あなたとよむ短歌 vol.62 テーマ詠「怒り」結果発表 ~推敲と承認欲求~


テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「怒り」結果発表
~推敲と承認欲求~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「怒り」の結果発表です。
「怒り」などの感情を「詠もう」とすることは難しいですよね。テーマ詠としては少々意地がわるいな、と思ってこの題詠にしました。せっかく長く連載をつづけられているので、多様なテーマを出していきたいと思います。
なぜ感情を「詠もう」とするのは難しいのでしょうか? おそらく、短歌の多くは「短歌を詠んだ結果として作品に感情がにじみ、短歌を読んだ結果として感情が呼びおこされる」からかもしれません。
特定の感情を短歌で表そうと力んでしまうと、ついその経緯を説明するにとどまったり、逆に抽象的になりすぎてぼやけたりするようです。けれども、何事もやってみるのが大事ですし、何かを発見するきっかけになるものです。
後半では投稿者の皆さんの質問に回答しています。作品と合わせて、ぜひ最後までお付きあいください。
それでは、最優秀賞の発表です!


ポイントカードでチャーシューを得る
「怒り」というテーマについて、自らの怒りではなく他者の怒りから発想した点がまず目立ちました。
この人は怒鳴られるたびに一蘭のラーメンを食べていたんですね。ポイントカードがたまるほど繰り返していたら、条件反射でおなじみの「パブロフの犬」のように、怒鳴られそうになった瞬間にもう脳裏にラーメンが浮かびそうです。「チャーシューを得る」というビジネスライクな結句からも、なんのダメージも受けていなさそうです。
しかし、本当にそうでしょうか。最初は、怒鳴られたつらさをカバーするために好きなラーメンを食べたはずです。それが何度も何度も発生することで、ついに条件反射のようになってしまった。いつかまったく関係なく大好きな一蘭を食べたとき、怒鳴られていた過去が呪いのように蘇りそうです。
続いて、優秀賞2首です。


やたらに配るそのやさしさは
「おしぼりか?」で始まる短歌は初めてみました。インパクトがすごい。けれども、大変自然な倒置法になっていて、言葉として読みやすく意味も通り、57577の定型にもしっかり収まっています。
「どうぞー」と店員さんが笑顔で配ったり、大人数のレストランで気の利く人が配ったりする「おしぼり」。タオルを巻いているタイプなどは、ちょっと温かい場合もありますね。「やさしさ」の象徴みたいです。


かけるすべて自分の人生みたいに
居酒屋の唐揚げやポテトかもしれませんし、家族で囲む食卓かもしれません。とにかく、何にでもマヨネーズをかける人に怒っています。このように焦点が絞られると状況も想像しやすいですね。
よく見聞きする状況ですが「すべて自分の人生みたいに」という比喩がすばらしいです。わかるようなわからないような、でもわかるような絶妙さ。自分の人生ならどういう味付けをしようが自由ですが、人と共有する大皿料理は「人生」というより「社会」であるはずです。