童話賞入選への道③:ストーリー作りは簡単だ


ストーリーが思いつかないとき、どうアイデアを見つけ、それをどのようにストーリーにするかについて考えよう。
アイデアを場面にし、前後を考える
ストーリーにはアイデアが必要
ストーリーを作るには、その前にアイデアが必要になる。このアイデアは真理の発見に近い。
たとえば、めちゃくちゃおいしかったラーメンを3年後に食べたらそうでもなかった。「食べられないでいると、記憶の中でおいしさが増幅する」。
あるいは、社長がごちそうを食わしてやると言ったが、それはカレーライスだった。「ごちそうといっても人それぞれ」。
カッコ内の言葉がアイデアだ。
アイデアだけではお話にならない
思いついたアイデアが万人に共通する思いであればあるほど共感を得やすいが、アイデアのままでは格言にはなっても童話にはならないから、アイデアを場面にする。
では、そのあとは?人気作家の石崎洋司先生に聞いた。
「ストーリー作りの最初の段階では、必ずしも起承転結を考える必要はありません。自分が一番面白いと思うシーン、書きたいシーンを思っままに書いてみる。ひととおり書いたら、今度は冷静になって、キャラクターや舞台について考える。主人公はどんな人(動物)で、ふだんはどんな暮らしをしているのか。主人公はなぜそのシーンにいることになったのか。そのシーンの場所はどんなところなのか。こうしたことを一つ一つたどっていく。
つまり、そこに至る経過を自問自答し、書きたかったシーンに至る過程をたどりながら決めていくと、物語の書き出しが見えてくる。
同様にこのあとどうなっていくかを考えていく。このときにはもうキャラクターや舞台の設定がある程度できているので、そのあとの展開は比較的楽なはずです」
ここまで中身を詰められていれば、あとは起承転結や序破急などの構成に落とし込むだけ。
具体的に言うと、どこからどう書き出すか、書き出しでどう読者を引き込むか、どう話を自然に運ぶか、どこを山場とするか、最終的な落としどころをどうするか、さらには主人公の目的は何で、伝えたいメッセージは何かを考える。
ストーリーチェックのポイント
テーマが浮かぶか
読後にテーマが立ち上ってくるかを考える。話の筋道が通っていない、話が蛇行しすぎる、複雑すぎる。そんなストーリーだと結末を読んでもピンとこない。あらすじを読んでも、伝えたいことがわかるようになっていること。
削る場面はないか
書くとなると、ついなんでも詰め込んでしまいたくなるが、300枚では大河ドラマは書けず、まして短編では人生のある一瞬しか書けない。その作品のテーマに関係しないもの、結末につながらない場面などは削る。
子供向けか
いいストーリーでも子ども向けでなければならないし、子どもが楽しめる内容でもなければならない。また、文学というのであれば娯楽として楽しませるだけではなく、背後にテーマがほしい(あまり前面に出しすぎないこと)。
ストーリー着想のヒント
格言から考える
実体験からアイデアを発見する逆。すでにある格言、たとえば「覆水盆に返らず」だったらそれをもとに場面を考え、格言がタイトルになるようなストーリーを作る。
絵画を挿絵だと思う
有名な絵画でも子どもが書いた絵でもいいが、それが挿絵だったら文章のほうはどんな物語だろうかと考える。いい絵は背後にストーリーがある。それを想像する。
歌詞をストーリーに
歌詞にはストーリーがあるので、それを借りる。自分の童話の主題歌だったらと考える。ストーリーをそのまま使うというより、歌詞のフレーズから着想を広げていく。
言葉を組み合わせる
辞書などの中から適当に言葉を選ぶ。それが「傘」と「赤」なら、そこから「頬を赤く染めた傘」のように言葉を作り、それって何? どうしてそうなった? と考える。
結末から逆算する
空港で、駅で、あるいは公園で、泣きながら手を振っている人を見た。これがラストシーンなら、それは誰で、なぜ泣いているのか、何があったのかと話を遡っていく。
もしも……と考える
「もしも……だったら」と考えるのは空想童話の基本。たとえば、オオカミの耳が突然大きくなったらどうなるか、それで? それで? とどんどん続きを考える。
ストーリーメイク:プロの作法
牧野節子先生
ロシアの民俗学者ウラジーミル・プロップが民話の形態を機能で分解した「プロップのカード」というものがあります。
機能というのは「留守」「禁止」「違反」「密告」「主人公の出発」「敵対者との対決」など人物の行為を示したカードで、全部で31枚あります。そのうちのいくつかを拾い、それにそうように物語を作ってみてください。
たとえば、主人公は女の子。両親は出かけてしまう(留守) 。そのとき、火を使わないよう言われる(禁止)。しかし、お腹が空いたのでガスに火をつけ(違反) というふうにお話を作っていきます。思いもかけない面白いストーリーができるかもしれませんよ。
まきの・せつこ
89年「桐下駄」で小さな童話大賞、92年「水族館」で女流新人賞受賞。
NHK文化センター詈山教室と横浜ランドマーク教室で「童話・お話の書き方」を開講中。
鳥野美知子先生
中高年から創作を始めた方へ。
素材との出会いの場は無数にあります。人との語らい、新聞、ラジオ、人がいっぱいいそうな場所、電車で耳に飛び込んでくる会話、職場での発見。どれもこれもネタになります。
しかし、私が一番お薦めしたいのは自分自身です。自分が今まで一番悲しかったこと、悔しかったこと、失敗したことがネタになります。私のデビュー作は、一番悲しかった頃のことを、地元の山の神伝説とからめて書きました。
人が考えることなんて大同小異です。だからこそ、唯一無二の自分自身からのネタ探しをお薦めします。もちろん家族もフル動員しましょう。
とりの・みちこ
童話作家。日本児童文学者協会会員。学校図書館に長年勤務している。主な著書に『どんぐり屋』『ねんねこさい』『鬼の市』などがある。
※本記事は「公募ガイド2018年3月号」の記事を再掲載したものです。