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一次選考で落とされる4つのパターン

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

一次選考で落とされる4つのパターン

「公募スクール」の「落選理由を探る」のコーナーに、どうして一次選考で落選にされたのか、理由を解説してほしい、という依頼の応募作が送られてくるのだが、私の目から見れば「一次選考で落とされて当然」の作品だけだった。

つまり、応募者の感覚と選考委員が応募作を読む感覚には極めて大きなズレが存在するわけで、今回は、そのギャップを掘り下げて分析してみることにしたい。

何人かの応募者とメールで質疑応答してみた結果、「選考委員には応募作を丁寧に読んで貰える」という、勘違いの幻想が存在していることが歴然と分かった。

選考委員は基本的に応募作を「落とす」つもりで読み始める、という大前提が存在する。

応募作品数の少ない新人賞でも、九十五パーセントは予選で弾かれるのである。応募作品数の多い新人賞になると九十九・九パーセントが予選落ちし、中には九十九・九五パーセントまで落とされる新人賞さえ存在する。

一次選考の下読み選者は、編集部から渡された応募作を、決められた期日までに当落の選別をし、そういう決定を下した理由を、簡単なレポートを添えて二次選考以降の選考委員にリレーしなければならない。

となれば「全応募作を丁寧に」読み込んでいる時間などはない。

中には「この応募作は、ダメ」と最初の数枚で落とす作品も出てくる。

というか、数的には、冒頭の数枚で落とされる応募作のほうが絶対多数を占めるのだ。

では「最初の数枚」とは具体的には何枚なのか。何人かの親しい下読み選者に当たってみたが、気の短い人だと最初の一枚(原稿用紙換算ではなく、印字されたワープロ原稿で)で、気の長い人でも四枚までに落選にしていた。

こうして、応募作の大半を読まずに落としたことで捻出した時間で、「この応募作は面白そう」と感じた作品を、じっくり時間を掛けて読み込み、二次選考に上げる。

つまり、二次選考を通過しなければ、その先にあるグランプリを射止めることは叶わないわけだから、冒頭の一枚、最悪でも四枚までに下読み選者の心を「この応募作は面白そう」と予感させなければならない。

まず、速攻で落とされる原稿を列挙していくと、次のようになる。

①原稿用紙フォーマットで印字された原稿、原稿用紙に書かれた手書き原稿。

原稿用紙フォーマットに印字したら駄目、と応募規定に明記されている。「この応募者は応募規定を読まずに応募している」で直ちに落選。

手書き原稿は不可の新人賞と、OKの新人賞とがあるが、何人かの下読み選者は「手書き原稿は読みにくいので読まずに落とす」と明言していた。とにかく九割以上の応募作が一次選考で落ちるのだから、読まずに落としても何の問題もない。落選理由は、添付されている梗概を読めば纏められる。

②冒頭の四枚までに主人公の台詞が全然ない作品。

台詞がなければ、主人公の性格が伝わってこない。

性格が分からないようなら、当然、キャラは立っていない。新人賞選考の基準が厳しくなって、「主人公のキャラ立て」の配点が大きくなっている。「キャラが立つ=選者(作家・評論家・幹部編集者)が、その人物を魅力的と判断する」で、その基準で見れば零点だから当然、落ちる。

もちろん主人公以外の人間がいなくて会話が成立しない状況も有り得る。その場合は独り言のモノローグで構わない。モノローグと心理描写(事件現場の推理とか、今後の展開の予測)を組み合わせれば、いくらでも主人公のキャラ立ては可能である。

③バー、スナック、レストラン、家庭のリビング、キッチンなど、飲食シーンでスタートしている物語。

テレビのホームドラマでは定番のスタートで、応募作の相当数がこういう冒頭を持ってきて、躊躇なく落選にされる。

そもそも新人賞は「他の人には思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われる。したがって、似たような設定の物語は、束にして落とされる。冒頭に飲食シーンを置くと、もろに、この「落選の落とし穴」に嵌まる。

④主人公に何一つピンチがない。

危機的状況に主人公が置かれていないと、どうしても主人公が置かれている物語世界の状況説明を延々とやりたくなる。

このタイプの応募作も非常に多くて即座に落選にされる。主人公がピンチであって、なおかつ「既存作に見た記憶がない」場面からスタートしている冒頭が最も望ましい。

ちょっと考えれば、いくらでも「主人公のピンチ」で下読み選者のハートを掴む手は思いつく。それが思いつけないようなら、そもそもプロ作家になる資格はない。

 

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。