童話・児童文学 入選の必勝法 グレードって何? 指定がないときはどうする?


童話・児童文学系の公募では、グレード(対象年齢)について指定がある場合があります。
「小学校低学年向け」と言われた場合、何を書けばいいの? なんの制限なの?
グレードについて指定がない場合はどうすればいいの?
今回は、公募ガイド編集部がそんな疑問にお答えします。
子どもの脳は劇的に変わる、だからグレードが必要
童話・児童文学には、グレード(対象年齢)というものがあります。
各版元によって多少の違いはありますが、大雑把に言うと以下のように分類されます。
○幼児向け(0歳~5歳)
○小学校低学年向け(小学校1~2年生)
○小学校中学年向け(小学校3~4年生)
○小学校高学年向け(小学校5~6年生)
○中学生向け(ヤングアダルト)
なぜ分けるかというと、「推薦図書がそう分類されているから」「書店や図書館に置くときの分類のため」ということもありますが、それ以前に、子どもの脳は大人になる過程で劇的に変化しますので、わずか数年で読むもの、読めるものが変わってくるからです。
私たち人間の幼児は直観的思考で生きています。まだものを考える力も知識もありませんから、そうせざるを得ません。
しかし、7歳~11歳にかけて論理的思考に変わってきます。7歳~11歳というのは個人差があるという意味で、実際には8歳~9歳にかけて、突然、世の中のことが見えてきたり、人間関係の機微がわかるようになったり、ユーモアというものを理解できるようになったりすることが多いようです。
身近なところに小学生がいる方は、こう聞いてみてください。
「綿10トンと鉄10トンはどっちが重い?」
1年生は綿と鉄を比べ、直観で「鉄」と言います。十中八九、そう言います。
しかし、6年生になると「10トンと10トンは同じだよ」と論理的に答えを導きだします。
大人にはここまでの差はありませんね。20歳も30歳も60歳も80歳も脳構造は変わりません。趣味嗜好はだいぶ変わりますが、20歳が老境小説を読み、80歳が青春小説を読むこともあります。
しかし、1年生には6年生向けの読み物は読めませんし、6年生は1年生向けのお話に興味を持ちません。
もちろん、シェル・シルヴァシュタインの『大きな木』や『ぼくを探しに』のように老若男女問わず読まれるものもありますが、一般的には各グレードの年代の子が読むもの、読みたいものには差があります。
書く人目線でグレードを分類、解説しよう!
グレードは読者が本を選ぶときの目安になりますが、創作者から見ると、どんな内容にするかの目安にもなります。
では、各グレードによってテーマやストーリーがどう変わるかを見ていきましょう。
○幼児向け(0歳~5歳)
とにかく直観でわかるものがよく、子どもの感性をはぐくみ、想像力をかきたてるものが理想です。
この年代は自分で読むより読んでもらうことが多いので、「聞き間違いをしない言葉づかい」に気をつけましょう。
また、未就学児ですので、文章はひらがなが多くなりますが、そのまま書くと切れ目がわかりませんので、分かち書きをします。
分かち書きには単語ごとに切るものと文節ごとに切るものがあります。
〔単語ごとに切った例〕
きのう こうえん で ブランコ に のりました。
この書き方は、幼年童話でも1歳向け、2歳向けとかでしょう。
〔文節ごとに切った例〕
きのう、お父さんと ばばに 会いにいきました。
文節とは「ねえ」がつく切れ目です。
きのうねえ/お父さんとねえ/ばばにねえ/会いにいきました。
ちなみに「会いにねえ/いきました」と切ることもできますが、「会いにいきました」は複合動詞ですので、これは一語とみなします。
○小学校低学年向け(小学校1~2年生)
この年代もまだ直観的な思考で生きています。また、読み聞かせをされることも考慮して、目で見ないとわからないような表現は避けるようにしたいです。
「真菜と羽奈」は字面は違いますが、音で聞くと混同しますね。
オノマトペは、うまく使うと効果的です。オノマトペには「ワンワン」といった擬声語と「ぐったり」のような擬態語がありますが、特に擬態語のほうは表現効果が高く、情感がよく伝わります。
たとえば、ベッドの上で遊んでいる子どもに「騒がないで」と言っても伝わりにくいですが、オノマトペを使って「バタバタしないで」と言うとストレートに伝わります。お子さんをお持ちの親にオノマトペが多くなるのは、伝達効果が高いから。これは読み物にも通じます。
舞台となる場所は「家・公園・学校」といったよく見知った場所が多く、ストーリーはシンプルとし、「何が、どうして、どうなった」が明確なほうがいいです。
起承転結をはっきりさせ、読み終わったときに明確にテーマが浮かぶような話が好まれます。
○小学校中学年向け(小学校3~4年生)
論理的思考に切り替わる時期です。
「人は皆、死ぬ」「ソクラテスは人だ」「だから、ソクラテスは死ぬ」というような理屈も通じますし、ということは、ちょっとしたミステリーや謎物語も大好きになります。
また、ユーモアやギャグも理解します。1年生のときにはわからなかったダジャレも、中学年になると理解し、自分でも考えたりします。
舞台は小学校低学年向けのときより広がり、県外でも海外でも問題なく、「押し入れの先にタイムトンネルがあった」という世界観でも読み解けます。
人間関係で悩んだり、心の悲しみなどに敏感になり始める年代でもあり、そうした内容に強く惹かれたりします。
○小学校高学年向け(小学校5~6年生)
この年代はもうほとんど大人向けの小説と変わらない内容でも読めます。実際、小学校高学年なら大人向けの小説でも読めます。
嗜好や興味も広がり、社会性のある物語や社会問題について扱ったノンフィクションなども興味の対象になります。
物語構造にしても、メインプロットとサブプロットが並走するストーリーも難なく読みますし、時系列が崩れた話でも(うまく説明すれば)理解します。
大人向けの小説との差は、あからさまな濡れ場がないこと。ラブシーン自体はありますが、具体的には書きません。
犯罪を推奨するかのような設定(ノワールなど)やブラックジョークもあまりやりません。大人ほどフィクションを理解しませんので、そのまま受け止められるリスクがあります。
書き方にもよりますが、嫁姑問題や相続などを扱った小説もほとんど作例がありません。書いていけないわけではありませんが、興味の対象外でしょう。
○中学生向け(ヤングアダルト)
読者対象が中学生ということ以外は、大人の小説と同じです。
友達との関係、恋愛、進路、流行りもののほか、「人はどう生きるか」を問うような中学生が興味を持つ題材が選ばれます。
童話・児童文学系公募に応募するときの注意
童話・児童文学系の公募を見ると、グレードについて募集要項に書いてあるものと書いてないものがあります。
以下、一例として3つの公募を挙げます。
○角野栄子もっと新しい童話大賞 5〜8歳の子どもたちを夢中にさせる作品
○子どもたちに聞かせたい創作童話 ①保育園児、幼稚園児、小学校低学年向けの作品②小学校中、高学年向けの作品
○小川未明文学賞 ①短編部門(小学校低学年向け)と②長編部門(小学校中学年以上向け)
このようにグレードについて書かれている公募は、これに準じて書きましょう。
グレードについて決めている公募は、実際に商業出版するか、子どもに読んでもらうことを意識して刊行されることが多いと言えます。
一方、グレードの指定がない公募もあります。
○新美南吉童話賞
○グリム童話賞
○アンデルセンのメルヘン大賞
一例ですが、これらの童話賞については、グレードの指定はありません。
では、なんでもいいかというと、そうとは言えず、結果から見ると、7歳~11歳(まさに論理的思考に切り替わる年代)向けと思われる作品が選ばれています。
一般的な概念としても、童話というと7歳~11歳ぐらいの子の読みものと考える方が多いからですね。
7歳~11歳のうち、7歳向けがいいか、それとも11歳向けがいいかは、作品の内容と規定枚数によります。
たとえば、規定枚数が400字詰め原稿用紙5枚なら、7歳~8歳ぐらい向けのシンプルなストーリーになると思いますが、これも20枚となるとやれることが多くなり、奇想天外な設定、意外な展開、思わぬ結末にもできますし、伏線も張れます。結果的にグレードが上がることになるでしょう。
ただ、重要なのはグレードを守ることではなく、まずは自由に発想してお話を作り、この内容の話を生かすとすると、どのグレードとの相性がいいかというふうに判断することです。
グレードありきで考えてもいいですが、グレードにばかりとらわれると発想が貧困になるリスクがあります。
小学校中学年向けなら小学校中学年向けに決めるにしても、同じ小学校3年生でもいろいろなのだから、小学校中学年向けという解釈にも幅があっていいじゃないかというぐらいの感覚でいきましょう。
現在募集中の童話・児童文学系公募はこちらをご覧ください。
https://koubo.jp/article/30265
グレード(対象年齢)についてわかったでしょうか。
決め手は、直観的思考と論理的思考ですね。ここがポイント!
でも、グレードは便宜的な分類ですから、「低学年向けに政治とか難しいかな」と線引きしてしまわず、まずは自由に発想しましょう。