ツイートする短歌5:楽々短歌づくり講座


1:上の句と下の句の組み合わせの3つのパターン
景→心:清水へ祇園をよぎる桜月夜→こよひ逢ふ人みなうつくしき(与謝野晶子)
初心者には意外と長く感じられる五七五七七。心にあふれた詩情なり、おや! と思った心の動きなどを歌にしようとして、どこからどう書けばいいのか戸惑ったりします。
そんなときは、とりあえず目の前の情景を五七五でスケッチしましょう。スケッチ、つまり写生です。
作例として出した与謝野晶子の歌も、上の句で「清水へ祇園をよぎる桜月夜」と情景を写しています。
ここだけ読むと俳句的なスナップ写真のようですが、ここから気持ちを述べることができるのが短歌のいいところです。
景→景:瓶にさす藤の花ぶさみじかければ→たたみの上にとどかざりけり(正岡子規)
写生を提唱した正岡子規らしい情景を詠んだ歌です。子規が思ったことは書かれていませんが、読者に情景を見せることで、作者が何を思ったのかがわかるように作られています。心情を事物に託すことで、間接的に伝えています。
また、上の句では情景を写して静止画ですが、下の句になって画面が動き出して動画になったような変化があります。同じく景を写しても、
同じことはしていません。
写生は短歌を改革した子規の提唱した手法ですので、こちらが王道と言えるかもしれません。
心→景:死してなお励めとばかりに墓前に→供えられたる栄養ドリンク(両角博守)
普通の散文の語順なら、「墓前に栄養ドリンク備えおり死しても励めと言わんばかりに」になると思いますが、人は何かに気づいたり、驚いたりしたとき、そのことのほうが先に口をついてできてきます。
作例として出した歌も、「死してなお励めと言わんばかりだあ」という感想が先に来ているので、その感じがよくわかります。
また、最後まで何が備えらえれているのか明かしていないので、結句がオチのようになっています。
ただし、このパターンは強い感動や衝撃がないともちません。
2:作歌の方法 足し算法と引き算法
足し算法:ワードを引き出し、そこに言葉を足す
日常の中で歌にする情景を見出したとき、慣れた人はさっと五七五七七が浮かんでくるでしょう。
しかし、初心者はそんなにうまくいきません。
〈ステップ1〉
そこで、まずは情景の中から歌の根幹となるワードをいくつか引き出していきます。
たとえば、左記のような線路の情景を見たとして、あなたならどんな言葉を引き出しますか。
写真には線路が写っています。
続く線路の先にあるのは未来でしょうか。遠くには(写真では見えにくいかもしれませんが)雨雲のような怪しい雲があります。 ここでは「線路」「未来」「雨雲」を引き出したとしましょう。
〈ステップ2〉
次に、「線路」「未来」「雨雲」の間に言葉を足し、意味が通るようにします。たとえば……。
「線路が未来へと続いているなあ。その先には雨雲があるんだろうな、今は気づかないけど」
〈ステップ3〉
これを五七五七七にします。
「未来へと続く線路のその先に雨雲ありて今は見えざる」
とりあえずできました。
引き算法:情景を文章化し、それを短くしていく
引き算法は表現の方法を間違えないための方法です。慣れた人なら頭の中で無意識にやることを、段階を踏んでやります。
まず、左記のような情景を見たとしましょう。
〈ステップ1〉
まずは、ここにある情景を短い文章にしてみましょう。
「東京大学前に『こゝろ』という喫茶店があった。日曜日だからか、閉店してしまったのか、シャッターが閉じられていた。『こゝろ』と言えば夏目漱石の小説のタイト
ルだ」
これを短くします。
「東大前に『こゝろ』という漱石の小説と同じタイトルの喫茶室があったが、閉まっていた」
〈ステップ2〉
次に、ここで何を言いたいかをはっきりさせます。
たとえば、「『こゝろ』の主人公みたいに心を閉じているなあ」と思ったとしましょうか。
〈ステップ3〉
ステップ1を五七五七七にしつつ、ステップ2を入れ込みます。「『こゝろ』なる東大前の喫茶室シャッター閉ざし小説を模す」
はい、一応できました。
3:様々な技巧を味わおう
倒置法
一度にわれを咲かせるようにくちづけるベンチに厚き本を落として
梅内美華子
語順を変えることでリズムにメリハリがつき、本を落とすシーンがドラマチックに演出されます。
リフレイン
はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり
俵万智
31音しかない短歌では言葉の重複は避けたいが、くり返すことで強調され、強くインプットされます。
直喩
ものを書く時には髪は邪魔なりし侍のごと結びて字を書く
前田康子
作例では、髪を結ぶといってもいろいろあるところを「侍のごと」とたとえており、情景が浮かびます。
隠喩
君が火を打てばいちめん火の海となるのであらう枯野だ俺は
真中朋久
隠喩は「のよう」と言わない比喩。作例は四句までは実景と見せて、最後に比喩とわかる謎解きのような作品。
擬人法
薄暗い部屋で私を出迎える洗濯ばさみのAの倒立
松村正直
現実には物は人を出迎えたりはしませんが、そう見なすことで無機質な物の印象が変わります。比喩の一種。
オノマトペ
土鳩はどどつぽどどつぽ茨咲く野はねむたくてどどつぽどどつぽ
河野裕子
オノマトペ(擬音語・擬態語)は短い言葉で情感を伝えます。慣用表現は極力避け、自分らしい表現を。
固有名詞
印鑑は文明堂の箱の中 母の慣ならいを受け継ぎ暮らす
藤島秀憲
日常の何気ない出来事の中を繊細にとらえた歌。「文明堂の箱」と言われれば誰もが具体的な絵を浮かべられる。
会話
「お客さん」「いえ、渡辺です」「渡辺さん、お箸とスプーンおつけしますか」
斉藤斎藤
カッコを使って、会話を入れています。作例はかなり極端な例ですが、見事に韻律に乗っています。
フィクション
おとうとの義肢作らむと伐りて来しどの桜木も桜のにほひ
寺山修司
寺山修司は作品の中でいない弟を登場させ、生きている母親を故人にしています。フィクションもあり!
※本記事は「公募ガイド2017年5月号」の記事を再掲載したものです。