「小説の取扱説明書」~その58 本当の推敲 場面の推敲
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第58回のテーマは、「本当の推敲 場面の推敲」です。
場面のありようを考える
前回は推敲を家の建築にたとえました。
柱を組んでから家の構造を変えるという事態になったら大変ですので、段取りを考えましょうという話でした。
家の骨組みもできないうちに、一生懸命壁を磨いたりしても意味がありません。そもそもその壁はなくすかもしれないのですから。
さて、第一工程が全体を見る工程なら、第二工程はもう少し細かいところを再考していく工程です。
具体的には、場面自体を俯瞰し、「シーンやカットの順番はこれでいいか」「これで面白いか、飽きられないか」といった観点で見直していきます。
テーマについてチェックする
第一工程でのチェック項目は、三つあります。
一つ目は、テーマです。
作品を読み返してみて自問してみましょう。
「今作のテーマって、なんだったっけ」
すると、「テーマがわかりにくい」、「読後にテーマが立ち上がってこない」、「欲張りすぎてテーマが二つある気がする。どっちかをメインにしないと」のように反省点が浮かんでくると思います。
読者が退屈しない工夫をする
たとえば、こんな場面があったとしましょう。
朝、目覚める。主人公は倦怠感を覚えながらコーヒーだけの朝食を済ませ、いつものように駅に向かい、いつものように出勤する。
今日も人生という壮大な暇つぶしをするかと会社のドアを開ける。
「え?」
一瞬、フロアーを間違えたのかと思った。そこにはデスクも什器もなかった。会社が消滅したのだ。
と、あらすじのように書いてみましたが、これが実際の作品の場合、朝起きて出勤するまでの箇所はちょっと退屈かもしれません。
あとで必要になるというのなら別ですが、読者からすると、「ごく普通の日常が書かれていて、退屈だなあ。これが延々と続くのかな。だったらだるいなあ」と思ってしまうところです。
そこで、まず事件を起こしてしまう。
「え?」
一瞬、フロアーを間違えたのかと思った。そこにはデスクも什器もなかった。会社が消滅したのだ。
ここから書き始め、そのあと、必要があれば時間を巻き戻します。
このやり方の場合、面白い場面から始めていますので、読者の関心を惹きやすいというメリットがあります。
また、「会社が消滅した」という状況をあらかじめ知らせてありますから、「この話、結局、どこに向かって進んでいくのか」と読者が戸惑うことがありません。
車で言えば、冒頭部分がウィンカーの役割を果たしているわけです。
ずらしたり、焦らしたり
以下のような場面があったとき、あとにはどんな場面が来るか、考えてみてください。
今日、栄子は彼氏からプロポーズされるらしい。シェアハウスの住人たちはその結果が気になって仕方がない。
そこにくだんの彼女が帰宅する。
どうだった? 美子は声をかけようとして黙った。栄子が青ざめた顔で自室に飛び込んでいったからだ。
さて、あなたならこのあと、どう展開させるでしょうか。
A. 美子が様子を見にいくと、栄子は「別れた」と言う。
B. 栄子が部屋から出てきて、「タッタラ~。どっきりでした。プロポーズ、されました~」と晴れやかに言う。
〈栄子が青ざめた顔で自室に飛び込んで〉のあたりを受けて、そのままストレートに「うまくいかなかった」とつなげたのがA。
一方、そう思わせて、「実は」と切り返したのがBです。
Aはいささか普通すぎますが、まあ、A、Bどちらでもいいです。
一方、「Yes」か「No」かという二元論の思考をずらし、ここでいったん話を切ってしまうという手もあります。
たとえば、栄子が青ざめた顔で自室に飛び込んでいったあと、一行空きで場面転換する。そのあと、シェアハウスの仲間は無言で食事をしている。何やら重苦しい雰囲気。
「で、結局、雨降って地固まるってこと?」
聞かれた栄子は、こらえきれず笑みをこぼす。
「ヘヘ、そうなの」
「もったいぶって。心配したじゃないか」
「でも、ショックだったのよ」
聞けば、彼氏と食事をしていると、偶然元カノが現れ……。
最終的には彼にプロポーズはされたが、その前にひと悶着あったのだという複雑な状況を設定する手もあります。
話が決着する前に場面転換された読者としては、「え?」と思うかもしれませんが、最終的には話は続いています。
場面転換で話をちょっとずらし、読者を焦らしているわけですね。ずらしすぎ、焦らしすぎは考えものですが、こんなふうにすると平板な話でも少しメリハリがつきます。
推敲の第二工程では、このようにして中規模の改修をしていきます。
次回は推敲の第三工程について解説します。
(ヨルモ)
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ヨルモって何者?
公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。