ヤマモトショウ「プロの作曲は、求められている方に向かって決まっていく」 【第9回 創作はいつまで続くのか】


私は2024年にミステリー小説『そしてレコードはまわる』を出版することになり、小説家としてデビューしたのだが、少なくともその前後で小説家としてはプロであるという自覚はなかった。
それはあくまで趣味として空いている時間に書いたものが、たまたま運良く出版社から出るということになった。私が自分自身においてその「小説を書く」ということがアマチュア的であると思った点をいくつか振り返っておきたい。
まず、一つには題材を自分で選んだということだ。おそらく私が小説を書くということそのものには周りの人はそれほど驚かなかったのだが(なぜか作詞家はある時から小説を書いたりすることが多い)、それがミステリー小説であることは意外だったと思う(なぜか作詞家は純文学的な作品を好む)。
なぜそれを選んだのかという理由はかなり色々あるのだが、端的に言えば自分がそうしたかったからだ。おそらく商業的にはもっと別の選択肢があるのだろう。
そして、これはもちろんポジティブな意味での選択である。実際、ミステリーに関しては、他のどんな分野よりもある意味でオタク的に好きなジャンルではあるので、自分としてはとにかく好きなものを選んだということだ。
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ミステリーにはお約束があり、同じトリックは使えないというような制約もあるので、ある意味では私のようにミステリーとしての古典を一定数読んでいるかどうかという点が、そのような約束事をクリアする条件としてある程度機能しているようにも思う。クリスティやクイーンの名作を読まないで、偶然同じトリックを思いついてしまうということは考えられないわけではないが、プロとしてもアマとしてもそれを自身のオリジナルとすることは基本的には許されないのである。
さて選択という意味で振り返ってみると、音楽だったら、「どんな曲をつくるか」ということを自分で決めているということになる。
「え、作曲家って自分で決めてないの?」と思うかもしれないが、プロとしての仕事のイメージとしては「自分で決めているのではなく、求められている方に向かって決まっていく」といったイメージが強い。
それはクライアントからの依頼が具体的に曲調などを定める場合もそうだし、そうでなくても打ち合わせなどの中で「こういった方向性が求められているな」ということがわかってくるわけだ。あるいは別の言い方をするならば、そういった方向性が見えないことにはそもそも曲を作り始めることは難しい。
プロの作曲家であれば、おそらく作ろうと思えばどのようなタイプの曲でもとりあえず作ることできるだろうが、だからこそそのための指針がなければそれをスタートすることも難しい。今ではAIによる作曲(編曲)も一般化しており、なおさらその傾向は強まっている(AIはなんでもできるが、「こういうものを作りたい」という人間の意志が先行していない限りは少なくとも何かが生まれることはないため)。
例えば最近FRUITS ZIPPERに書いた「君と目があったとき」という楽曲はメガネ商品とのタイアップによって生まれた楽曲だ。
これもその広告の話がなければそもそも書き始める理由が生まれなかったともいえる。だからといって、自分の書きたいものを書けていないというわけではない。要はプロとして作る場合、「そもそもつくるかどうかと言う点において、自分一人の創作意欲だけが出発点になるわけではない」ということだ。
二つ目に、時間の問題である。私は自分自身を音楽家としてプロである思っている点の一つとして「いつまでにどのようなものを作れるか自分でコントロールできる」というものがある。
曲を頼まれた場合、それが何日後に完成するかということが自分で想像できるし、その通りにいかないということはあまりない(というよりも、それよりも遅れるということはないという意味で、つまり締め切りに間に合わせることができるということである)。
小説に関しても、実際には締め切りに遅れるということはなかった。しかしいつ頃出来上がるのかということの予測に関してはまったくたっていなかったといえる。だから、とりあえずなるべく早く取り組むことで締め切りとされているタイミングより前に原稿を上げるということにするしかない。
この感覚は、今仕事で音楽をつくっているときにはまったくといっていいほど感じなくなっていたものだったので、まさにこれが自分にとってのアマチュア的な部分に感じられた。振り返ってみると、作曲家としての仕事を始めたばかりの頃は楽曲制作についても同じような状態だったようにも思う。
前回も話した通りに歌詞や曲の部分は自分のバンドの曲であればすぐにできることもあるのだが、それも常にコントロールできているわけではなく「調子が良ければすぐにできるし、そうではないときもある」というような感じだったし、アレンジの部分ではうまく演奏できなかったり、そもそもどんな音をいれていいのかがわからなかったりということで、完成までのイメージが自分の頭の中できちんと描けていなかったということだろうと思う。
そして時間といえばもう一つ、私は基本的に仕事をするときには「先延ばしにする」ということはなく、その場ですべて終わらせていきたいというタイプなのだが、本を書くことに関してはその限りではないということもわかった。
小説でいえば、最初に書くこと自体はいくらでも書けるのだが、それを「直す」ということに関しては少なからず「今やりたくないかも」というような気持ちが生まれるのだ、ということを発見した。
自分にもそういった先延ばし癖的なものが存在するのだ、ということに驚いたと同時にまだまだ自分にも変化の余地があるということを感じて、それがまさに自分のアマチュア的な部分なのではないかと思われたのだった。
| 次回の更新は6月3日(水)を予定。お楽しみに! |
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