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学生に向けた菊池寛と芥川龍之介の助言


夏休み真っ盛りということで、若い人に向けた文豪の名言を紹介しよう。
まずは、文藝春秋を創業し、芥川賞・直木賞を創設した文豪、菊地寛から。

 僕は先ず、「二十五歳未満の者、小説を書くべからず」という規則をこしらえたい。全く、十七、十八乃至ないし二十歳で、小説を書いたって、しようがないと思う。
 とにかく、小説を書くには、文章だとか、技巧だとか、そんなものよりも、ある程度に、生活を知るということと、ある程度に、人生に対する考え、いわゆる人生観というべきものを、きちんと持つということが必要である。
 とにかく、どんなものでも、自分自身、独特の哲学といったものを持つことが必要だと思う。それが出来るまでは、小説を書いたって、ただの遊戯に過ぎないと思う。
(菊池寛「小説家たらんとする青年に与う」)


これは本気でプロを目指す人の話。趣味派なら、〈もっとも、遊戯として、文芸に親しむ人や、或は又、趣味として、これを愛する人達は、よし十七八で小説を書こうが、二十歳で創作をしようが、それはその人の勝手である。〉そうだ。
しかし、文芸家たらんとするなら、〈つぶさに人生の辛酸をなめることが大切である。〉と記している。

戦国武将の山中鹿之介は「願わくは我に艱難辛苦を与えたまえ」と言った。若いときの苦労は買ってでもしろとも言う。
でも、一つだけ補足しよう。
これは「作家になるには苦労する必要がある」と言っているのであり、「苦労すれば作家になれる」と言っているわけではない。
これ、数学で習った必要条件でしたかね?

数学つながりで言うと、芥川龍之介はこう書いている。
なお、文中の中学生は旧制中学(現在の高校生)のことだろう。

 文芸家たらんとする中学生は、すべからく数学を学ぶ事勤勉なるべし。然らずんばその頭脳常に理路を辿る事にして、到底一人前の文芸家にならざるものと覚悟せよ。
 文芸家たらんとする中学生は、須らく体操を学ぶ事勤勉なるべし。然らずんばその体格常に薄弱にして、到底生涯の大業を成就せざるものと覚悟せよ。
 文芸家たらんとする中学生は、須らく国語作文等を学ぶに冷淡なるべし。これらの課目に冷淡にして、しかもこれらの課目に通暁し得る人物にあらずんば、到底半人前の文芸家にさへならざるものと覚悟せよ。
(芥川龍之介「文芸家たらんとする諸君に与ふ」)


よく「数学は実社会では使わないから勉強しても意味がない」と言う人がいるが(論理的思考という意味では必要だと思うが、それは置いておくとして)、文章を組み立てるためには数学は絶対的に必須だ。もしも数学を学んでいなければ「理路を辿る事迂」、つまり、論旨があっちに行ったりこっちに行ったりして目的に辿りつかず、「話に筋道が通ってないよ」と言わるだろう。

数学とともに必要なのが体育だそうだ。これは体力と言い換えてもいい。
ただ、いわゆる体力ではなく、書く体力だろう。肉体的には弱く持久力のない人でも、十時間ぶっ通しで書くことができる人は「書く体力」はある。

で、国語はというと、学ぶことには冷淡でいいと言う。それでもなぜか国語の成績はよく、作文もうまい人でないと半人前の小説家にすらなれないと。それぐらいの本好き、読書家であれということだろう。

芥川はそう言っているが、これは自身の反省の弁でもあり、〈亦然またしかく中学時代を有效ゆうこうに経過せざりしを悲しみつつあるものなり。〉とも記している。芥川自身は数学が苦手で、体操も嫌いだったのだ。

文芸トレンド

第171回芥川賞・直木賞発表


今週の7/17(水)、第171回芥川賞・直木賞の発表があった。
芥川賞は、朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」と松永K三蔵「バリ山行」に、直木賞は一穂ミチ「ツミデミック」に決まった。

朝比奈秋さんは、2021年、「塩の道」で第7回林芙美子文学賞を受賞。2023年、『植物少女』で第36回三島由紀夫賞を受賞。同年、『あなたの燃える左手で』で第51回泉鏡花文学賞、第45回野間文芸新人賞を受賞。
編集部独り言 地方文芸がキャリアのスタートというのはプロには珍しい経歴。応募者からすると、そういうルートもあるのかと勇気づけられる。同様の例には坊っちゃん文学賞を受賞してデビューした瀬尾まいこがいる。

松永K三蔵さんは、関西学院大学文学部卒、2021年、「カメオ」で群像新人文学賞優秀作を受賞。
編集部独り言 群像新人文学賞の優秀作受賞者。優秀作は野球で言うと育成枠みたいな感じ。粗はあるが、一点突き抜けたものがある。そのままいなくなってしまう人も多いが、大化けする人もいる。同賞の優秀作から大化けした作家には島本理生と村田沙耶香がいる。

一穂ミチさんは、関西大学社会学部卒。BL小説『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』はアニメ映画化。2021年『スモールワールズ』で一般小説に転身し、同作で第43回吉川英治文学新人賞を受賞。
編集部独り言 BL小説の同人誌からBL小説のプロになり、さらに一般文芸に転身。濡れ場を書くのは小説のトレーニングに最適と言うが、そういうことなのかなあ。同様の経歴を持つ作家には凪良ゆうがいる。今後はBLもプロの登竜門になるかもしれない。



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2024.7.26更新 発表:第15回創元SF短編賞、第7回田畑実戯曲賞、ほか
2024.7.12更新 発表:第45回小説推理新人賞、第9回カクヨムWEB小説コンテスト、ほか
2024.6.28更新 発表:メフィスト賞2024年下半期座談会、第14回集英社みらい文庫大賞、ほか
2024.6.14更新 発表:第44回横溝正史賞ミステリ&ホラー大賞、第31回松本清張賞、ほか
2024.5.24更新 発表:第70回江戸川乱歩賞、第1回有吉佐和子文学賞、ほか
2024.5.10更新 発表:第23回女による女のためのR-18文学賞、第40回太宰治賞、ほか
2024.4.26更新 発表:第11回日経・星新一賞、第67回群像新人文学賞、ほか
2024.4.12更新 発表:第18回小説現代長編新人賞、第129回文學界新人賞、ほか
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