2019年5月号特集SPECIAL INTERVIEW 山崎ナオコーラさん
山崎先生インタビュー
――『趣味で腹いっぱい』はユニークなタイトルですね。
山崎先生
タイトルでフックを作りたいといつも考えています。表紙に載るのは題名と筆名だけなので、「なんだろう?」と手をのばしてもらえるフレーズにしたいです。
――お仕事小説というジャンルがありますが、趣味小説とは珍しいですね。
山崎先生
高齢化社会が進み、「働くことがメインの生活ではない」という人が増えています。
また、若い方には主婦や主夫を志望する人もいますし、「仕事以外の暮らしを大事にしたい」という価値観をよく聞くようになりました。 私自身は金が好きで、人に頼らずに自立したい、という気持ちで若い頃は生きていましたが、時代と共に考えが変わってきました。 今はお仕事小説が多いですが、これからの時代は趣味小説が増えていくと思います。
――作中に「鞠子はどうやら人生をかけて趣味を行うことを考え始めている」という文章がありましたが、仕事も趣味もアイデンティティという意味では本質は変わらないのかもしれませんね。
山崎先生
以前の私は仕事として小説を書いていることに誇りをもっていたのですが、子どもが保育園に落選したとき、気持ちが暗くなってしまいました。 いい仕事をしている友人の作家は保育園に入れていたので、「評価される作品を書ける人は仕事をするべきだけど、そうじゃない自分は落選しても仕方ない」と考えてしまい、 「いやいや、一所懸命にやっているんだから仕事をしていい」と考え直し、「あれ? 評価や収入を気にしないなら、仕事と趣味って、実は違いがないんじゃないか」と気がついたんですね。 そもそも、趣味って、必死にやるものなんです。 私の叔母はライフワークとして趣味の小説を書いています。母は、父が亡くなってから懸命に様々な趣味の活動を始めました。 余裕があるからやるというものではない。明日を生きるためにやるものなんですね。
――今後はどんな仕事をしていきたいですか。
山崎先生
個人の仕事だけではなく、全体としての仕事への欲が出てきました。日本文学史が続いていく一助となる仕事ができたらいいなと思っています。 同年代の作家の友達がいっぱいできて、一人で仕事をしているんじゃないな、と感じるようになりました。 自分の名が残らなくても、自分の本が売れなくても、文学が盛り上がったり、書店シーンが盛り上がったりすれば、十分に自分の役割を果たしたと言えると思うんです。 そうすれば、作家として堂々と死ねると思います。
インタビューを終えて(編集後記)
『人のセックスを笑うな』の山崎ナオコーラさん登場!
山崎ナオコーラさん本人は覚えていないと思うが、5年ほど前、とある文学賞の授賞式でお見掛けし、ご挨拶させてもらったことがありました。
山崎ナオコーラさんは、15年前に『人のセックスを笑うな』でデビュー。
山崎ナオコーラ? どういう人?
『人のセックスを笑うな』? どんな作品?
ものすごいインパクトでした。
でも、なぜナオコーラ? なぜ『人のセックスを笑うな』?
今回の取材で、その謎が解けました。
「本名だと地味すぎて本を手に取ってもらえないと思ったので、タイトルと著者名でフックをつくろうと思ったんです」
確かに。
山崎なお子著、『女流画家と年下の彼』だったら記憶に残りにくいかも。
そうだとしても受賞したとは思いますが、それにしてもこのインパクトよ。
これからは仕事より趣味が重要視される時代
ナオコーラというのは、「コーラが好きだから」と思われているようですが、これについては、「そう言うしかないから、そう言っている」とのことです。
それより、「どんな人だろう」と思われる語感を重視したようですね。
実際は、私もお会いするまでは「ハーフなのかな?」などと思っていました。
ちなみに、初投稿のときは、
「山崎ロック」名義で応募したそうです。
「山崎」と言えば、「サントリー山崎」。
そして、ウィスキーと言えば「ロック」(笑)。
閑話休題。
山崎ナオコーラさんは、今、『趣味で腹いっぱい』を発売中です。
山崎さんらしいリーダブルな文章で、「趣味って人生をかけてやるもんなんだな」と思わせてくれます。
収入という意味では仕事のほうが重要のような気がしますが、自分が自分でいられる(アイデンティティの保持)という意味では、これからの世の中は、むしろ、仕事より趣味のほうが重視されそうですね。
皆さんも、まさに本気で“公募”と向き合っていますよね。
それは必ずしも賞金だけのためではなく、自己実現だったりしますよね。
それと同じです。
山崎ナオコーラ(小説家)
1978年福岡県生まれ。2004年『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞しデビュー。後に映画化。2017年『美しい距離』で島清恋愛文学賞受賞。ほか『浮世でランチ』『文豪お墓まいり記』など著書多数。