『僕は小説が書けない』すべての君へ4:著者・中村航×中田永一インタビュー
ものがたりソフトを開発
――質問に答えるとプロットが完成するソフトを開発されたそうですね。
中村 書き方を論理的に教える方法はないかと考え、初めてでも小説を書けるようなソフトを作りたいと思ったのがきっかけですね。
――大学との共同研究ですよね。
中村 母校の芝浦工業大学の研究室に提案して、学生さんたちと一緒に研究としてやっています。こういうふうなやり方をしたら誰でも簡単に面白い小説ができる、そういうソフトを目指しています。
――中田先生も最初から開発を?
中田 僕はシナリオ理論を参考に小説を書いていたので、このソフトにも興味があり、あとから参加させていただくことになりました。
――これから小説を書きたい人にも、シナリオ理論は役立ちますか?
中田 覚えておくと便利だと思いますね。それですぐに書けるわけじゃないけど、物語の見え方が違ってくる。空手の型のようなものです。
――このソフトにはどんな機能が?
中村 全体のあらすじを作ってくれる機能と、キャラクターの設定をまとめておく機能、具体的なシーンの内容と順番を保存しておく機能の3つがあります。キャラクターや事件についてソフトが質問してきて、それに答えていけばあらすじができてきます。この部分にシナリオ理論が使われていますね。
リレー式で10枚ずつ執筆
――共作で書かれた『僕は小説が書けない』はこのソフトを使って書かれたとか。
中村 せっかくなので、小説を書きたいのに書けない主人公の成長を書こうと。二人で大まかな概略を作り、あらすじ機能に対して一緒に質問に答えていきながらプロットを作りました。
――その後はどうやって書き進められたのですか。
中村 そこからは10枚ずつ書いては渡してとリレーをしながら、最後まで書きあげました。全部終わってからは、全体を見て直しあうというスタイルです。
――二人で書くことで何か発見はありましたか?
中田 セリフに驚きがありました。こんなのが出てくるんだと。それを受けて僕も面白いこと言わせようとするんだけど、なかなか出てこない(笑)。難しくもあり、楽しくもありましたね。
中村 僕も楽しく書けました。中田さんが何を書いてくるか分からないので、出てきたのを見たらすごく刺激されて、もっと盛り込みたくなる(笑)。そしてそれを継いで中田さんならどうするかな? と考えるのも楽しかったです。
悩みや解決策を盛り込んだ
――文芸部に入るもなかなか小説が書けない主人公・光太郎の悩みは、小説を書きあぐねている人たちと共通しますね。
中村 テーマやプロットの作り方、スランプ脱出法など、小説を書くことにまつわるいろんなことを書いています。ふだん皆さんが読むのは完成した小説ですが、そこに至るまでにはさまざまな段階がある。その中でよくあることや、悩んだりすることを盛り込みました。
――小説は理論で書けるという原田先輩と、そんな作品に人は感動しないという御大。価値観の違う二人のOBに光太郎が翻弄されるところが面白いですね。
中田 シナリオ理論で書くというと否定的な意味でとられることが多いですが、生まれつきの才能ではなく、努力で何にでもなれるという人間賛歌的な意味もあるんです。一方で、才能のような得体のしれないものを信じないと前に進めないところもある。作家の中には常にこの二つの思いがあり、そのせめぎ合いで書いている。両方必要なんだと思います。
――「ものがたりソフト」を使った今回と今までとの違いは?
中村 共作ですし、プロットがないと行きあたりばったりになる。その辺で助けられました。
中田 ふだんは、キャラクターはあいまいなまま見切り発車で書き始めますが、今回はソフトが質問してくれるので、明確な状態で書き出すことができました。
――最後に、公募ガイド読者にメッセージをお願いします。
中村 まずは小説として楽しんでほしい。登場人物に感情移入しながら、小説の書き方を学んだり、感じたりできると思います。やる気やきっかけにつながるとうれしいですね。
中田 小説を書くヒントをたくさん入れたので、創作の役に立つと思います。
「ものがたりソフト」とは?
芝浦工業大学と中村航氏・中田永一氏が共同で開発。登場人物たちの設定などさまざまな質問に答えていくと、小説の骨組みとなるプロットが完成する。これにより小説を書いたことのない人でもあらすじを作ることができ、最後まで書き進めるための指針となる。また、ヘルプボタンを使えば、データベース化された文言が表示され、アイデアを広げるサポートもしてくれる。
『僕は小説が書けない』(角川書店刊/ 1,500円+税)
あらすじ…暗くてモテず、いつも不幸を引き寄せてしまう光太郎。高校入学後、先輩・七瀬の強引な勧誘で廃部寸前の文芸部に入ることに。小説を書いて挫折した経験がある光太郎は、個性的な面々とのやり取りの中で、小説を書き上げることができるのか……。
※本記事は「公募ガイド2015年1月号」の記事を再掲載したものです。