絵と言葉から広がる世界。「NOBUKO基金ART 第2回『絵と言葉のチカラ展』」
「絵と言葉のチカラ展」実行委員会では、絵画とエッセイや詩、物語など400字以内の言葉を募集中です。グランプリには賞金50万円が贈られます。同受賞作は「芸術新潮」に掲載、松坂屋上野店にて個展が開催されます。締切は2022年12月18日。絵と言葉の融合が生み出す力を感じてみませんか?
心に響く作品の力
「絵を見ていたら、心が潤って元気になった」。そんな経験をしたことがある人もいるはず。絵に、ぴたりと寄り添う言葉が出合ったとき、作品はさらに心に響くものとなります。
作り手や鑑賞する人の心を豊かにする作品を、1点でも多く世に送り出したいとの願いが込められた本展は、「NOBUKO基金」の補助事業として創設。「NOBUKO基金」とは、41歳の若さで亡くなった実業家、河合伸子氏の遺志を受け、困難を抱える子どもや家庭に育つ子どもを支援したいと設立されたものです。本展のキャッチコピーは、「あなたも、つなげてみませんか?」です(募集作品のテーマではありません)。絵と言葉、心と心がつながって、温かな輪が広がるとよいですね。
絵とセットになる言葉は、400字以内であれば何字でも可。エッセイ、詩、俳句、短歌、物語などジャンル不問です。絵と言葉、それぞれ別の作者でもOKです。
絵や写真に、短歌や俳句、詩など決められたスタイルの作品を組み合わせる公募は、しばしば目にします。しかし、ここまで指定の字数やジャンルの幅広いものは、なかなかありません。より自由に、自分らしい世界観を創造できそうです。
前回受賞作を紹介
前回は、初開催にもかかわらず583点もの作品が寄せられました。その中から、入賞作品を紹介します。
まず、グランプリ受賞作。この2作品は、いずれも同じ作者によるものです。
路地で口笛を吹くと、のら犬が集まってくる。屋台で買ったおでんをあげるんだ。そして犬たちの頭をなでたり、ときどき、鼻をなめたりする(犬の鼻はしょっぱい)。そしたら、犬からジフテリアがうつっちゃった。それでぼくはかく離病棟に入院したんだ。お医者さんはもう犬の鼻をなめてはいけない、という(がっかりだ)。それはそうと、今朝、病院の廊下がざわざわしてて、ラジオの音が聞こえてきた。
「臨時ニュースヲ申シ上ゲマス 大本営陸海軍部12月8日午前6時発表...帝国陸海軍ハ本8日未明 西太平洋ニオイテアメリカイギリス軍ト戦闘状態二入レリ......」
「どういう意味?」と看護婦さんに聞くと、
「戦争が始まったのよ」と、教えてくれた。
「せんそうか...」
でもさ、とにかくぼくは犬たちに会いたい。はやくよくなって、はやく会いにいきたいんだ。
《昭和16年12月「のら犬と臨時ニュース」》
戦争はおわったけど、食糧は不足したままだ。三ヶ日の駐屯地にいるおじさんが「米があるぞ」というので、行って、リュックいっぱいもらってきた。これだけあれば、お母さん、喜ぶな。 帰りは、駅で始発を待つことにした。知らない人が「おい、こっちに来てたき火にあたれよ」と、火のそばに座らせてくれた。ぱちぱち燃える火があったかくて眠くなる......。「さむ...」、目が覚めたら、たき火は消えていて、広場に一人で寝ていた。立ち上がって、気づいた。リュックがない!がっくりして家に帰るとお母さんが「おかえり。おや、米は?」と聞いた。「ない。とられたんだ...」と答えたあと、くちびるをぎゅっとかんだけど、お母さんの顔がにじんで見えなくなった。お母さんは、「なんてことだろう...でも、おまえが無事だったからよかったよ」といってくれた。でも、お母さん、ぼくはすごくくやしいよ。
《昭和20年12月「たき火とリュックサック」》
受賞者のエッセイはこちら。
次に、NOBUKO賞受賞作です。
子供の頃の話
森を歩けば小鳥が顔を見せに来た
カミキリ虫をてのひらに乗せても噛まれたりしないし
蝶やトンボは帽子にとまろうと追いかけてきたものだった
まるでおとぎ話みたいだけれど
すべて本当のこと
ブローチみたいにトカゲを肩に乗せて
原っぱを歩き
いつまでも一緒に遊んだ
まるで動物と会話できるソロモン王の指輪を使っているみたい
そういう時は人間の子は混ぜない
それは私と小さい仲間たちとの暗黙のルール
やがて魔法のような日々は終わり
不思議な思い出を胸に秘めたまま
私たちは大人になる
大きくなった私は
誰もいない風景の中で
昔のように耳を澄ませる
あの時と変わらず風がざわめき木の葉が裏返るけれど
もう彼らの語りかけを聞き取ることができない
私の指輪は役割を終え
別の少女に引き継がれたのだろうか
懐かしい友に感謝をつたえ
私は静かにその場を後にする
《ソロモンの子供たち》
そのほかの受賞・入選作品は、こちらから。ぜひ、絵と言葉を交互に、繰り返し鑑賞してみてください。
主催者は、絵と言葉の底知れぬ力を感じたと言います。今回も、ますます心の奥深くにまで届く芸術作品を期待しているそうです。
本川かや
公募情報ライター。特に注目しているのは、文芸とアート系。作品や取材先の方の言葉に胸を震わせながら執筆している。藤井風さん、落語家の柳家緑太さんが好き。
出典:https://www.nobuko-art.com/
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