せきしろの自由律俳句 第85回「楽器」結果発表 (2/3)
第 85回 課題: 楽器
佳作
ギターと写る父が長髪だ
(愛知県 ナカジマ 41歳)
コントラバスが歩いている
(福島県 可笑式 57歳)
バイオリンケース背負ってほか弁を待っている
(神奈川県 Akiki 58歳)
年季の入った楽器と共に年を取り
(岩手県 赤子沢 53歳)
ヤマハ音楽教室がある帰途
(長崎県 毎日ハッピー 45歳)
リコーダーで返事をする息子
(東京都 水面叩 32歳)
鼓笛隊が動きだしたぞ
(和歌山県 中村マコト 50歳)
拭いて写った歪んだ顔の私
(東京都 あいがけをありったけ 22歳)
先生の指はピアニストになりたかった
(東京都 文月 21歳)
楽器はないがすきま風はある
(茨城県 いばおじさん 69歳)
カスタネット隊大まじめ
(千葉県 xissa 58歳)
氷点下でもハーモニカは春の音
(東京都 汐海 岬 51歳)
両手で奏でる見知らぬ南国
(東京都 稲葉智子 44歳)
猫が恐る恐る鍵盤の上を
(北海道 エリンギ 36歳)
楽譜と指揮者と副部長の顔色を見る
(神奈川県 へやぼし 34歳)
夕暮れの校舎どこかにいる吹奏楽部
(大阪府 フルカワ 32歳)
窓から洩れる音を見ている
(千葉県 桜那恵 26歳)
趣味を尋ねたら知らない楽器
(福島県 きりんのき 22歳)
子の残したピアノを弾いてみる秋の夜長
(千葉県 中原牛美 86歳)
卒業証書の筒とリコーダー
(秋田県 まかろんりー 20歳)
いくつもの楽器を見送る休日
(神奈川県 廣瀬順子 79歳)
『ギターと写る父が長髪だ』。私くらいの年齢の父親だろか。そうだとしたらバンドブームの頃か。なんてことを考えさせてくれる句だ。
『コントラバスが歩いている』。コントラバスは大きい。その大きさが伝わってくる句。
『バイオリンケース背負ってほか弁を待っている』。自由律俳句に必要なのは「気づき」である。見逃してしまいそうな風景に自由律俳句になるかもしれない「素」がある。
『年季の入った楽器と共に年を取り』。「年季が入った」がなくても歳月を感じることができるから思い切って取ってしまっても良いだろう。また、「楽器」を「具体的な名称」に替えるとさらに詩情が生まれる。もちろん本当に使っていた楽器でなければいけない。
『ヤマハ音楽教室がある帰途』。こちらは建物を具体的な名称にしてあり、大変効果的に働いている。帰り道が浮かんでくる。
『リコーダーで返事をする息子』。空き瓶を笛にしてずっと遊んでいて、その音で返事して怒られたことを思い出した。
『鼓笛隊が動きだしたぞ』。この句からは、陽気なサンバ隊が来て道路を横断できなくなったことを思い出した。「鼓笛隊が動きだしたぞ」が誰のセリフかはわからないが、誰のセリフでも面白い。
『拭いて写った歪んだ顔の私』。ゲームをしてて、ロード画面になって画面が暗くなった時、不意に映る自分の顔で私はいつも現実に引き戻される。
『先生の指はピアニストになりたかった』。きっと、そしてずっと綺麗な指なのだ。