【短歌のお悩み回答】短歌の余白を理解する|読み手の想像を引き出す考え方


最後に、投稿者の皆さまから寄せられた質問を見ていきましょう。
短歌における余白の作り方がどうしても難しく、直接的な表現になってしまいます。余白、とは何なのでしょうか。
余白の作り方を教えて下さい。
自分の短歌を読みかえしてみると、他の人の詠んだものに比べて、どこか理屈っぽくて硬いなと思うことがあります。私ももっとぴょんぴょんとはねているような、短文の中に情報の詰まった楽しげな歌を詠みたいとは常々思っているのですが、自分ではどうしても、単語や表現の前後関係に気を使ってしまって、歌を聞く方達に任せた思い切った表現ができません。
今回、3件ほど共通する部分のある質問が寄せられたので、短歌の「余白」について考えたいと思います。
いや、確かに難しいですよね。
私自身は、せっかく短歌という表現をするなら31音で示せる言語的な情報「だけではない」インパクトを残したいなあ、とは思っています。それを個人的には「余白」と呼んでいるかもしれません。
例えば、俵万智さんの代表歌のひとつである「砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね」という短歌。飛行機のおもちゃか紙飛行機か、あるいは比喩的な何かなのかわかりませんが「あなたと私」という二人でそれを「砂浜に埋めた」思い出があり、それを「あなた」に対して「忘れないでね」と言っています。
「忘れないでね」と念を押すということは、反対にいうと忘れてしまう可能性が高い状態だということです。つまり「あなた」との距離ができている、もしくは「あなた」とは二度と会わないのかも。他の思い出は忘れてもいいのでしょうか? なぜこの思い出を忘れてほしくないのでしょうか?
二人の秘密めいた、けれども子供だましのような思い出を「忘れないでね」と念押しすることで、ここには書かれていない二人の関係性や「あなた」に対する執着、そして離別の予感を汲み取ることができます。もし「あなたとは5年の付き合いだけれど」「もうお別れしたから」「二度と会わないから」などという情報を歌中で提示していたら、ここまで想像が膨らまないでしょう。
人間は基本的には、自分自身の経験や見聞きした事を元に、そこから枝葉を伸ばすように想像を膨らませます。体験していないことや見たり聞いたり一切したことがない事柄だと、想像の芽を伸ばすことができません。31音の明確な情報よりも、あえて情報を限ることで、もし読者が自分の能力を発揮し豊かにイメージしてくれるなら、その方がよほど面白い体験となるでしょう。短歌を語る上での「余白」は一様ではありませんが、このケースも余白の一種だと言えそうです。
また、一般的な文章としては意味が明確でない短歌も、人の心を捉えるケースが多くあります。
歌集『行け広野へと』『遠くの敵や硝子を』などで知られる歌人・服部真里子さんの「水仙と盗聴、わたしが傾くとわたしを巡るわずかなる水」という短歌は(字数の都合で詳細を省いて申し訳ないのですが、興味のある方は検索してみてください)「わからない短歌」か否か、と一時期話題になりました。
私はこの一首が大好きです。「水仙」という花や「盗聴」という悪行(たとえばドアにコップを当てて物音を聞くなど)は、多くの人が知っていてイメージできるものです。そこから「わたしが傾く」「わたしを巡る(水)」と自分の身体性に飛躍することで、美しく弱い花・悪行・人間の身体が急に混然となります。そして、それらのものはすべて不可逆である(取り返しはつかない)ことを静かに示している印象を持ちました。
日々生きていくなかで「言葉で正確に説明しきれること」はどれほどあるでしょうか? 一般的な文章(散文)は情報伝達としての正確性が求められがちです。しかし短歌は31音と限られているからこそ、書ききらないことが許されているのです。「だから適当にすればオッケー」というわけではありません。「書ききらないこと」でいかに読者の経験や内面を引き摺りだすか。余白があるからこそ、読者は自分に引き寄せることができます。書かないことが書くことを越えられるかどうか試したいと、少々大袈裟ですが私は常に思っています。
短歌以外にもこのような表現はたくさんあります。例えば、演劇は基本劇にステージという固定された空間を使い、観客の想像力を引き出しています。絵画も抽象画や水墨画など、線や色などの情報をあえて絞っている表現があるはずです。漫画もそうですね。コマとコマの間を、読者は自然と補って読んでいます。
じゃあどのように余白を作るべきか、というのは、ちょっと今回は書ききれない話になりそうですね。短歌の「余白」について考えるヒントや材料になったらうれしいです。
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