あなたとよむ短歌 テーマ詠「数字を含む短歌」結果発表 ~生きながら短歌を詠む~


テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「数字を含む短歌」結果発表
~生きながら短歌を詠む~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「数字を含む短歌」の結果発表です。
面白い作品が900首以上も集まりました。選びきれなかったので、今回は佳作を6首ご紹介します。
数字というのは感覚的なものというより物理的なものです。「うれしい」「やさしい」などのとらえ方は人や場面によってさまざまですが、数字はブレません。多様な読解を許容しがちな短歌のなかに数字を出すと、その異質さがフックとなる場合が多く、私は個人的にはとても好きです。
感覚的、感情的なものをメインに詠みがちで、もっと表現の幅を広げたいと思っている人には、試しに数字を入れてみることをおすすめします。
後半では投稿者の皆さんの質問に回答しています。作品と合わせて、ぜひ最後までお付きあいください。
それでは、最優秀賞の発表です!


32個も教えてしまった
映画か音楽かマンガか、ラーメンか観光スポットかわかりませんが、誰に「おすすめ」を教えたり、誰かに聞かれることもあるでしょう。その回答が32個も挙がってきたらどうでしょうか。想像してみてください。
どのタイミングかわかりませんが、32個もおすすめを回答したあとで、多すぎたことに気がついたんでしょうね。過度な親切や愛情は、時として誰かを追い込んだり、人との縁が切れてしまったりするものです。する方・される方、どちらも多少の経験がある人が多いかもしれません。
「32」という具体的な数字が、その「過度」だったところをリアリティをもって読者に伝えています。後からいくつおすすめしたかを数えなおしたからこそ「32個」だと気づいたんだろうな……と、前後も想像できる一首です。
続いて、優秀賞2首です。


でっかく書いて海へ返すよ
「じゃあね」は別れの挨拶です。もしかしたら恋人との決別だったのかもしれません。
5分前に言われた別れの言葉を砂浜に書いて波に消し去ってもらう。感傷的でありつつも「お前」「でっかく」という荒い言葉遣いに、怒りや悔しさも感じられます。
誰しもが「5分」という時間を意識したことがあるはずです。面白い動画なら5分はあっという間ですが、立ったままで説教を聞いていたら5分は永遠のように長いでしょう。この人の5分はどんな長さだったのでしょうか。すっきりするといいな。


同じ角度で落ち込んでいる
モスバーガーというよりはマクドナルドのポテトでしょうね。細いタイプの、1つ買えば必ず何本か「しなしな」が入っているヤツです。「残されて」ということは、残していった相手がいるはずです。それだけ残して一体どこにいってしまったんでしょう。何があったんでしょう。
この一首は「1本」という数字のあとに「角度」という数学的・物理的な言葉を出している点も効果的です。たとえば「同じ様子で」だったらどうでしょうか? 「角度で」のほうが妙に客観的で魅力的です。落ち込んでしまったとき「あ、落ち込んでいるな……」と、どこか冷静になっている雰囲気も伝わってきます。