賞。『砂丘律』はちくま文庫版も出版されています。2020年には二篇の詩を含む歌集『千夜曳獏』が話題になりました。
千種創一『千夜曳獏』
柴田葵(しばたあおい)
第1回笹井宏之賞大賞を受賞し、第一歌集『母の愛、僕のラブ』を刊行。Kouboにて「あなたとよむ短歌」連載中。柴田さんに「現代短歌パスポート」へのコメントをいただいたところ「ほかの方の作品も含め、ゲラを読んだ時点で震えました。短歌が思い切り楽しめる一冊だと思います」とのこと。
柴田葵『母の愛、僕のラブ』
堂園昌彦(どうぞのまさひこ)
高校生から作歌を始め、歴史ある学生短歌会のひとつである早稲田短歌会でも活躍。第一歌集『やがて秋茄子へと到る』を刊行。NHK文化センターで短歌講座も担当されていました。多くの現代短歌歌人が影響を受ける一人です。
堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』
谷川電話(たにかわでんわ)
2014年、第60回角川短歌賞を受賞し、鮮烈デビュー。歌集『恋人不死身説』と『深呼吸広場』を刊行。笑えるのに不思議と泣ける短歌の数々は、若い世代からも熱く支持されています。
谷川電話『深呼吸広場』
吉田恭大(よしだやすひろ)
短歌結社である塔短歌会や、早稲田短歌会で短歌を学び、2019年に第一歌集『光と私語』を刊行。『光と私語』はそのブックデザインからして詩的で、第54回造本装幀コンクール読者賞受賞するほど。現在、詩歌の一箱書店「うたとポルスカ」を運営されています。
吉田恭大『光と私語』
菊竹胡乃美(きくたけこのみ)
今年4月に第一歌集『心は胸のふくらみの中』を刊行したばかり。短歌は2015年からはじめたとのこと。以下の収録歌にもあるように、女性であること、女性として生きることに向き合う気鋭の歌人です。
菊竹胡乃美『心は胸のふくらみの中』
宇都宮敦(うつのみやあつし)
荻原裕幸、加藤治郎、穂村弘という3人のスター歌人が集まり開催し、5回限りで終了した短歌賞「歌葉新人賞」で2005年に次席となり、以降、多くの歌人に影響を与えた人。2018年に刊行された待望の第一歌集『ピクニック』は、少年ジャンプのようなサイズで皆を驚かせました。
宇都宮敦『ピクニック』
初谷むい(はつたにむい)
第一歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』、第二歌集『わたしの嫌いな桃源郷』ともに、みずみずしい言葉で心に刺さる短歌を発表してきた歌人。若い世代を中心にファンも多く、今回のアンソロジーにも期待が高まります。
初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』
創刊イベントや今後の展開も楽しみ
今回の創刊を記念して、取扱い書店では短歌フェアなどを開催する予定もあるようです。書肆侃侃房さんのSNSなどをチェックしてみましょう。また、5月20日には、東京の青山ブックセンターにて、今回作品を寄せた歌人のなかから5人が出演するトークイベントがあるとのこと。事前予約制なので要チェックです。
短歌に興味がわきはじめた人や、とりあえず短歌に触れてみたい人、すでに短歌沼にハマっている人など、多くの人にとって手を伸ばしやすそうな「現代短歌パスポート」。公募ガイドを読んで短歌を応募しているあなたも、いつか歌人になって短歌が収録される日がくるかもしれません!
公募情報ライター。最近は各地を盛り上げるご当地公募から目が離せない。好物はネギトロ。公募ガイド公式Instagramでも執筆中。
出典: http://www.kankanbou.com/books/tanka/tankapassport/0575
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