「小説の取扱説明書」~その55 アイデアがない!
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第55回のテーマは、「アイデアがない!」です。
アイデアはあっても加工ができない
アイデアがないという状態には、以下の三つのパターンがあります。
一つは、アイデアが全くない状態。
もう一つは、アイデア自体はあるが、それを小説として形にできない状態。
最後は、アイデアもプランもあるが、それを書く筆力が追いつかないという状態です。
阿刀田高先生は、『アイデアを捜せ』の中でこう書かれています。
私の頭の中に小説工房とも言うべき製作所があって、いくつかの工作機械が揃っている。工房は万能ではない。この手の加工は得意だが、こちらの加工はできない。工房の能力に特徴と限界がある。
(阿刀田高『アイデアを捜せ』)
たとえば、電車の中などでたまたまこんな雑談を耳にしたとしましょう。
「『うちの子はもう十歳なので、おばあちゃんなのよ』なんて言うから、十歳ならまだ小学生だろうよと思ったら、『うちの子』って猫だったのよ」
ペットを飼っている人はよく「うちの子」と言いますが、この話をしていたどこかの乗客はペットのことに、うとかったのかもしれません。そこに誤解が生じたのです。
ペットのことは置いておくとして、創作している人はこんな話を聞くと、「あれ、その勘違い、使えないかな」と思うものです。「うちの子、うちの子」と言っていたが、その子は人間ではなかった。うん、使えるかもと。
ちなみに、こんなふうに何気ない雑談からアイデアを得ることがありますが、これを「アネクドート型」と言います。驚いた話、勘違いした話、はっと気づいた話などはアイデアのたね、聞き流さないようにしましょう。
プロットは作れても筆力が追いつかない
しかし、取っ掛かりのアイデアだけで、それ以上は具体化できないと、なんのアイデアもなかったのと同じということになります。
これは前述した二つ目の状態。つまり、アイデアはあっても、脳内にある小説工房の機械が貧弱で、作品化ができないというケースにあたります。
作品化できないのは、アイデアはあってもストーリーにならないと言うことだと思いますが、そんなときは、「もしも……だったら?」と考えてみましょう。
猫のことを「うちの子」と言った人がいて、それを人間の子だと勘違いした人がいたら?
野良猫がいなくなってもさして困りませんが、人間の子が失踪したら事件です。
〈「うちの子がいなくなったの」顔面蒼白で探しているご婦人がいる。そこに天然ボケの男が協力を申し出て、警察に捜索願いを出し、ネットには「うちの子」の写真が拡散される。近所中が大騒ぎするなか、ネットのツイートを見たご婦人の息子さんが、「なぜぼくを捜索しているんですか」と現れ、その腕には「うちの子」が抱かれている……。〉
大山鳴動して鼠一匹のようなストーリーを思いついたとしましょう。
結末まで見えていれば、あとは早いと思いますが、書き慣れていない人は、うまく場面を書けなかったり、警察に捜索願いを出して大騒ぎになるあたりをリアルに書けなかったりで、「なんか全然下手、もうやめたい」となってしまうのですね。
本当はいくらでも面白くできるのに、自分の力不足を棚に上げて、「このアイデア、面白くない」と結論づけて放り出してしまうのです。
これもアイデアがないのと同じ状態です。
それでまた「ああ、どこかにアイデアが落ちてないかなあ」と嘆くわけですね。
アイデアはあるんです。育てられないだけで。
アイデアを育てられるようにするには、とにかく諦めずに書き上げること。
それをやっていかないと、いくら取っ掛かりのアイデアを得たところで、「アイデアを得た」という状態にはならないのですから。
(ヨルモ)
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公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。