「小説の取扱説明書」~その54 視点はブレてもかまわない
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第54回のテーマは、「視点はブレてもかまわない」です。
現代小説では語り手はいないがごとく振る舞う
19世紀の大衆小説はほとんどが神の視点で書かれました。
しかし、時代を経るごとに神の視点的な書き方は影をひそめ、人物視点へと移行していきます。
なぜでしょうか。神の視点でもだめではないのですが、作者が邪魔なんですね。
紙芝居でいえば、紙芝居屋さんがストーリーを語っている部分はいいのですが、紙芝居屋さん自身の価値観を押しつけて、「こいつは悪人だ」「諸君、こんなことが許されようか」と言うのが邪魔なんです。
出来事だけを書いてくれよ、解釈は自分でするから、と読者は思うわけです。
さらに加えると、「作者と物語」には距離がありますから、下手な人が「作者=語り手」の視点で書くと、あらすじのようになりがちです。
すると、臨場感がなくなります。現場の雰囲気もリアルに伝わらない。
では、現場の雰囲気を一番知っているのは誰でしょう。出来事が起きた現場にいる主人公ですよね。だから、作中の物語現在を書く場合は、もっぱら主人公の視点を借りて書くのです。
これが人物視点という書き方ですが、こうすると話がリアルになり、まるで場面に立ち合っているような錯覚を起こします。
となると、もはや語り手である作者はいらないとなり、現代の小説では語り手は後ろに引っ込み、いないがごとく振る舞うというわけです。
視点は敢えてブレさせることも
ですが、だからと言って、語り手が主人公(登場人物)を通さずに書いていけないということでもありません。
六本木。夜。
構想ファッションビルの二十四階。店内をぐるりと囲む巨大なガラス窓から、東京タワーや汐留の再開発地区をフィーチャーした夜景が一面に広がっているのが見える。
ビストロ「KIRAKU」。
その日、朝比奈仁は、店のキッチンでガーリックライスを炒めていた。
(秦建日子『サイレント・トーキョー』)
登場人物の朝比奈仁はキッチンにいます。
だから、たぶん、「東京タワーや汐留の再開発地区をフィーチャーした夜景」は見えないでしょう。この部分は人物を通さずに、語り手自身が語ったナレーションの部分ですが、しかし、それがゆえに情景がよくわかります。
いい悪いという話ではありません。うまくやればいいということですね。
作者は「作者<人物<場面」という上位の次元にいますから、俯瞰的に説明するのは得意です。語り手自身の価値観を書き連ねたりしたら、司馬遼太郎レベルでもないとせっかくの作品が台なしになりますが、章の書き出しや場面転換のときは語り手自身のナレーションがあってもいいですし、実際そうやっている三人称小説はよくあります。
ただし、くれぐれも、「ここだけ急に客観三人称になったぞ」のように違和感をもたれないように、うまくやってくださいね。
(ヨルモ)
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ヨルモって何者?
公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。