あなたとよむ短歌 テーマ詠「新しさ」結果発表 ~短歌初心者と経験者の「公募」~


テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「新しさ」結果発表
~盗作・パクリの可能性~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「新しさ」の結果発表です。
新年にふさわしいテーマかな、と思って設定した自分でいうのもなんですが、今回は難しかったですね。
概念的なものを詠もうとする場合、いかに具体性を含めるかがカギになります。概念を概念のまま言葉にしようとすると、他者同士の作品でも似たものが多くなるからです。人々に同じような認識を持っているからこそ、概念は概念として成立します。今回のテーマなら、「新しさ」を言葉にしよう、と試みない方がラクかもしれません。これは、恋、愛、青春なども同じです。
概念そのものではなく、自分がそれを感じた瞬間や、あるいは「感じなかった」瞬間を短歌にしてみましょう。
後半では投稿者の皆さんから寄せられた質問にお返事しています。作品と合わせて、ぜひ最後までお付きあいください。
それでは、最優秀賞の発表です!

ぜんぶ一回目の痛みだな
竜泉寺さんのこの短歌は、「毎回新しい」もしくは「新しさがない」という状態を詠んだものです。何回目でも痛いものは痛くて、2回目だから大丈夫ということはない。つまり、ぜんぶ1回目の痛みと同じってこと? たしかにそんな気がしてきます。
ケガにしろ注射や頭痛などにしろ、実際には、何度か経験すれば前回までの経験を思い出すものです。ただ、純粋に「痛さ」だけにフォーカスすると、痛いものは痛くて、もうこれ1回目と同じじゃない? ぜんぶ1回目じゃない? と、雑なことを半泣きになりながら言いたくなります。この短歌を読むと「あ、いま痛いんだな」と思います。痛みを感じているときの、妙に冷静になる瞬間が想起されます。
続いて、優秀賞2首です。

元取るために遊んでほしい
何がすばらしいかって、新しく買った服の量を「3キロ」と表しているところです。「着」でも「枚」でも「袋」や「箱」でもなくて「キロ」!
ずっしりと重さを感じるほど買ったのでしょう。俵万智さんの「大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋」という短歌を思い出します。「キロ」という表現を使うことで、袋が食い込む手のひらのほのかな痛み、畳まれた服のさまざまな形など、読む側の感覚がさまざまに刺激されます。
予定があるから服を買うのではなく、服を買ったから予定を入れなくちゃ、と思うのも、人間らしくてとても好きな短歌です。

使い古した明日をください
「新しさ」という概念を、比較的概念のまま詠んだ作品も多く投稿されていたなかで、西宮さんの一首はとても魅力的でした。
「明日」は常に新しい=ここまでは多くの人が「新しさ」というテーマから発想するでしょう。この一首は、そこをもう一歩踏み込んで「新しいものが苦手だから、明日すら使い古されていてほしい」という、未来への怖さ、不安、緊張が描かれています。
「ください」と誰に言っているのでしょうか。神さまでしょうか。実際には「使い古した明日」などないことを、この作品の主体は理解しているような気がします。無理だとわかっているからこそ、まるでマクドナルドでハンバーガーを買うようなカンタンな言葉づかいで呟いてみたくなるのかもしれません。
新しい日、新しい年、新しい環境だと「頑張らないといけない」「失敗は許されない」などと思いがちです。周囲が張り切っているのを感じるだけでもプレッシャーになることがありますよね。マイペースにやっていきたいものです。