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2020年3月号特集SPECIAL INTERVIEW 白石一文さん

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公募ガイド3月号の特集「ヒルモとヨルモのオモテとウラがわかる 小説・エッセイ相談室」では、直木賞作家の白石一文さんにご登場いただきました。
誌面に入りきらなかったインタビューをご紹介します。

白石先生インタビュー

――プロットはお作りになられますか。

白石先生:僕は作らないですね。まさにぶっつけ本番です。双子の弟も作家をやっていて(白石文郎)、彼はもう何年も作品を発表していませんが、彼の小説作りは僕とはまるで違う。プロットを完璧に仕上げて、そこには各場面ごとのセリフまで書き込んであります。

彼に言わせると、小説は建築と同じだと。建築だから、実際に小説を書くときはプロットという設計図通りに作り上げなくてはならないというのです。そして、そうやって現実に設計図に従って書いていくと、途中で、あれ、この施設はいらないんじゃないの? と気づいたりするという。彼の場合は、そこではたと立ち止まって、あらためて図面を引き直す。そういう緻密な作業が重なるものだからどうしても作品の完成が遅れてしまうわけです。

僕のようにプロット無しで書くのも大変と言えば大変ですが、彼のように完璧なプロットを仕上げてからでないと先に進めないという書き方も大変だと思いますね。

――純文学とエンターテインメント小説の境目は?

白石先生:多くの小説は、概念として区別できなくても、小説としては区別できると思います。100冊の小説を純文学とエンターテインメント小説に半々に分けろと言われたら、分けられると思います。N極とS極があるように、磁石を近づけてみればわかる。そういう意味では境目はあるんだと思いますね。

――白石さんの小説は、純文学であり、エンターテインメント小説でもありますね。

白石先生:「小説新潮」も「小説現代」も「オール讀物」も、今はエンタメ誌に衣替えしているけれど、昔は中間小説、つまり、純文学でもないし、エンタメ小説でもないという小説誌だったんです。で、ぼくは長年、その中間小説を書いてきた作家なんです。

――中間小説という言い方は今はないですが、新鮮ですね。

白石先生:中間小説というものは、非常にざっくり言えば、純文学寄りのエンタメ小説ということになるでしょうね。最近はそうした小説が少ないように思うので、何か新人賞を狙うのであればチャレンジしてみるといいと思います。そのためにはまず純文学をたくさん読んだほうがいい。戦後の芥川賞受賞作だけでもいいから、『芥川賞全集』を手に入れて一気に読んでみることです。続けて読むと小説の流れというものもわかるし、すごく勉強になると思います。そもそも文章を磨きたいのならば、直木賞作品ではなくまずは芥川賞作品を読むことですね。

インタビューを終えて(編集後記)

父が教えた、ものを書く秘訣とは?

3月号の巻頭では、直木賞作家の白石一文さんにインタビューしました。
白石さんのお父さまは、直木賞作家の白石一郎さんですね。親子で直木賞作家、ほかには例がないそうです。

直木賞は現在、162回まで実施されており、該当者なしが30回ほどありますので、約130名の直木賞作家がいることになりますが、親子が1例しかないということは、文才は遺伝しないということかもしれません。しかし、生まれ育った環境は大きいと思います。

幼い頃から読書指導を受け、中学を終えるまで選書は父の特権だった。活字の本だけでなくマンガ本や雑誌も彼が与えてくれるものを読み、そして、しばらくすると必ずそれぞれの感想を求められた。

(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

なんだか小説版『巨人の星』って感じですが、たとえが古かったですかね。
閑話休題。白石一郎さんは、まだ小学校低学年だった一文さんにものを書く秘訣を教えます。
さて、ここでクイズです。
お父さまの白石一郎さんは、文章をうまく書けるようになるには、何をすればいいと教えたしょうか。

  1. 常日頃から正確な言葉をじっくり喋るように努力すればいい。
  2. 常日頃から頭の中にある映像を正確に再生するように努力すればいい。
  3. 常日頃から的確な比喩を考えるように努力すればいい。

書きたい人に必要な資質とは?

父親が小説家という環境で育った白石一文さんですが、小説を書き始めたのは意外と遅く、大学生の頃だったそうです。そのきっかけが面白い。

それまで小説に類するものは一度も書いたことはなかった。急にその気になったのは、正月休みに実家に戻ったとき、父の最近作をいつものように批評していたら、そんなことはそれまで一度もなかったのだが、激しい口論に発展してしまったためだった。
お互い感情的になり(父も私もふだんは滅多に怒らないタイプの人間だ)、私がかねて感じていた父の小説の欠点をあげつらっていると、父が不意に、
「そこまで言うなら、お前が書いてみろ!」
と怒鳴ったのである。

(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

それで白石一文さんは小説を書き始めます。
その後、文藝春秋に就職し、編集部を始め、さまざまな部署をまわります。
そんな中で小説を書いてデビューし、今年作家生活20年を迎えるわけですが、今回の公募ガイドのインタビューの中で、書きたい人は必要な資質として、あるものを鍛えたほうがいいとアドバイスしています。
さて、それはなんでしょうか。

 

  1. 記憶力
  2. 演技力
  3. 国語力

 

どれも必要な気がしますが、上記のうちの「これ」がないと、小説を構成したり伏線を張ったりとかがしにくいということです。
と言えばもうおわかりですよね。

作家修業になった芥川賞・直木賞の事務方

白石一文さんは、文藝春秋にいた頃、芥川賞・直木賞に関わる部署にいたことがあります。
ある日、小説誌の編集部にいる先輩が、
「これ、僕の知り合いが送ってきたんだけど、読んでみるとなかなかのものなんだよね。社内選考委員会に回すかどうか検討して貰えないかな」
と言って、分厚い二巻本を差し出してきます。

『君がいないと小説は書けない』の中ではN賞となっていますが、選考の過程は以下のように説明されています。
以下、N賞の部分だけ抜粋して紹介します。

N賞の候補作は、大衆文芸部門の編集者二十数名が委員となった社内選考委員会で選ばれ、その後、現役作家十名で構成されるN賞選考会にかけられて受賞作が決定されることになっているが、N賞の場合は対象となる作品数が余りにも膨大であるために事務方であらかじめ選別した作品のみを社内選考委員会に回すことになっていた。

(『君がいないと小説は書けない』から抜粋)

白石一文さんは、この事務方をしていました。膨大な数の小説を読み、「これは○、これは△、これは×」とジャッジしていくのは、作家修業としてはまたとない機会かもしれませんが、いくら小説が好きでも苦行でしょう。
そうでなくても時間がありませんので、大手出版社刊でない二巻本を渡されても困りますね。

まったく無名の作家が小さな地方出版社から出した二巻本の大長編を持ち込まれるのはありがたい反面、いささか迷惑でもあった。

(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

しかし、この大長編が候補作になり、翌年、次回作で直木賞を受賞するんですね。
『君がいないと小説は書けない』の中では、この地方出版社は静岡にあるガルス出版、著者はX氏となっています。
歴代の直木賞一覧を見れば、文藝春秋、新潮社、講談社、集英社など大手出版社が並ぶ中、聞いたことがない出版社が一つだけあります。
海越出版社 宮城谷昌光『夏姫春秋』、これでしょうね。

 

さて、白石一文さんは芥川賞・直木賞に関わっていたとき、受賞者に電話連絡をする係をしていました。
その際、受賞者には白石さんが連絡し、落選した人には担当編集者から連絡が行くことになっていたため、ある言葉が出てきたら受賞とわかるのだそうです。
では、その言葉とはなんでしょうか。

 

  1.  「日本文学振興会です」と言うので、「日本」という言葉が出てきたら受賞とわかる。
  2.  「文藝春秋です」と言うので、「文藝」という言葉が出てきたら受賞とわかる。
  3.  「選考委員会です」と言うので、「選考」という言葉が出てきたら受賞とわかる。

 

皆さんが候補者だったらどうでしょうか。やきもきするか、それとも平静を装うか。
バラエティー番組だったら、
「文藝春秋の、日本文学振興会の、選考委員会です」
とか言って焦らしそうですね。

 

白石一文(直木賞作家)(小説家) しらいし・かずふみ

1958年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中から小説を書き始め、文藝春秋勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。父親は直木賞作家の白石一郎。